そのダンジョンが観光用だということを僕らは知らなかった
「えーっと、ここかぁ」
翌日。デヌさんは大人しく宿に帰ってハーレム的一日を味わった。
自分のお尻が狙われたという事実が彼をここ以外で寝るのは危険だと気付かせたようだ。
あるいは、アルセの強さに気付いてその能力を観察したかったのかもしれない。
困った顔で部屋の隅を陣取りガールズトークから離れて眠るデヌさんがちょっと可哀想だったが、えーっと、まぁ、がんばって?
という感じて昨日が過ぎた。
本日は皆さん連れだって件のネズミンランドに来ております。
なんだよネズミンランドって? とか思っていた僕だけど、ホント、ここなんなの!?
朝も早くから洞窟前に並ぶ長蛇の列。
腕効き冒険者の姿もちらほら見えるけど、それよりも多いのが家族連れ。
ポックリ行くんじゃないか? と不安になりそうな腰が曲がったお爺さんまでも並んでいる。
そんな最後尾に並んだリエラ達。
アルセとルクルをリエラ達に押しつけ、僕は一度最前列へと向かう。
そこには板で作った看板を抱えたお姉さんが一人。
あ、違う。お姉さんの護衛だろう厳ついおっさんが数人直ぐ近くの茂みに隠れて様子を窺ってる。
「はーい、次の方、大人100ゴス、子供50ゴスですよ~。夢と希望とネズミの国、ネズミンランドにいらっしゃーい」
遊園地かよ。と思いながら洞窟をちょっと覗いてみる。ほのかに明るい洞窟内は、とても広い。
団体さんが普通に歩ける……っていうか、幾つかのフロアに別れたダンジョンみたいだね。
入口では無数のネズミがちょろちょろ動いている。
これがネズミン?
ネズミン
種族:ネズミン クラス:ネズミン
スキル:
飛び跳ねる:ただ飛び跳ねたいあなたのためのスキル。追加効果なし。
穴あけ:壁に穴を開けるスキル。
常時スキル:
帰巣本能:指定した家に自力で帰りつく能力。どんな場所に飛ばされても必ず帰って来ます。
黒死の運び手:フリアールに寄生されやすい。寄生されるとフリアールに黒死病注入のスキルを与える
種族スキル:
ぷにぽよん:ぷにんと柔らかくぽよんとした抱き心地。人肌温度で冬もあったか。
大家族:一度に生まれる個体数が十倍になる。
ドロップアイテム・ねずみんしっぽ・ネズミンの皮衣・ネズ耳カチューシャ
ヤバい、ネズ耳カチューシャパルティさんに付けたいっ。じゃなかった。黒死の運び手って、どう見てもペストじゃねぇか!?
ヤベェスキルだよ。どうすんの!? コレどう見ても汚物は消毒だァ対象だよね!?
青い顔の僕を何も知らずに夢の国という名の地獄に向う家族連れが追い越して行く。
慌ててリエラのもとへ戻り、リエラに教えようとする。けど、なんか一気に待ち人が動き出していた。
リエラは僕が駆けだそうとしたその横を通り過ぎ、お金を払ってダンジョンへ。
いつの間にっ!?
驚く僕はリエラたちを追って急いでダンジョンへ。
そして……今に至る。
「待てやエロバグッ!!」
だから、僕のせいじゃないからねアカネさん。
天井から落下して来たネズミンがアカネさんの背中にダイブイン。
驚いたアカネが魔法を使って真っ裸。服は着たけど、僕のせいだと勘違いして追いかけまわして来ます。そして魔法を使ってすぽぽぽーん。パルティが慌てて二度目の服回収。
無数の魔法を駆使して僕を追い詰めるのは良いんだけどさ、後から後からやってくる家族連れに全裸、見られてますよ?
止めに入るべきリエラ達はもう既にパーティー崩壊を起こしていた。
デヌとミルクティさんとか普通に言い合い始めてるし、アルセたちはネズミンつついて遊んでるし、どうしてこうウチのパーティーは堪え性がないの!?
「き、きぃやあああああああああああああああっっ!!?」
ようやく回りに気付いたアカネさんが全身を抱えて蹲った。
ふぅ、危機は去った。
パルティが服を持って来たのでアカネが手早く着替え。こちらを殺しそうな視線で睨んで来ます。
だから、僕のせいじゃないからね。
さすがに人の目がヤバいのでリエラを先頭にして逃げるようにその場を離れた。
ネズミンランド恐るべし。
まさか戦闘らしい戦闘がないのに僕らにダメージを与えて来るとは……
「大丈夫ですかアカネさん?」
「ええ。傷はないわ。肉体的ダメージはね。ええ。肉体的ダメージは」
といいつつこちらを睨まないでくださいますかねアカネさん?
「れーにゃー」
ついでにレーニャはおやつ一杯みたいな嬉しそうな顔しない。ネズミン結構ヤバい奴だから!
その口の中のもポイしなさい、ポイ。
「えっと、ギルドからの話では一階は民間に開放されているらしいです。私たちが向うダンジョンは地下一階から下ですね。あと、ネズミンはにっちゃうと同じで攻撃手段を持ってないらしいですよ」
へー、じゃあにっちゃうとネズミンが闘ったらどっちが勝つんだろう?
「ちなみに、にっちゃうとネズミンが闘ったらネズミンが勝つそうですよ。前に実験した人がいたみたいで、にっちゃうの身体をうろちょろ這いまわって最後は耳に……早々にっちゃうがギブアップしたそうです」
やった人、居たんだ……




