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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 その黒死の暴威を彼らは知りたくなかった
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AE(アナザー・エピソード)その忍び寄る悪夢を彼女は知りたくなかった

「ハァッ!」


 鋭い蹴りがフリアクイーンに突き刺さる。

 エンリカの強烈な蹴りだ。普通なら一撃死になるだろう。

 しかし、ダメージは受けるが、周囲のフリアールが吸血することでフリアクイーンの体力が回復する。


 フリアールの吸血で回復した余剰分がフリアクイーンに届けられるのだ。

 皆フリアールには気付いておらず、フリアクイーンが眷族が採取する血で回復するなど知らないため、フリアクイーンへ集中攻撃を行っている。


「何してんのリエラさん! 貴女も参加して!」


 既に全裸になって魔法を放っているアカネから激が飛ぶ。

 でも、無理だ。私には無理だ。

 リエラは思わず頭を抱える。

 死にたくない。死にたくなかった。

 なのにステータスには黒死の文字が躍っていた。


 あの人がいたのなら、泣き付いてしまいたい。

 死にたくないと、助けてと、必死にしがみついて無様に命乞いをしてしまいたい。

 きっとあの見えないお人良しならば、リエラを助けてくれようとするだろう。と。

 酷いのは分かってる。彼を利用しようとしていることも分かってる。でも、それでも……


 目の前に、フリアールが飛んでいるのが見えた。

 こいつが、こいつらがっ。

 手にしたアルセソードを思わず振り被る。


「うあああああああああああっ!!」


 思い切り振り降ろした一撃。

 しかしフリアールは潰せなかった。

 隙間に入り込んでいたフリアールが再び飛ぶ。


「あああっ、あああああああああああああああああっ!!」


 もう、自分でも何をしているのか分からなかった。

 リエラは必死に剣を振る。

 迫るフリアールを剣の腹ではたき潰し、足で踏み潰し、剣で叩き潰す。


 でも、フリアールは部屋に絨毯のように存在していた。

 リエラ以外誰も気付いておらず、体中に蚤が集っている。

 きっとヘンリーも知らないのだろう。


 来るべきじゃなかったのだ。

 ヘンリーを見失った時点で四階への階段を塞げばこんな事にはならなかった。

 アルセイデスを一体見捨てるだけだったのだ。

 そのうち黒死で死んだヘンリーたちが地下四階以降で見つかるだけのことだった。


「やだ。こんなのやだッ……」


「リエラッ! 何してんのよ! 私が裸になってまで参戦してんのよ!」


「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない……」


「リエラ?」


 アカネはふいに、リエラの横に落ちていた魔物図鑑に気付く。

 そっと拾い上げ、真実を知った。

 思わずリエラの欄を見る。


「リエラ……これ……」


 問い詰めようとしたがリエラは既に錯乱状態だった。

 これでは話などできはしない。

 舌打ちして周囲の仲間を登録し直す。


「自分は大丈夫、掛かって無いのはデヌ、葛餅だけ。リエラとエンリカ、プリカ、ネフティア、ロリコーン侯爵、チグサは黒死初期、否、何人かに中度の文字があった。そして……そいつらの動きが遅くなってる」


 そっと、アカネはヘンリーたちに図鑑を向ける。

 魔物図鑑を知らないらしい二人はこちらに警戒感すら抱いてない。

 ヘンリーは軽度の黒死、ホーキンスは既に中度になっている。

 アルセイデスも軽度ながら黒死の状態異常だ。


「一応、回復魔弾で何とかなればいいけど」


 リエラの魔銃を引き抜き状態異常回復魔弾をリエラに打ち込む。

 しかし、黒死の文字が消えない。

 アカネは思わず舌打ちした。


「エンリカさん。皆を下げて、こっちに全員集合!」


「え? でも……」


「さっさとしなさい!」


 マッパのアカネに怒鳴られたエンリカ達が不服そうに戻ってくる。

 が、リエラの焦燥感ある顔を見て事態が逼迫ひっぱくしていることを知った。

 口々にリエラに声を掛けるが、反応はなかった。


「フロートシールド。灼熱怒涛、烈風掛け合わせ。ミックスマジック発動……炎邸の床ヴォルカニックフロア


 アカネの魔法によりパーティーメンバーが浮かび上がる。

 さらに彼女の真下を中心にして地面を舐めつくすように炎が広がっていく。


「なんだこりゃぁ!?」


「こんな魔法初めて見たぞ!? ヘンリー!」


「クソッ、テメェら人質っつーかアルセって魔物がここに居ンだぞ!?」


「残念ね。どうせ死ぬならあんたたちを纏めて潰した方がいいわ」


「クソ、全裸の変態女がっ」


「……私は変態じゃないっ!! こ、殺してやるッ」


 思わず叫んだアカネは悔しげに口を閉じ小さく呟く。

 呪詛にも似たその言葉を肯定するように、炎が猛りヘンリーへと牙を向いた。


「しゃーねぇ。シールド張るか」


 仕方無い。といった顔で自分とホーキンスにシールドを張り巡らせるヘンリー。思わずアカネが舌打ちする。

 だが、ヘンリー達は気付いていなかった。

 その舌打ちが彼らを焼けなかったという舌打ちではなく、ヘンリーのシールドに守られる形で何体かのフリアールが炎を逃れたことであることを。

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