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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その集まり過ぎたモノたちを彼らは知りたくなかった
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その悪夢のプレゼントが何をするものだったのかを僕たちが知ることはなかった

「よぉ、泥棒狼のカイン君。この俺から寝取ったネッテの具合はどうだった?」


「言葉を選べアホヘンリー。さすがにこれだけの王族を前にして勇者が言う言葉じゃないぞ?」


 横に居たホーキンスに窘められ、舌打ちするヘンリー。

 その横ではチュロスを食べ終えたパイラさんがチロリと赤く小さな舌でべたついた両手を舐めていた。

 不意に、こちらに視線を向けて来る。上目遣いで自分の手を舐めるその姿、シャッターチャンスですね!


「やぁ、ネッテ。お招きいただきありがとう。勘当された身としては来るかどうか迷ったんだけどね。折角だしサプライズを用意しようと、懐かしい顔を連れて来たんだ。我が親友のヘンリーだ」


「おう、せっかくだから来てやったぜぇネッテ。嬉しいかァ? 勇者様の御帰還はよぉ」


 くっくと意地悪そうに笑うヘンリー。悪役顔が板については居るんだけど、その横でスルメか何かを音を立ててばりぼり食べ始めたパイラさんのせいで台無しです。

 とくに笑い声が完全に咀嚼音にかき消されてます。

 おお、即座に食べ終えた後はポップコーンですか!?


「……おいコラ、飽食。テメェ横で喰うな。音がうるせェんだよ!」


「音の出ない食事……希望。ヘンリー、食べていい?」


「下の口なら喜んで喰われてやるぞ?」


「??? 下?」


 よし、何か知らんけど、良し! パイラさんはまだ穢れていないぞ。あのヘンリーの側近みたいに動いてるからてっきり襲われてると思ったけど、どうやらそこまでの仲ではないらしい。

 となると、ヘンリーをバグらせてしまえばパイラさんを救えるではないか。

 アルセも認める友達候補、ここは僕が肌を脱いで救って差し上げねばっ。


「飽食……まさか! 飽食のパイラか!!」


 なんて感じで僕がバグ力を高めようとした時だった。

 王子かな? 若い男の人が突然声を上げた。

 飽食のパイラ? 周囲がざわつき、まさか? といった声が上がりだす。

 あれ? パイラさん有名人?


「まさかあの七大罪に目覚めた悪魔か! なぜそんな生物がここにいる!?」


 王族がにわかにざわめきヘンリーたちから距離を取る。

 ヘンリーもそれに気付いてニヤついた笑みを浮かべはじめた。


「あーそうだったそうだった。国王陛下サマよぉ。今回の俺のパーティーメンバーになったパイラだ。七大罪のスキル持ってんだぜ。ふふ、サイコーだろ?」


「え、ええい黙れ外道勇者め! 勇者でありながら大罪スキルを手に入れた貴様はすでに勇者ではない! 我が国に何しに来た傲慢なる勇者よ!」


「言っただろ。ホーキンスがよぉ。ネッテ王女の結婚祝いじゃねぇか。ちゃぁんとプレゼントも用意したんだぜぇ? くく、はははははっ! そら、魔法陣起動! せいぜい楽しんでくれよぉカイン!」


 突如、剣を引き抜いたヘンリーに悲鳴が上がる。

 王族への謀反か? と思われたが、ヘンリーは剣を床に突き立てていた。


魔法陣・起動サークル・ランチ


 ぱぁっとヘンリーの真下から光が輝く。


「これは!? マズい! 街全体に魔法陣が!」


 アカネやらデヌが妙に焦った顔をする。

 慌てて部屋を飛びだしテラスの方へと向かって行った。

 王侯貴族も何かがあったと気付き、ニヤつくヘンリーを放置して外の見える場所へと向かう。


 街全体が、光を放っていた。

 次の瞬間、地面の至るところからドクロがせり出す。

 地面を割り砕きボコリと出現する腐りかけた死体。


「ヘンリー様専用スキル。英雄のリターン・帰還エインフェリアルって奴だ。さぁ、俺のプレゼントを受け取ってくれよカイン。この国の英霊どもを蘇してやったんだぜ?」


「な、なんということを。あなたはそれでも勇者なのですか!?」


 ロックスメイアの女王様もさすがに色を失って呻く。

 テラスから見える光景を、呆然と見つめていた。

 折角皆がネッテとカインのために盛大に祝おうとしているのに、ソレをブチ壊すような大惨事を引き起こそうとしているのだ、この外道勇者は。


「ははは。勇者だぜぇ? ちゃぁんと神様から勇者の称号をもらいうけた天然育ちの勇者様さ。ちょぉっと欲望には忠実だがなぁ。どうだねーちゃん。俺の奴隷になるならあんたは生かしてやってもいいんだぜぇ?」


「ふん。この程度で英雄の帰還とは恐れ入るな勇者」


 上機嫌に告げていたヘンリー。しかし、その背後からゆっくりとテラスへと現れるソイツの出現で、彼の目算は完全に狂った。


「さぁ、宴を始めようか。我が眷族どもよ! 我が姫が待ち望みし宴の準備に取り掛かれ!!」


 テラスに身を乗り出したルグスさんがバサリとマントを翻し、天へと両手を突き出す。

 骸骨男の声が風に乗って街全体へと響き渡る。おそらく魔法を使って音を伝達したのだろう。

 カタカタと動く骸骨兵も、死臭漂うアンデッドたちも、不死者王・・・・たるルグスの声でゆっくりと動き出す。


 手にしていた盾と剣を適当な隅に置き、食事の手伝いをし始める骸骨兵。

 腐臭を漂わせながらスラム街の清掃活動を始める動く死体たち。

 ヘンリーの目の前で、彼が意図したはずの阿鼻叫喚の地獄絵図は、ちょっと驚く街人に混じって祭りの最終準備を手伝う不死者の群れという謎の混沌とした光景となって表れていた。

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