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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第七部 第一話 その夢の国にある地獄を僕らは知りたくなかった
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その二人が何故ここに居るのかを僕らは知る気もない

「ちゅちゅちゅちゅちゅーっ」


「おーっ」


 アルセが今、しゃがんで興味深そうに見つめているのは五匹のネズミ。

 アルセ、そのトレイン鼠好きだねぇ。

 くるくる回る五匹が楽しいらしい。

 ダメだよアルセ、連れていくのはダメだからね。


「げっ!?」


「ん?」


 僕がアルセに意識を向けていると、丁度地下1階から降りて来た二人組のパーティーが僕らを見るなり嫌そうな声を上げていた。

 その声に振り返った僕らが見たものは……


「あら、リアッティとアンディじゃない?」


 人物と名前が一番に一致したのはアカネだった。

 意外そうに告げる彼女に、ばつの悪そうな顔をする二人組。

 こいつらコイントスの大会に出てたよね? あのあと港町向って別の大陸行くとか言ってなかった?


「や、やぁ、皆さんご機嫌麗しく」


「な、何してるんですか二人とも、ま、まさか、ストーカー?」


 びくりと怖がるリエラが思わずパルティの背後に隠れる。


「ち、ちちち、違うわよリエラっ。私たちはただお宝があると聞いて……」


「港町に向おうとしたんですが、よくよく考えると港なんて足が付きやすい場所に向ったら足取りばれるに決まってやす。仕方ねぇんでダンジョン潜って金目のモノ手に入れて陸路で逃亡する事に決めたんっす」


 腰の低いアンディの言葉でリエラが落ち着きを取り戻す。

 どうやら本当に偶然らしい。


「聞いた話じゃこのダンジョン、地下三階以降は誰も入れてないらしいじゃない。つまりそれ以降の階層は手つかずなんでしょ」


「ちょっとでも入れりゃぁ一攫千金できるかもってんで、リアッティの姐さんが行こうってうるさくて」


「あー。そりゃあ悪かったわね」


 頭を掻きながら明後日の方向を向くアカネ。いや、アカネさんの判断は正しいから、そんなすまなそうな顔する必要はないのです。


「悪かった?」


「ちょっと、もしかしてあんたたちが先に入って来たとか!?」


「あーその、いや、ちょっと落盤起こってて入れなかったかなぁ」


 パルティも頭を掻きながら明後日の方を向く。

 嘘です。落盤が起こったのではなく起こしたんだよアカネが。

 まぁ、そのくらいの嘘の方が諦めてくれるだろうからいいだろうけど。


「成る程、それじゃ私らにもチャンスがあるわね」


「え? どういうことですかリアッティさん?」


「瓦礫撤去して入れば問題無いんでしょ。私とアンディなら充分できるわ。時間もあるし、急ぐことも無いしね。鼠肉も近くにあるから飢餓の心配も無いし」


 あかん、こいつらあの封印を開く気か!?

 絶対阻止しないと城下町が滅ぶぞ!?


「そう、気を付けてね?」


 まぁ、こいつらなら死んでもいいか。みたいに考えたアカネは了承してしまっていた。

 これでは誰も止めようとしない。

 確かにこの二人がどうなろうと僕らとしてはどうでもいいんだけど、さすがにその被害がさらに増えるとなれば看過できない。


 僕はアルセを無理矢理動かす。

 もうちょっと見てたかったのに。とばかりにぷくっと膨れたアルセ。

 ごめんねアルセ。アルセには悪いけど、ちょっとだけ、後で何か奢るから。


 部屋の出口、地下三階へと向かう場所をアルセの身体で通せんぼ。

 気付いたルグスが主? と呟いたことで、他の面々も気付いたようだ。

 僕はアルセの両手を広げてここから先は通せません。と主張します。

 ぷくっと膨れたままのアルセを見て、リアッティが困った顔をする。


「ちょ、ちょっとアルセイデスがなんか通せんぼしてるんだけど?」


「あのアルセが通せんぼ……これは、本格的にダメな奴っぽいわね。リアッティ、悪いんだけどやっぱダメ。行くなら三階層まで、四階層には絶対に行かないように。階段塞いだところもそのままにしといて」


「え? アカネさん、なんでよ!? 冒険者同士で相手の妨害はすべきじゃないわ! 知らない訳じゃないでしょ!」


「ええ。そうね。あなたたちが四階層に向って死ぬ程度なら問題はないし、私も止めない。さっきも止めなかったでしょ?」


「なら、なんで!?」


「アルセが止めてるのよ? ゴブリン軍団がマイネフランを急襲することを事前察知・・・・して仲間を集め国を救った、救国の魔物が。その意味、本当に理解しているの?」


 その言葉には、凄味があった。

 多分、アカネ自身アルセが止める理由は良く分かっていないのだろう。

 何しろまだ誰にも黒死病の事は伝えてないし、それがあの階層の先に存在するかどうかも不明なのだ。

 それでも、僕は確信してしまっている。

 無いかもしれないけど、あの先には絶対に進んではいけないと、確信、してしまっているのだ。

 ならば、そこに向おうとする死にたがりを止めなければならない。

 もしもこの危機感が本当のものであるのなら、被害を受けるのは彼らだけではないのだから。


 アルセの姿をもう一度見て、はぁ。と溜息を吐くリアッティとアンディ。

 困ったなぁ。と顔を見合わせ、再び溜息を吐く。

 そんなリアッティたちに、僕が手を放した途端。アルセが歩み寄り、ポシェットから羊皮紙を一枚。何かを書き始める。

 何かと思って見て見れば、ちょっとアルセさん。それ、ネッテとカインの結婚式への招待状!?

 渡すの違う! ネズミンの項が書かれた魔物図鑑の方渡そう。アカネなら気付くはずだから!

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