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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 その黒死の暴威を彼らは知りたくなかった
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その先発隊になにがあったのかを僕らは知らない

「はぁっ!」


 気合いの入った斬撃がスタチューを真っ二つに切り裂く。

 カインの一撃は石像すらも切り裂くようだ。勇者ヤベェ。


「フンッ」


 そして打ち漏らしはクーフ先生の柩が叩き壊す。

 迫り来る敵が弱過ぎるのか、パーティーが強過ぎるのか。

 水晶勇者様の闘いすら見ることなく僕らは既に地下二階へと来ていた。

 ここまで所要時間、たったの10分。

 歩くのに掛かった時間が9分ちょっとで、闘いの時間は40秒もないと思う。


 出会った瞬間敵が消し飛んでいるのでもはや戦闘があったかどうかすら不明だ。

 バットラットが急襲するも、ミルクティの二丁拳銃が火を噴きコ・ルラリカが連発で発動する。

 いや、一つでも全滅のオーバーキルですよ。何発無駄にしてんの!?

 最後に銃口に息吹きかけるのとかいらないから。この魔銃煙でないから!


 僕の右手にはアルセ。腕を振りながら逆の手に持った不折れネギをぶんぶん振りまわしております。

 気分はアルセ探険隊、だね。

 僕の左腕をぎゅっと掴んでいるのはパルティさん。

 ちょ、胸、胸が当ってるんですけど!?

 不安そうにギュッと僕の腕を握るパルティさん、役得です。

 あの、ルクルさん、その、背中にくっつくのは良いんですが時折首締めようとするの止めてくれません?


 そして暇そうに僕の周囲を歩いているアルベルト、辰真、フレイムベアー、ルグス、バズ、ワンバーちゃん。

 一応バズは索敵をしてくれているが、この階層に出て来る鼠どもが雑魚すぎて役だっていません。

 バックアタックに対して咄嗟に反応はするものの、ミルクティの射程が長すぎるため、敵が近づく前に殲滅されてしまう。


 そのため、ちょっと悲しそうな顔をしていた。

 いや、バズが役に立たないだけじゃないよ。

 ほら、序盤は役に立つ仲間キャラも中盤終盤に向うにつれて役立つ仲間一杯になって馬車待機になるっていうね、ほら……ん? あれって結局最後まで馬車に入ったままの役立たずに……いや、違う。違うんだよバズ! 君は強い、間違いなく強いからっ!


 僕は聞こえないのに言い訳を叫び続けた。

 本当に、バズは強いんだ。強いんだよ!

 でも、何故だろう。自分の言葉に真実味を感じなかったのは……


 三階へと降りる。

 ネズミミンも鉄鼠も相手にならない。

 ポイズンラットは近づく前に氷漬けである。


「そろそろ最後の部屋になります」


 パルティの言葉と共に、最後の部屋へとやってくる。

 地下四階への階段がある場所だ。

 そこへ着いた時、僕らは思わず息を飲んでしまった。


 誰もいない土造りの部屋。

 中央に地下へと向かう階段がたった一つ。

 落盤させたはずの階段は岩が撤去されており、再び地下への道が口を開いて待っていた。


 先発隊もヘンリーたちも姿が見えない。

 全ての部屋を見て回ったのに、だ。

 つまり、皆がどこにいるのか、この開かれた道が示していた。


「おい、なんだここは?」


 アルベルトが思わず呻く。

 近寄り吹き上げる謎の威圧感を感じたようだ。

 皆、分かっているのだ。ここから先は冗談では済まない、本当に命がけの洞窟であると。


 ゴクリ。誰ともなく喉が鳴った。

 一歩、また一歩、カインだけが歩き出す。

 驚くクーフが慌てて待ったを掛けるが、カインは止まらない。

 階段を一段踏み降り、こちらに顔を向けた。


「皆はこの先だろう? なら、行くしかない。死にたくない奴はここで引き返せ。ここから先は、多分地獄だ」


 それでも、あの外道を逃したままではいられない。

 ここで決着を付ける。

 カインは決意を新たに前を向く。


「ネッテ。俺に力を」


 ただ一人、地下四階へと向って行くカイン。

 アルベルトとクーフは互いに顔を向ける。


「一度は死んだ身だ。惜しくは無い。来るか、颯太?」


「我が身は水晶勇者アルベルトと共に。参りましょう我が主」


 二人も互いに頷き歩き出す。二人は僕らを一度も見ることなく、地下四階へと向って行く。


「ど、どうするんですか?」


 青い顔のパルティが僕に聞いて来る。

 僕は、当然アルセに従うよ。アルセはどうしたい?

 視線を向けたアルセは、パルティを見て、皆を振り向く。


「姫、私はあなたの成すままに、元より死したこの身ならば皆の盾と成れましょう」


 ルグスはそういうとアルセの先を浮遊して階段に向う。


「ブヒ」


 ルグスに遅れること数秒、覚悟を決めたバズもまた、歩き出す。

 妻に任せて自分がここで立ち止まる気はない。ということらしい。

 それに感化されるように辰真もアルセを追い抜き階段へと向かう。

 死を恐れて何が漢か。と。


 そして、折角アルセに選ばれたのでここで引き返せば姫に怒られる。とフレイムベアーが辰真の後に続く。

 そういえばアルセ、なんでコイツ選んだの? スカイベアーの方が闘いは強そうだよ?

 こいつ焼かれてる熊のぬいぐるみみたいでちょっと怖いんだけど? 中央の熊真っ黒焦げだし。


 フレイムベアーの背後を歩き出すアルセ。

 彼女は行く気満々のようです。

 仕方無いので僕も行くしかなさそうだ。

 後ろ髪引かれる思いでパルティの手を解いて彼女の頭を撫でる。

 あっと驚く彼女を置いて、僕はアルセと共に歩き出した。


 アルセを追うようにワンバーカイザーもやってくる。そういえばなんでワンバー……待てよ。バズとワンバーを選んだのってまさか。アルセさん、あなた、本気ですか? この二人、悪魔を呼び起こすための贄ですか!?


「ちょ、ちょっと待って。正気!? そこはアカネさんが塞いだ場所でしょ、アルセも行くべきじゃないって……」


「そのアルセが行こうとしてるなら、行かなきゃいけない時なんでしょ。ミルクティさんは戻って皆に知らせて下さればいいと思います」


 驚くミルクティを放置して、パルティは再び僕の腕を取る。あれ? そこ気に入ったの? というか付いてくるの? どうしよう、これ、僕モテ期来ちゃいましたか!?


「ああもう! 行くわよ! 行けばいいんでしょ!」


 なんか一人叫んで走ってくるミルクティ、最後の一人もちゃんと追って来たようです。

 え? ルクルさん? 僕がこっちきといて付いてこない訳がないじゃないですか。

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