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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その集まり過ぎたモノたちを彼らは知りたくなかった
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その王族たちの集いに来た魔物を貴族たちは知りたくなかった

 早朝、僕らは王城へと集まっていた。

 まずは王族達による集まりがあるのです。

 ここで一度様々な王族が集まって挨拶というなの根回しや近況の探り合いを行うようだ。


 二時間程したらそのまま城下町へと向かい、指定の席で出し物などの見学。

 国を挙げての祝福を行い。城内に戻ってからは正式な結婚式と舞踏会。そして深夜まで立食晩餐会といった流れである。

 その後、初夜ですかね。ワクテカですね。

 いや、この世界に初夜があるか知らないですけどね。


 一応、楽師の聖女という名があるためリエラも参加してほしいとネッテ達に言われました。

 なので僕らは付き添いで一緒に来てます。

 まぁ他の面々も一緒に王族見学するらしいけどね。魔物組、絶対に騒がないでよ。とくにアルセ。


 謁見の間ではなく王族同士の邂逅を予定した広い部屋に僕らはいた。

 壁際の一角で立ちっぱなしです。

 隣にはリエラとパルティ。アルセは暴走しないように僕が両肩掴んでます。


 ふふん。今日はアルセ用にクッキー一杯持ってきたから対策バッチシさ。

 さぁアルセ、これでも食べて暇潰しててね。

 そんなアルセさんはクッキーをリスみたいに食べており、僕が見下ろすと顔を上げてニコリと微笑む。

 ほんと、アルセの笑顔は可愛いなぁ。


「セルヴァティア王国、アルベルト王、おなぁりぃ――――っ」


 兵士の一人が声を張り上げる。

 クーフ達が着いたらしい。

 といっても先行して来たらしいアルベルト王とクーフだけで、他のセルヴァティア国民はバズさんたちと一緒に来るんだとか。

 王城前の出し物の時間には間に合うそうだ。


「お出迎えご苦労さん。初めましてマイネフラン国王陛下。セルヴァティア王国跡地で最近復活した。アルベルト・ファンク・オルランドだ」


「話は聞いている。何でも伝説として語られる水晶勇者であるとか。こうして会えて感動に絶えませんな」


 王族同士の邂逅。なんだろうな。ただ会ってるだけなのにどこか空々しいというか。なんというか。

 両者の頭上に文字が見える気がします。

 マイネフラン国王からは我が領土に勝手に王国作りやがって、ポッと出がでしゃばり過ぎるなよ若造。アルベルトさんからはこの辺りは元々我等古代人の土地、勝手に住み着いたことを咎めないだけ有難く思えよ未来人。つーかいい女寄越せ。

 という心の底が見えた気がした。


 次々に王族がやってくる。

 聞いた名前の国の人も来ていたし、知らない国の王族も来た。

 可愛らしい王女様やいけすかない王子も来ている。

 しかし、驚くべきはあの兵士だ。

 誰も彼もしっかりと国名と名前を大声で呼び続けるあの兵士さんはマジでハイスペックだと思います。

 カンペ見ずに次々入ってくる人物の役職まで言っているのだから本当に、僕なら絶対無理だね。


「トルーミング王国、ハイド国王、カーネイア王子、ロンベルト王子、ベルセリオス王子ならびにオーギュスト王子、おなぁりぃ――――っ」


 お、オーギュスト来たァ!?

 目隠しをされたオーギュストが来た瞬間、周囲の男達の視線が一斉に彼に集中する。

 種族スキルに魅惑のボディというのがあったはずだから、アレのせいだろう。

 というか、アイツ連れて来ちゃって大丈夫なの? ああ、リエラと揉めただけでネッテとはそこまで敵対してないとかで来たのかな?


「お久しぶりですな」


「息災でなにより。この度は愛しき子の結婚と聞いて息子たちともども駆け付けましたぞ。少し前にウチのバカ息子が少々やんちゃしたそうで。娘さんは大丈夫でしたかな?」


「ええ。楽師の聖女様も問題はなさそうでありましたな」


「それは重畳。ところでこの間の銀鉱石の話なのですが……」


 王族ってなんでこうギスギスしてるんだろう。本音と建前が巧妙過ぎる。これを察知して皮肉で返すとか無理だから。聞いてるだけで胃が痛くなってくるよ。

 プレッシャーにすら感じないリエラがすご……リエラぁぁぁ!?


 すでにプレッシャーに押しつぶされる寸前の少女は、自ら意識を手放すことで自我を保っていたようだ。

 立ったまま気絶しているリエラは全く微動だにしなくなっていた。

 というか、瞬きすらしてない。怖すぎる。


「フィグナート帝国のジーンと申します。妹がお世話になっております」


 トルーミング王国との会合が終われば次はフィグナート帝国。

 ジーンさんも一緒に来たようです。

 帝国がわざわざやってくるのは稀なようで、周囲がざわついていたが、厳つい国王陛下様は気にせず突き進み気圧され気味のマイネフラン国王の前に立つ。

 何を言われるのかと冷や汗流す国王様に、帝王の隣に立ったジーン君が律義に頭を下げた。


「娘が世話になっているそうだな。マイネフラン国王よ、これからも変わらぬ付き合いをしたいものだ」


 短く告げて去っていくフィグナート帝王。ヤバい、なんかラスボスって感じの威圧感がありましたよ今の。


「しかし、驚きました。この国では魔物が普通に街中を歩いているのですね。道を尋ねた御者が親切に教わったそうですよ。後から魔物と気付いたようですが、ツッパリが兵士と混じって見回りを行っているのはなんとも不思議な気分です」


 次に挨拶に来たのはロックスメイア王国という、遠く離れた王国の女王陛下。清楚な巫女といった佇まいの彼女はにこやかにマイネフラン王に語りかける。


「ええ。我が国では先日ゴブリンの集団に襲われましてな、そのゴブリン集団を蹴散らしたのがそこにいるアルセイデス率いるアルセ姫護衛騎士団とその団員であるツッパリ達なのです」


 ちょっと待て! アルセのパーティーに入ってるのは辰真だけで……あれ? 他はアルセの舎弟だから間違ってはいないのか?


「まぁまぁ。ではこの国は魔物を兵士に用いていらっしゃるのですか?」


「兵士というよりは、そうですな……確かに我が国が一声かければ魔物達がこの国を守るために立ち上がるでしょうな。本日も結婚披露宴の余興として呼んでおりますゆえ、ぜひぜひご覧いただきたい」


 にこやかに笑い合う国王と女王。でも、なぜだろうね? 女王様からは魔物を扱うとか下賤であさましいとかいう下心が聞こえてくる気がします。

 そして国王からはこの際魔物たちが自国の兵力だと勘違いさせて国力の違いを見せつけてやろうとかいう魂胆が見え隠れしています。


「コイントス王国、アンサー王子、パーシハル王子、ランスロット王子、おなぁりぃ――――っ」


 コイントスの王子たちが到着した。

 やってきた三人を見た王族たちは、最後に入ってきた人物を見て騒然となる。

 アンサー、パーシハルに続いてカッコッと音を鳴らし入ってきたのは、ハイヒールを履いた女性だった。否、それは僕らが良く見知っている魔物だった。


 若干凛々しくなったマリナー・マリナのマリナさんが、リードを持って入ってくる。

 貴族のお嬢様といった服装の彼女から伸びたリードに繋がれていたのは首輪をし、黒いアイマスクで顔を隠し、王子服に亀甲縛りという謎の出で立ちで歩くランスロット王子。

 ちょ、調教されとるっ!!?

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