AE(アナザーエピソード)・その勇者が動きだしたことを僕は知らない
「暇だ」
冷たい石畳に寝転びながら、ヘンリーは溜息を吐いていた。
牢屋から出てきてやってきたのはマイネフラン王国の牢屋だった。
ホーキンスまで捕まったので脱出するのも難しい。
本来ならあの二手だけで充分王国を蹂躙できたはずだった。
まず英雄のゾンビ共で街中をパニックにさせて冒険者と騎士団を街に分散させる。
隠蔽石などで秘密裏に運んできた兵士たちを使い、四つの門を総攻撃。防衛兵を撃破したら直ぐに王城に駆けあがり王と王子を撃破。カインとネッテだけは生かしたまま、祝福に来た王侯貴族も皆殺しにする。
そしてそれが全国に告げられる。
マイネフランは各王国の頭を集め、殲滅してしまう計画を実行したと吹聴する。
そうすれば、生き残ったネッテとカインが国王になる他なく、王国の防備がガタガタな状態で無数の王国と敵対するという抱腹絶倒な状況が完成したはずだったのだ。
最後は連合軍により捕まった二人が大罪人として断頭される。それがヘンリーが描いた未来であった。
まさかこんな結果になるなど、予想外すぎて思考回路が止まってしまっている。
次はどうするべきか、考えるのもおっくうだ。
王族共の集まりに、不死王などという化け物がピンポイントで紛れこんでいるなど、普通は予想すら付かない。
想定外過ぎる。
「いやー、参った参った。まさか、あんな小物っぽいヘンリーが見れるとは思わなかったよ」
「うるせぇ。ぶっ殺すぞホーキンス」
「でも、さっきの話、本当かな? アルセ姫は未来が見えるって」
「はっ。魔物がマイネフランを守るために不死王を連れて来たって奴か? ありえねぇ冗談だ。偶然だよ偶然。偶然……」
本当に、偶然か?
言いながらも、自分はそれが偶然だとは思っていない。
ヘンリーがマイネフランに現れることは誰にもわからなかったはずだ。
ネッテやカインも知らなかったし国王だって寝耳に水な状態だった。
だから、ネッテ達のパーティーとしてコイントスに居たらしいアルセが分かるはずがなかった。
だが、もっと早く、予想して仲間を集めていたとしたら?
アルセはゴブリンに囲まれ滅ぼされるはずだったマイネフランを、魔物達を仲間にして防衛力を集め、わざわざセルヴァティア王国よりも先にある川に居た葛餅をピンポイントで見つけて連れ帰ったらしい。
その葛餅の御蔭で、魔王化したゴブリンを討伐したと、連行して来た兵が楽しげに語っていた。
つまり、アルセの行動は、まるでマイネフランを守るように動いているようにしか見えないのだ。
ヘンリーはソレに気付いてゾクリとした。
あの場に居たアルセという名前の小型の魔物。
頭の上で踊る花が印象的だったので嫌でも覚えている。
満面の笑顔は何も考えていないアホの子の笑みだ。
パイラと楽しげに笑っている姿からは用意周到に動いているようには見えなかった。
だが。だがだ。アレが本当に未来を知っていて、ソレを防ぐように動いているとしたら?
小さなアルセイデスが、不気味な化け物にしか見えなくなってきた。
全身が震える。
未だかつて遭遇しえなかった脅威だ。
「ククッ。なんか、久々に燃えるな」
「ヘンリー?」
「そろそろ頭が回りだした。脱出するぞ」
「おーけー。おーい牢番、鍵くれ」
ホーキンスが呼びかける。
アホかコイツは? そんなもので牢番がわざわざ脱走の手伝いなどするわけが……
そんな溜息を吐きかけたヘンリーの目の前で、牢にやってきた牢番が普通に鍵を開けてホーキンスを脱走させる。
「はぁ?」
「こういう事もあろうかと、牢番買収しといたんだ」
「俺は寝てた。あんたたちは何らかの方法で脱出した。でも俺は寝てたから知らない」
「罰は結構キツイが脱走を手伝ったよりは軽いからな。ほれ、これが金の在り処な」
下卑た笑いを浮かべる牢番を見ながら牢から脱出する。
なんか、一気に白けた気がするが、まぁいい。
「で、どうするヘンリー?」
「ああ。まずは変装してアルセに付いて調べよう。アレは多分ただのアルセイデスじゃねぇ。こっちもいろいろと策を練らねぇとやられる。ふふ、なんか勇者らしいな。巨大な魔王攻略作戦か」
「おや珍しい。ヘンリーが勇者する気だ」
「俺は勇者だ阿呆」
二人は互いの悪口を告げながら歩き出す。
途中、巡回兵を気絶させ、兵士に変装してさらに脱出。
王城を抜けだしたヘンリーとホーキンスは村人をも暗所で気絶させ、村人の服を着込んで街へと紛れこんだ。
噴水前を集合場所に選び、ホーキンスと別れる。
ギルド周辺で聞き込みを始め、アルセの情報を集めて行く。
その過程で相手のパーティーの凶悪さを再認識させられたヘンリーは醜悪な笑みを浮かべはじめた。
「楽しみだなぁカイン。今いる魔物どもが一斉に王城に詰めかけたりしたら、どうなるんだろうな? クク。フフフ。ハーッハッハッハ!!」




