AE(アナザー・エピソード)・その兵士たちが遭遇した悪夢を僕は知らない2
北門攻略部隊に指名されたダーリティア帝国兵もまた、勇者の合図に呼応するように動き出していた。
唐突に現れ襲撃を仕掛ける漆黒の鎧を着た兵士達に、マイネフラン守備兵団はにわかに色めき立っていた。
だが、直ぐに体勢を立て直すと、その背後からは冒険者たちが後から後からやってくる。
丁度王城から近いという事もあり、祭の準備に駆り出されていたクラン『天元の頂』が真っ先に駆け付けたのだ。そのメンバー数はクラン全員ということもあり、30人はいる。
兵士程の熟練度はないが、魔物相手に闘い生き抜く術を手に入れた中級冒険者は、的確なチームプレイで門の守りを強化していく。
クラン長バズラックの号令で動くクランの防御は厚く、それにこまねくほどに次々と冒険者たちがやってくる。
ダーリティア帝国の騎士団長レティアは膠着し始めた戦線に焦りを見せていた。
「どうなっている!? なぜこれ程速く冒険者共が? しかも数が多い」
「敵は2000か。どこの軍か知らんが、こんな日に襲撃とは愚かしいな! 聞けい匹夫ども! 今この国にはAランクパーティーが四つもいるのだぞ! 間もなく赤き太陽の誓いもやってくる。さっさと尻尾巻いて逃げねば死ぬぞ」
「ふざけやがって。我等帝国の槍がそんな簡単に倒せると思うなよ!! ファランクス隊、突撃用意!」
レティアの言葉で長槍を持った兵士達が構える。
長槍により突撃して防備を突破する。そんな作戦だった。
行われれば、守備兵にも多数の被害が出る。帝国の得意戦法。
レティアが突撃の合図を降ろす寸前だった。
「タスケテーッ!!」
「なっ!? 何だ今のは!?」
突如、背後にある聖樹の森から声が響いた。
ダーリティア帝国もマイネフラン王国も、全員がごくりと喉を鳴らす。
少しの静寂。それを打ち破るように森の奥から何かがやってくる。
「「「「「「「「「「タスケテーッ!!」」」」」」」」」」
ダーリティア軍の背後から、ヘルピングペッカーの群れが現れる。
一際巨大で凶悪な顔をしたヘルピングペッカーを筆頭にして、100を越える群れがマイネフラン目掛けて駆けて来たのだ。
魔物大行進? こんなときに?
タイミングが良過ぎる。レティアは己の不運に舌打ちする。
だが、被害は出るがヘルピングペッカーだけならば問題は……
「にょっき」
「にょきにょきにょっき」
ヘルピングペッカーの背後から、葉っぱで出来た人間が多数出現した。
手にした槍を持った偽人たちは、一部ヘルピングペッカーに跨り槍を振りまわしてはダーリティア兵へと襲い掛かってくる。
「何だ奴らは!? 森の原住民か!?」
「タスケテー」
バクリとヘルピングペッカーに頭を咥えられた兵士がぺいっと振り投げられて空を舞う。
そんな兵士の飛ぶ先には、森の中から顔を出す王冠を被ったようなトサカの肉食竜。
ティアラザウルスは出現と同時に兵士をべしりと叩き落とし、天に向かって大きく口を開けた。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!」
「てぃ、ティアラザウルスがなぜ!?」
「あ、アローシザーズまで来てやがる! そ、総員迎撃態勢。モンスターパレードだ! 死力を尽くして門を守れ!」
「こんな日になんでこんな災厄が!」
嘆くバズラックたちのもとへ、ヘルピングペッカーに乗った葉っぱ人間、アンダカギオギオがやってくると、一枚の羊皮紙を取りだした。
守備隊長はそれを見て、目を剥く。
「ぜ、全軍通達! 魔物たちは味方だ! 攻撃するな!」
隊長の言葉に驚く兵士。
「敵は謎の黒鎧の軍だけだ! 魔物と挟撃して打倒せ! 奴らは一体たりとも通すなよ!!」
「バカな!? 魔物が味方だと!? マイネフランはどうなっている!?」
あり得ないことが起こっていた。レティアは思わず泣きそうになりながらも馬首をめぐらす。
しかし、何処にも逃げ場はない。
右を向けばアンダカギオギオとヘルピングペッカー、左を向けばアローシザーズやワラビット、正面にはマイネフラン防衛軍と冒険者連合。背後からはティアラザウルス。
四面楚歌で仲間が一人また一人と消えていく。
なぜこうなる。人間に魔物の群れが味方するなどあり得ない。
意味のわからない状況に思考が追い付かない。
どこか遠くの出来事のようでレティアの精神はもう崩壊寸前だった。
そんな彼女の耳に、どこか遠くからの声が届く。
「しかしよぉ守備隊長さんよ、本当に魔物どもなんて大丈夫なのかよ!」
「当然だ。見ろ! アルセ様の招待状だぞ!!」
魔物から貰った羊皮紙をバズラックに突き出す守備隊長。その目は確実にヤバい信者の目をしていた。
「あー、あの嬢ちゃん、マジで何者なんだろう」
頭を掻きながら空を見上げるバズラック。
彼が働くことすら不要な程に、謎の軍隊は魔物達によりまたたく間に鎮圧されて行った。
隊長とその周辺数人のダーリティア帝国兵を取り逃がしはしたものの、他の兵は死亡者以外全て捕縛されたのであった。
レティアは逃げた。精鋭である帝国兵を見捨ててでも本国に届けなければならない報告ができたから、死力をとして届けねば、例え断頭台に掛けられてでも国に報告しなければならないことが出来たのだ。
マイネフランに存在するアルセ。そいつは魔物を行使する。マイネフランは魔物に守られていると、伝えねば……と。




