そいつが少女の視線で何を思ったのか、彼らは知らない
睨み合いというよりは笑顔対メンチのにらめっこが続いていた。
物凄い長い時間見続けていたように思う。
焦れたようにツッパリが叫ぶ。
「オルァッ!」
しかしアルセは笑顔のままだ。
むしろ口を開いて微笑んでいる。
頭上のスライムモドキだけは怯えてる様子だが、アルセが怯えていないのを察しているのか彼女に必死にしがみつくように平べったくなっていた。
「オラオラオラオラオラオラオラオラァッ!! ダラァッ! ゴルァッ! ラァッ!!」
視線だけを固定して角度を変えて睨むツッパリ。
僕がやられる側だったら間違いなくオシッコちびりながらジャンプしていることだろう。
それぐらい迫力のある睨みつけでした。
しかし、アルセは全く意に介さない。
その光景に、カイン達も闘うべきなのかすら迷って武器に手を掛けたまま動けないでいる。
凄い。ある意味凄いよアルセ。あんな恐い人というか魔物相手に笑顔で居続けるなんて……
単に相手を恐がっていないだけみたいだけど、それだけでも十分過ぎる勇者だ。
むしろ全く動じないアルセにツッパリの方が汗を流し始めている。
心無し必死さが伝わって来るようだ。
恐がれ、俺を恐れろ。視線を逸らせ、頼むから俺から視線を逸らすか恐がってくれ。
そんな想いがなぜか伝わって来る必死さを醸し出していた。
けど、アルセには通じない。
満面の笑顔で、見るモノを和ませる大輪の花のような笑みで彼を射抜き続ける。
いつしか、威嚇の声すら上がらなくなった。
意気消沈するように、ツッパリは冷や汗塗れで視線を下に向けた。
あ、アルセの勝利だっ!?
ツッパリは悔しかったのだろう。
そのままアルセに背を向け、肩を落としながら去って行ってしまった。
アルセがそんな後ろ姿に手を振っている。
まるでバイバイと言っているように。
それに背中越しに気付いたのだろう。ツッパリは泣きながら走り去ってしまった。
……アルセ、最強伝説。
いや、冗談だけどね。
でも、凄いな。多分まともに闘っていたらリエラかネッテ、バズ・オーク辺りが殺されててもおかしくない闘いになっていたはずだ。
それほどに、ツッパリの攻撃力は高く、動きも素早かった。
なにせ一人で数十匹の狼モドキを素手で倒した魔物だし。
カイン? なんやかんやで無駄に生き残りそうだ。あいつ殺しても死ななそうだし。
当然、僕が思ったことは彼らも思っていたらしい。
ネッテとリエラがアルセに近づいてありがとうと礼を言いながら抱きしめていた。
その光景を見たバズ・オークが父親の目をしながら頷いている。
あいつは一体どんなポジションに居るんだろうか?
アルセの子守役か?
そんなバズ・オークの横でカインとクーフが互いに顔を見合わせていた。
「奴は……魔物だよナ?」
「ツッパリ相手に睨み合いで勝っちまいやがった……普通2パーティーくらいで戦う魔物だぞ?」
うーん。アルセって本当に魔物なんだろうか? 謎過ぎる。
笑顔満面のアルセは二人の女性に抱きしめられながら無駄に楽しそうに頬ずりされている。
あ、リエラさん。そんな周りを見回さなくても、今回僕は無関係ですよ?
ツッパリを撃退した僕たちは、なんとか無事に町まで戻ってくる事に成功した。
カイン曰く、ここでまた数日準備を行い、もう一度あの森に向うらしい。
そこでクーフが居たかも知れない遺跡を探してみるのだと。
一応その前にギルドに連絡付けて周辺の情報を聞きだしたいらしいけど、平原を越えた先の森なので殆ど向う冒険者がいないらしいのだ。
まぁ、あの辺りは危険らしいしね。
狼モドキだけでも危険なのに、時折ツッパリでてくるみたいだし。
とりあえず、町に着いた僕らは、いつもの如くギルドを目指す。
まずはギルドで荷物になっている討伐部位を全て売っぱらい身軽にし、肉を加工して貰ったりする。その後武器屋で武器のメンテナンス。教会で弾丸補充……はまだ必要無いから身体に異常が無いかの検査かな。
その後は宿を取って自由行動になるだろう。
一日目は疲れただろうから皆宿の中で熟睡だろうけど。
「ほぅ。これが今のポリスであるか」
「ポリ……? まぁそれなりに大きな町だな」
「ふむ。中央に王城を建てているのか。しかし臭いな。下水の処理が満足にできていナイではないか。退化したか?」
「あんたの生きてた時代がどんなものかは知らないけど、今の常識としちゃ汚物は空から降り注ぐもんだ。民家通る時は気を付けろよ。頭から他人の糞被ることになるぞ」
「我が時代では水葬にしていたものだが……これも風化ということか。人の営みは移ろい易きモノよな」
でもシャワーは完備なんだよね。トイレくらい出来ててもおかしくないんだけどなぁ。
あ、ちなみにアルセイデスは魔物の中でもトイレはしない種族らいしです。
全て体内で魔素と酸素に分解して光合成時に吐き出すんだとか。エコ過ぎる。




