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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その集まり過ぎたモノたちを彼らは知りたくなかった
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その王族の挨拶を彼らは知らなかった

「少し、よろしいかな?」


「あら? ニンゲンさん?」


 会話が途切れた瞬間を見計らい、マイネフラン国王が代表するように声を掛けてきた。

 気付いたアルラウネが国王に振り向く。


「初めまして森の主の方々。このニンゲンの国、マイネフランを治める王をやっている者で……」


「お堅い挨拶はよろしくてよ。我々は魔物ですもの、人間の個体名を窺っても分かりませんわ。この国の王というのが分かればよいのです」


「随分と魔物に理解あるようですね。眷族たちも今回の招待、喜んでおります。よろしければ今後もよき付き合いをしていきたいですわ」


 スクーグズヌフラは言葉を切って、マイネフラン王の背後を見回す。

 細めた眼でニヤリと笑みを浮かべ、赤いルージュを引いたような唇をペロリと舐める。


「ふふ。素敵な殿方も沢山いらっしゃるようですし、私、皆様ともっと仲良くなりたいですわ」


 ちなみに、ドリアードの進化系と思われるスクーグズヌフラさんは、当然ながら誘惑が得意なようです。しかも、ドリアードが相手を逃してまた採取するのに対し、このスクーグズヌフラさんは気に入った相手が腹上死するまで放さないそうだ。なにそれ怖い。

 アルセは絶対真似しちゃだめだからね。


 と言っても進化系のアルラウネもこっちはこっちで怖い存在なんだよね。

 そっとアルラウネを見ると、周囲を見回し、ダンシング中のカップルに視線を固定する。

 踊りながら他の人との交流を優先している人たちだ。

 彼らは今回の集まりを社交の場として利用しているので食事は殆ど行わない。

 平常運転の上位貴族の連中である。


「踊り、いいですわね。マイネフラン王、私達も踊ってよろしいかしら?」


「おー!」


「あら、一緒に踊ってくれますか?」


 にこやかに微笑みアルセの手を取るアルラウネ。

 マイネフラン国王の声で急遽森の主たちによる踊りが始まった。

 アルーナとアルルーナだっけ? たちがハミングを始める。


 初めて見る森の民たちの演奏に、驚き目を見張る王侯貴族。

 皆様もどうぞ。とアルラウネがアルセと共に中央へと向かうと、妖精っぽい楽しげな曲がアルーナたちから紡がれ、アルセとアルラウネを中心にアルセイデス達が踊り出す。


 森の中だと幻想的だったんだろうけど、城内だとなんというか、不思議な感じだ。

 スクーグズヌフラが適当な男を誘惑して踊り出す。あれはどっかの国の王様だな。威厳が凄く厳つい顔をしている。

 といってもスクーグズヌフラの美貌に顔が赤くなっているけど。


 ワザと身体をくっつけるように踊るスクーグズヌフラに徐々に警戒が解けて行く王様の顔がゆるんで来るのが恐ろしかった。

 あの堅物そうなおっさんでさえ落ちるのか。妖精の誘惑恐るべし。


 どこからともなくやってきた妖精たちまで参加しだして、魔法球が飛び交いだす。淡く輝く光の珠が、城内を幻想的に彩って行く。

 王族たちの挨拶やら形式やらを完全に破壊して、踊り続ける妖精たちに感化されたのだろう。王族たちも各々曲に合わせてダンスを始める。


 なんかもう、マイネフランだからこういう事もある。みたいな諦めが顔に窺えるようになってきた。

 ある意味染まってきたみたいだ。皆順応早いなァ。ああ、だから王侯貴族やってられるのかな?

 って、ひぃっ!? マリナさん、鞭を王子に巻きつけて独楽みたいに回しちゃダメだっ!?

 一部おかしな感じに出来あがってる人たちが居たけど、もう、どうにでもしてください。


「ふむ。随分と楽しんでいるな」


「あ、クーフさん」


 リエラのもとへやってきたアルベルト王子とクーフ。

 リエラの言葉を聞いてルグスさんが寄ってくる。


「クーフと言ったか。我が主が世話になっていたらしいな。我が従僕したからには姫は安全となるが礼を……」


 二人の視線が交錯した瞬間、謎の緊迫感が走った。


「貴様……剣持颯太か!?」


「杜若駿か!」


 ちょ!? え? 知り合い!?

 というか、やっぱりルグスは異世界人じゃないか!?

 どうでもいいけど剣持ちの颯太ってそのまま剣持颯太さんだったんですね。初めて知りました。


「あ、あの、お二人はお知り合いだったのですか?」


「二人、というか俺も知り合いだ」


「水晶剣の王子か。随分と容姿が変わったな。青白くなっているぞ」


「お前、何千年前だと思ってんだよ。だが、久しぶりだな、倒したと思っていたが生きていたとは思わなかったぞ駿」


「ふん。貴様等がアネッタを救えたなら違う未来もあったがな。結局アネッタを救う事は我でもできなかった」


「アレは仕方無かろう。寿命だったのだ」


「あの時姫が居らっしゃればと悔しく思うよ。あのお方は素晴らしい。お仕えできた事を誇りに思う。できるならば、アネッタにも会わせてやりたかった」


「そうか」


 何やらお三方だけが分かる昔話で感傷に浸っているんですが、リエラ達が蚊帳の外で戸惑ってますよ皆さん。

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