魔物と魔人の区別なんて、人間は知らなかった
「ど、どういうことですか? え? 魔人? 魔人って、魔族のことじゃないんですか?」
思わずバズ・オークを指すリエラ。
指されたバズ・オークが自分を指してぶひ? と鼻を鳴らしているが、クーフはソレを無視してこくりと頷く。
「知恵あるものを魔人と呼ぶ。アルセイデスは多少学習能力はあルガ基本思考回路は本能で生きている。よって魔物に類すル。オークやゴブリンは言葉を解し社会を作り武器を持つ。故に魔人に類す。稀に魔物内でも知恵を得て人語を解すようになるが、これもまた魔人と呼ぶ。お前達は違うノカ?」
「そうね。基本は人、あるいは獣人族以外は魔物として区別してるわ。あとは何十年も前に何度か魔族というのが暗躍したという記録があるくらい」
「長い年月が経つうちに事実が捻じ曲げられたということか。なんとも空しい話ダナ」
カインたちの魔人談義はしばらく続いた。
こいつら、周囲の警戒ちゃんとできてるのか?
そこいらにカワウソさんが現れこっちを見て来てるぞ?
でも、さすがにカワウソたちもクーフを見て警戒している。
なにせその手に持たれているのは自分たちの武器より巨大な柩。
それを肩に引っ掛け携えているのだ。
クーフの顔も人間とは思えないほどやせ細りカサカサになっている。まぁミイラだし。
なので気味悪がって近づいて来ないようだ。
バズ・オークは気付いているようだけど、クーフ効果と言うべきか、魔物が近寄って来ないので皆には危機を伝えていない。
「さあ、そろそろ行こう」
カインも周囲の気配を察したのか、足早に歩きだす。
ネッテもそれで気付いたらしい。周囲を見て青い顔をし始めた。
既に周りを囲むように十体以上のスマッシュクラッシャーが愛らしい目でこちらを観察している。
知らないのはリエラだけだ。
アルセはって? アルセは森の中に居るカワウソさんに楽しそうに手を振ってますよ。
アルセさ~~~~ん!? それ敵ですからっ。
平原に出ると、やはり匂いを辿ったのか狼モドキが現れる。
十や二十できかない程に集まる彼らは、しかし遠巻きにこちらを窺うのみで襲ってはこなかった。
多分、異様な臭いのクーフに警戒してるんだろう。
別に臭いわけじゃないけど、なんか独特の臭いがするんだよ。ほら、空気の淀んだ洞窟内の臭いというか、タンスの中で長らく眠っていた服の臭いというか……カビ臭い? ちょっと違うかな。
食べるところが見当たらないのも襲撃を躊躇う要因かもしれない。骨は楽しそうに舐めそうだけど。
けど、遠巻きに見ていたのは三十分かそこいらだった。
一匹の狼モドキが唸りを発し咆える。
その瞬間、突撃を開始して来る狼モドキの群れ。
膨れ上がった数はおおよそ五十匹。
それはまさに蹂躙だった。
草原を駆け抜ける五十匹の狼モドキの群れ。
それを、クーフが僕らの前に立ち柩を両手で抱えると、右から左に……スイング。
接敵直前と飛びかかろうとした狼モドキ十匹が一気に吹っ飛ばされた。
さらに編み上がっていた呪文を解き放つネッテ。
コ・ルラリカにより二十の狼モドキが凍りつく。
そしてリエラがラ・ギライアの魔弾を発射。
残った内の十五頭程が焼かれて散った。
残ったのは五体である。
さすがの狼モドキたちも一瞬で十分の一に減らされた群れを見て恐れている。
そこへ突撃するカインとバズ・オーク。
銛で一突き、バズ・オークにより一体。
剣で一刺し、カインにより一体。
またたく間に討伐される狼モドキ。
なんとか獲物を得ようと飛びかかるが、クーフの一撃で残った二体も潰された。
最後の一体がクーフの攻撃を躱してアルセへと走る。
こてんと首を倒したアルセは指を咥えて狼モドキを見つめていた。
こいつなら食える。
そう思ったのだろう。
だが、狼モドキがアギトを開いて飛びかかった刹那、アルセの頭上でそいつは動いた。
シャッと飛びかかるように狼モドキに突撃して行くスライムらしき物体。
そういやこいつ名前付けてなかったな。葛餅でいいか。
葛餅は狼モドキの口内に侵入すると、それだけで狼モドキが目を剥いて気絶してしまった。
どうやら槍のように鋭く尖った葛餅は飛び込んだ威力そのままに狼モドキに突き刺さったようだ。
喉元からおそらく脳に達した一撃で、狼モドキは死亡したらしい。
動かなくなった狼モドキの口から出ていた葛餅をひっつかんだアルセが葛餅を引き抜く。
引き抜かれた葛餅を自分の頭に乗せ、何故か嬉しそうに微笑んでいた。
ああもう、可愛いなアルセは。でも何を考えてるか分からないのが恐い。
葛餅が守ってくれたとわかったのか、それともただ落ちたアクセサリーを拾って笑顔になっただけなのか……
多分狼モドキ倒したとかは理解してないんだろうな。
しかし……クーフ強いな。柩振りまわしていただけだけど物凄い威力だし。




