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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その集まり過ぎたモノたちを彼らは知りたくなかった
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AE(アナザー・エピソード)・その兵士たちが遭遇した悪夢を僕は知らない1

 西門に迫る謎の軍。それはゴーラ王国の兵士であった。

 勇者ヘンリーにより心を奪われた姫のたっての希望でマイネフラン王国を他の国の兵士と共に落とし、ヘンリーを王として共同統治を行うための襲撃。

 それを行うために兵士達は一斉に立ち上がっていた。


 侵略行為ではあるし、ヘンリーの悪逆により堕とされた姫の命令という食指の動かない指令ではあるが、上司である王族からの命令である以上、やらない訳にはいかない。

 部隊長を務める突撃騎士団長コーラックもまた、その部隊の一人に紛れこんでいた。


 自分たちが識別しやすいよう皆揃いの漆黒の防具に身を包んでいる。

 不死者を呼び出し国を混乱させた勇者が合図を送るので信号魔法を見たら襲撃を開始しろ。

 告げられたことを律義に守る兵士達は、確かに、マイネフランの守備兵を駆逐する勢いだった。


 防衛任務のための兵士はそこまで多くない。

 詰所から出てきた数を合わせても30にも満たない数である。

 対する襲撃部隊はゴーラ王国精鋭部隊。数は2000弱。少し遠くに待機中の輜重部隊を合わせれば3000程まで膨れ上がる。


 各門にそれくらいの部隊が配置され、一斉に突撃するのだ。

 さすがのマイネフランといえども祭時期を狙われれば一溜まりもあるまい。勇者様も外道なことを考える。

 一般人には可哀想だが、できるだけ死者を出さないよう一気に王城に攻め上がり王を討ち取ろう。


 コーラックは今回の闘いを気楽に考えていた。

 何しろ他の軍も精強揃い。四方向に防衛力を分散したマイネフランが敵うはずもない。

 防衛に回される冒険者たちには酷かもしれないが、これも我が国繁栄のため。


 が、ふと、おかしなことに気付いた。

 マイネフランの増援部隊が、一人も来ないのだ。

 防衛する30程の兵士たちだけで門を固め、攻め入るゴーラ兵たちを受け止めている。

 あり得ない。そう思ったが、何のことはない。門の奥に陣取り防衛をしているため、攻め寄せるゴーラ兵は門に阻まれ侵入する人数が限られてしまい、さらに味方同士で押し合い圧し合い潰し合い。


「おいおい、まさかあの数で俺達を捌き切るつもりじゃないだろうな?」


 そんな無謀なことしないだろう。そう思うコーラックとは逆に、防衛部隊の団長、ビリー・パックマンは手にした盾で敵の猛攻を防ぎながら、叫んでいた。


「お前ら保たせろ! 俺らには戦乙女の加護がある! あのゴブリン共の襲撃を思い出せ。いつ終わるとも知れねェ悪夢の時間を思い出せ! オーガに囲まれたことに比べりゃ人間2000。なにするものか! 我等戦乙女ネフティア様の寵愛部隊、死力を尽くしてここを守り切れぇ!!」


「「「「「「おーっ!!」」」」」」


 そして、運命の女神は残酷な運命を彼ら・・に与えた。


「ビリー隊長! 後方より魔物の群れあり! どうしますか!」


「魔物だと!? 種族は!?」


「お、オーク、あと、スマッシュクラッシャーです!」


「へっ。そうかよ。全員後の事は考える必要ねェ、とにかく生き残る事だけ考えて全力尽くせ! 伝令、拳王来ると城に告げろ!!」


「はっ!」


 ビリーの声を受け、伝令が走る。

 そう、運命の女神がいるとしたのならば、ゴーラ軍は今、完全に見放されたといっても良かった。


「テメェら、防衛部隊の意地を見せろ! 将軍にヘタれた姿みせんじゃぁねぇぞ!! バズ将軍に見せてやれ、拳王様に見せてやれ! マイネフランに我らありと安心させよ!」


「「「「「「ガンホーッ! ガンホーッ! ガンホーッ!」」」」」」


「ば、ばかな!? たった30の兵ですでに300人を!?」


 コーラックは敵の気勢に思わず驚きを口にする。そんなコーラックの近くに伝令兵がやってきた。


「隊長、後方から魔物が、それも集団です!」


「こんな時にか!? ええい、半分を迎撃に回せ!」


「そ、それが、逃げた方がよろしい気が……」


「臆病風に吹かれたか貴様っ、我等は精強なるゴー……おい、何だあれは?」


「で、ですから、魔物の群れで……」


 怯える伝令を切り捨てようと柄に手を掛けたコーラックは、部隊後方より近づいて来る集団を見て顔を青くさせていた。

 魔物は群れだった。否。その規則正しく移動する姿を群れとは言わない。アレは、軍だ。


 先頭を歩くのは一際目立つ見目麗しいエルフを腕に絡ませる鎧を着た豚男。片目に切り裂き傷がある凶悪な容姿のオークである。

 そいつの背後に、オーク軍300。スマッシュクラッシャー140。ツッパリ250。レディース200。フレッシュゾンビおよそ1000。

 さらにスマッシュクラッシャーとレディースには上位種が一体混じっている。


「な、なんだ? なんだあれは!?」


「……あらあら、アナタ。なにやらキナ臭い状況みたいよ? どうしましょうか?」


「ブヒ」


「そうね。邪魔だから駆逐しちゃいましょうか。全員、あの黒い鎧の部隊、遊んであげなさい」


 エルフの言葉に、承知。とばかりに動きだす魔物の群れ。

 魔物とマイネフラン兵により挟撃される形となったゴーラ兵は成す術も無かった。

 輜重部隊もまたたく間に壊滅し、本隊へと魔物達が襲いかかる。


 コーラックは呆然としていた。

 何が起こった? 理解不能の現象に、彼はただただ命令を忘れて突っ立っていた。

 勇者から聞いたのはマイネフランを落とすだけの簡単な仕事だったはずである。

 精強な部隊を率いて行う程でもないはずの簡単な侵略のはずだった。


 魔物が味方してくるなど聞いたことも無い。

 しかし、スマッシュクラッシャーの振るうハンマーにより仲間が5、6人一気に圧し折られる。

 全身の骨を粉々に砕かれた兵士達が他の兵士に被さり悲鳴が上がる。

 戦意喪失した兵士にチェーンが巻き付き、レディースに引きまわされる。

 ツッパリにメンチを切られ、漏らして気絶などまだマシな方だった。


 オークたちに群がられた男が助けを呼びながら手を伸ばす。その手もオークの群れへと消えていくさまは軽く悪夢だ。

 それでもまだ、彼らと相対した兵士は幸運だった。


 フレッシュゾンビの大男が持ち上げたのは彼が普通に入りそうなほどに巨大な柩。それを武器にして兵士へと振り下ろす。

 柩の下に入った兵士の生存は絶望的だった。

 小柄なフレッシュゾンビは巨大なハサミで兵士の胴を切り裂く。

 その動きは余りに速く、精強なはずのゴーラ兵が手も足も出せずに一人、また一人と消えていく。


「あなたが、部隊長ね」


 ぞくりと。背中を何かが這った。

 掛けられた声に振り向けば、自分の前に対峙しているエルフの女。

 エルフ特有の矢筒を背に引っ提げているが、弓が見当たらない。


 武器らしい武器も持っていないエルフはコーラックに不敵に微笑み来なさいな。と指でジェスチャーしてみせる。

 コーラックは動けなかった。

 本来なら、挑発に乗って切りかかって行きたかった。例え死ぬとしてもだ。

 だが、本能が身体を止めていた。動けば、確実に死ぬと、彼の生存本能が告げていたのだ。だから、動けなかった。


 嫌は汗が全身をとめどなく流れる。

 こいつは何だ? ただのエルフとは思えない。

 異質な存在だ。怖い。こいつと対峙することが恐ろしい。


「ぶひ」


「え? アナタがやるの? 私はいいけど……や、やだもう。カッコイイとこ見せたいだなんてぇ。バズのカッコ良さは私が一番わかってるからぁ。じゃ、じゃあ勝ったらキスしてあげる」


「ぶひぷひ」


 エルフを遮るようにやってきたバズと呼ばれたオークがコーラックと対峙した。

 まだ、マシだ。あの得体の知れないエルフと闘うよりは、確かにこのバズと闘った方がまだ生存の目はある。

 だが、とコーラックは気付いてしまった。

 このバズにすら、自分は勝てる段階に居ないという事に。


「バズ将軍だ! バズ将軍の闘いが見れるぞ!」


 背後から歓声が上がる。

 驚いて振り向けば、門を守るマイネフラン兵からの声援だった。

 既に周囲にゴーラ兵は見当たらない。コーラック以外敗北してしまったようだ。

 一騎打ちの様相になってしまったが、せめて、せめて自分だけでも強さを見せつけねば、ただの王国に攻め寄せた賊軍にされかねない。


「わ、我が名はコーラック、恥を忍んで一騎打ちをお願いしたい!」


「ぶひ!」


「ダーリンの言葉、訳してあげます。我が名はバズ・エル・ぱにゃぱ。誇り高きオーク族の近衛騎士団長である。そして愛しきエルフ、エンリカの夫である」


「ぶ、ぶひ!?」


 驚いた顔のバズ。おそらく最後の一言はエンリカにより付け加えられたのだろう。

 なぜエルフとバカップルのようなオークなのかなどいろいろと疑問は尽きないが、コーラックは武器を引き抜き構える。


「いざ尋常に……勝負!!」


 そして……西の謎の部隊による襲撃は魔物到着から五分と立たず、またたく間に鎮圧されたのだった。

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