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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第七部 第一話 その夢の国にある地獄を僕らは知りたくなかった
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そのパーティーの異常さを彼は知らなかった

 アルセと共にデヌを案内する。

 まず連れて来たのは武器屋である。

 おっさんは今日もカウンターに居て、本日はフルーレかな? つや出しを行っているようで布っぽいので拭いている。

 輝く剣を日の光に透かして見せて、うん、俺いい仕事したな。みたいな顔でニヤついていた。


「おう、アルセじゃねぇか。久しぶりだな。カインから聞いたぜぇ。大会で大暴れしたらしいじゃねぇか」


「おーっ!!」


 楽しかったよーっとばかりに両腕突き上げ笑うアルセ。そうか、そりゃぁよかった。と多分ニュアンスしか伝わっていないおっちゃんはカラカラと笑っていた。


「んで、今日は何の用だ嬢ちゃん? って、そっちの兄ちゃんと姉ちゃんは初めてだな」


「う、うむ。……姉ちゃん?」


 ん? と気付いたデヌが背後を振り向くと、ドアからそっと目だけ覗いているルクルさん。

 怖ぇよっ!?

 デヌさんも、うおぉっ!? とか凄い悲鳴上げてたし。




「はぁー。するってぇと、コイントスで仲間になったのかあんた」


 デヌが自己紹介。せっかくなので、とおっちゃんが奥からティーカップ持って来て紅茶っぽいの出してくれました。

 一緒に出されたフィナンシェっぽいのをアルセが両手で持ってリスみたいに食べている。

 おいしい? 僕が覗き込んでいると視線を感じたのかアルセが顔を上げ、僕に向って微笑む。

 美味しいんだね。よかったね。ヤバい、その笑顔100点満点ですっ。


「んじゃあアルセ姫護衛騎士団の偉業は聞いてねぇのかい」


「偉業? そんなものがあるのか?」


「ああ。この町じゃあ有名だぜ。何せ街を包囲したゴブリンの軍団を他の冒険者たちと撃破しただけじゃなく、ツッパリどもを使役して、魔王を一体撃破しちまったんだからな」


「ま、魔王を、だと!?」


「どうせその話を聞かせたくて知り合い回ってんだろ嬢ちゃん。兄ちゃんも案内された奴らに聞いてみな。なかなか面白い話が聞けるぜ」


「そ、そうか……魔王を……カインが倒したのか?」


「あん? いや、ゴブリンの魔王は確か葛餅っつースライムだったはずだ。噴水広場見なかったのか?」


「ああ、噴水中央の像か、アルセイデスとにっちゃうとスライムの像だったな」


「ありゃあアルセと葛餅、この国の国獣に認定されたにっちゃうを模した像らしいぞ」


「アルセの、像……だと?」


 驚愕の顔でアルセを向くデヌ。そんなデヌさんには笑顔のアルセがお出迎えです。にぱっと笑みを浮かべたアルセ、フィナンシェが口元に付いてるよアルセ。


「カインたちの話を総合するとなぁ、どうもアルセと出会ってから沢山のパーティーメンバーと出会いだしたらしくてよ、拳王エンリカだろ、英雄豚バズだろ、古代王クーフだろ、戦乙女ネフティアだろ、魔王殺し葛餅、楽師の聖女リエラ、魔王辰真、第三王女ネッテ、んで、勇者カインだ」


 なんか幾つか初耳の二つ名があるんですけど……すげぇな。皆いつの間にか二つ名持ちになってるよ。恥ずかしい。

 デヌさんもその異常さに気付いたらしい。

 ただの二人だけだったパーティーがアルセに出会ってから魔王すら圧倒するパーティーへと変化する、もはや異常以外の何者でもない。


 この状況をマグレだとか言える奴はただの楽天家かバカだろう。ならなんだって? 答え? バグですがなにか? そうさ皆バグって行っちまったのさ、誰かのせいでなぁ。誰だろうねぇアルセ? うん、僕のせいだよっ。


「つまり、カイン達の強さの秘密はアルセにあると?」


「んなもん一介の武器屋に聞くんじゃねェよ」


「カインも言っていた。俺のパーティーで最強なのは自分じゃないと。なるほど、話を聞いてみる必要はありそうだな」


「いや、ほんと、こいつらのパーティーは驚きしかねぇやな。本来意思がない、あるいは意思疎通不可能と言われていたアルセイデスが人懐っこくカイン達とパーティー組んでやがるんだからな。なぁ嬢ちゃん」


 話を振られたアルセだが、ハーブティーのカップを両手で抱えてんぐんぐ飲んでいらっしゃるので返答出来ません。

 飲み終えるとけぷりと可愛いゲップを行い、てへりと微笑んだ。

 おっちゃん、ほっこり顔が気持ち悪いです。


「おう、そうだ。ちょいと嬢ちゃん、アルセイデスの蔦の在庫が無くなりそうなんだわ。ちょっとでいいんで分けちゃくんねぇか?」


 蔦? いいよぉ。とばかりにマーブルアイヴィを唱えるアルセ。

 当然、床をブチ破った蔦が店内に生える。


「いや、有難い。ありがたいんだがよ……」


 まだこの辺りの人間的ルールはアルセには早かったね。

 これでいい? と微笑んでいるアルセに、おっちゃんは苦笑いするしかなかった。

 その後、デヌが手伝い蔦を回収する。この量で半年は充分持つらしい。

 何しろ物が物なので金額が高い。欲しくても買えない奴が多く、買える奴は貴族なので記念に一本買ってくぐらい。稀に高位冒険者が買いに来るが、他にも強い切れ味の武器ならあるので、滅多に買いには来ないらしい。


 強いし、綺麗なんだけど、金額が見合わないんだって。

 アルセが居ればコストダウン問題無い気もするんだけど、そこは適正にしとかないと他の武器屋などから目を付けられるそうだ。武器屋も大変だねぇ。

 アルセの蔦があった根元を見つめ、ほろりと涙を零す親父さんを見ながら僕は同情にも似た思いを抱くのだった。

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