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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その集まり過ぎたモノたちを彼らは知りたくなかった
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その聖女がいきなり担当することを彼女は知りたくなかった

 パレードが終わると結婚式が始まる。

 壇上に現れた司祭はあのロリコン神父。ではなく、なんか厳かなご老人。

 ただ、ちょっと金の匂いがぷんぷんするゴツイ指輪を幾つか填めてるので、なんとなく性格がわかるというか。


 そんな司祭が聖書を片手に特設祭壇にゆっくりと上がる。

 特設された祭壇は簡素とは言い難い。

 ステンドグラスこそないものの輝く十字架が日の光を浴びて煌めき、清浄な雰囲気を醸し出している。壇上に置かれた祭壇から、赤絨毯が敷かれており、かなり遠くにそのスタート地点が設置されていた。このスタート地点から新郎新婦が歩き、祭壇の前で永遠の愛を誓うのだろう。

 

 民衆も魔物も一緒になって初めて行われる王族の結婚式に興味津々である。

 カインの名が呼ばれ、カインが赤絨毯のスタート地点に現れる。

 直ぐ横に側女が付き、カインの襟など折れた場所がないかを確認して一歩下がる。

 って、あの側女、ルルリカさんじゃん。


 ごくり。喉を鳴らすカイン。

 その姿は普段の冒険者の恰好とは似ても似つかない。

 まるで王子と思えるほどに豪奢な服に身を包んだカイン王子である。

 さすがにカボチャパンツではなかったので笑いを起こす事はなく、まるで絵本や少女漫画に出て来そうな本当に王子様と言える容姿だった。

 二枚目な顔と相まって二の句が継げない程に似合ってやがる。

 畜生、すげぇよカイン。


「聖女様、そろそろご準備を」


 カインに見入っていた僕は、そんな声に我に返る。

 気付けば直ぐ横のリエラに耳打ちする兵士が一人。

 一瞬なんのこと? といった顔をするリエラに、兵士は淡々と告げる。


「間もなくネッテ王女がご入場なさいます。あちらの馬車より降りられますので、ソレと同時に祝福の音楽をお願い致します。聖女様にぜひとも祝福をと国王陛下が」


 強制イベントもう発生ですか!? リエラの心の準備がまったくありませんけどっ!?


「こちらです、どうぞ、グランドピアノは用意できませんでしたが、ネッテ王女様からはあなた様が居ればどこでも演奏は出来ると聞いております」


「ネッテさぁん!?」


 驚くリエラが連れ去られました。

 僕はアルセの頭をポンと叩く。

 どうしたの? と視線を向けるアルセに、行って来るよ。と告げて歩き出す。

 ルクルが付いて来ようとしたので、彼女を回れ右させてアルセの護衛を任せる。

 身体に僕が触れて来たので顔を赤らめていたルクルだが、アルセの肩を無理矢理持たされたことで意図に気付いたようだ。不安そうにする彼女の頭を撫でて一人、人込みに消えていく。


「るー」


 寂しそうに鳴くルクルさん。いや、ちょっと離れるだけだからね?

 なんでそんな見放された顔するの!?

 人込み掻きわけ、リエラのもとへやってくる。

 不安げに兵士に連れて行かれるリエラの腕を掴んでやると、一瞬息を飲んだ後、僕と気付いて安堵の顔になる。


「ここでお願いいたします」


 一際目立つ祭壇横の円型スペースに連れて来られたリエラ。直ぐ横ではハープを使い演奏中の宮廷楽師がいる。

 薄眼を開いてリエラを見、来ましたか。と安堵したような顔をする。

 そんな動きに、目ざとい王侯貴族が何が始まるのかと興味深げにリエラに視線を向けた。


「では、よろしくお願いします」


 リエラを残し、兵士が下がる。

 僕は直ぐ横にいるけど、見えないので円の中に居るのはリエラだけになる。

 視線の集中砲火を浴びて青ざめるリエラ。

 あまりこのままにしとくとリエラの胃に悪いので、アイテムボックスからピアノを取りだす。


 ゆっくりと歩いたカインが祭壇を昇る壇上前へと辿りつく。

 ここでネッテが来るのを待って、一緒に昇るようだ。

 司祭の前に辿りついてから口上があるらしいのだけど、リエラがピアノ演奏するのはネッテが歩きだして壇上を上がるまでらしい。


 胃を押さえはじめたリエラを椅子に座らせる。

 肩に手を置き大丈夫だよ。と語りかける。

 大丈夫、リエラはここで弾く真似をするだけでいいんだ。


 心配そうな顔のリエラの頭を撫で、楽譜を取りだす。

 まだ完全に覚えきれてはいないんだ。楽譜を見ながらじゃないと弾けないのです。

 リエラの横にもう一つ椅子を取り出し隣に座る。

 疑問に思うかもだけど、座らないとさすがに弾けないのでこればっかりは許してほしい。

 バレたらバレただよ。ね、リエラ?


 カーペットの先に馬車がゆっくりと人垣を掻きわけ現れる。

 丁度降り口がカーペットの前へと合わさり、ドアから現れるジェームス王子。

 どうやら国王ではなく王子がネッテと共に歩いて来るようだ。


 といっても日本にあるような結婚式ではないので、ネッテの服装は純白のドレスではない。

 ネッテのピンクの髪をさらに濃くしたような赤いドレス。普段のネッテとは似付かない、まさに御姫様と思える綺麗なドレスだ。それに髪も降ろしているので歩くたびに宙を舞う桃色の髪が自然と周囲の視線を集めて行くのだろう。ピアノ弾いたりしなければずっと目で追いたいところだ。

 とりあえず動画システム使って後で編集してみよう。上手くいけば見てない画像を保存できるかも。


 ジェームス王子に手を引かれ、ゆっくりと馬車から下りて来るネッテ。

 こうして見ると、本当に結婚するんだなぁ。と感慨深いモノがある。

 さて、そろそろ始めよう。


 曲は決まっている。前に弾いた二曲は今の状態に合わないので却下。使える新曲は二つ。

 僕が出来る中でこの状況に相応しいのは一つだけだ。

 そう、よろこびの歌しかない。いくよ、リエラ!

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