AE(アナザーエピソード)・その偽スライムのスライムによるスライムのための冒険を僕は知らない4
目の前に、巨大なスライムが存在していた。
葛餅など余裕で飲み込めるほどの巨大なスライム。
ビッグスライムと呼ばれる部類の巨大なスライムすらも余裕で吸収出来そうな存在だ。
頭の上に王冠のような半透明の突起が見える。
おそらくキングスライムだろうという想像が付くスライムであった。
その大きさにしばし呆然と見上げていた彼らの近くで、マターラがゆっくりと這って行く。
どうやらこの洞窟の奥にある宝箱に反応したらしい。
その中身はおそらく草か何かなのだろう。
食べようと近づくマターラはキングスライムを気にせず前へと向って行く。
「ま、マターラっ!?」
驚いたのはセキトリだ。
慌てて止めに向おうとするが、キングスライムが身じろぎしたことで葛餅がセキトリの前に飛び出す。
強酸の一撃を硬化した防壁と化して受け止め、地上に押し流す。
「し、師匠!? 大丈夫ですか!」
「ローア様、回復を!」
「何で私が。ほらヒール」
やる気のない声で葛餅を回復するローア。
そんな彼らを無視して己の道を邁進するマターラはキングスライムの中へと突っ込んでいってしまった。
「嘘だろマターラっ!?」
セキトリは思わず叫ぶ。
自分の召喚獣がスライムだった。
皆と違って可愛さも無く、周囲を吸収する危険な生物を召喚してしまったことで喜びはなかった。
危険な生物であるわりには弱い生物であるスライム。
他の生物を鍛えたかった。一緒に召喚獣と食事したり、可愛い女性の前で召喚獣と戯れてモテたりしたかった。
でも、キングスライムの中へと消えて行ったマターラを見ると思わず後悔が募る。
仮にも自分が召喚したスライムだ。
愛着もあった。命令は聞かないし食ってばっかりのスライムだが、それでも、自分の召喚獣だったのだ。
もっと、そう、もっと接してやってれば。
キングスライムに取り込まれ分解されることはなかっただろう。
そう、後悔していた。
【にげろ】
突然、葛餅がプレートを一枚取り出し皆に見せる。
葛餅でも闘えない存在か?
カルアやサリッサは思わず青い顔をするが、ローアは違った。
「皆、葛餅が盾になりながら後退して来るからもっと隅によって、早く!」
焦った顔で葛餅の告げた理由を的確に読み取り皆を先導する。
セキトリが最初に、サリッサ、そしてカルアが隅へと走る。
遅れて逃げてきた葛餅は部屋の隅に集まった面々に、包み込むように襲いかかり、全員を粘体に飲み込む。
次の瞬間、音が消えた。
葛餅の粘体の中、カルア達の目の前で、キングスライムが爆発するように弾け飛ぶ。
続いて衝撃波。葛餅の身体が波打ち一部が弾け飛ぶ。
予想外過ぎる衝撃に皆が呆然とする中、葛餅は自身の身体を最大硬化して衝撃を受け流す。
爆音が響き部屋全体が揺れる。
やがて、全てが消え去った部屋の中央を、何でもないといった様子でマターラがゆっくりと這いずっているのが見えた。
それを見付けて葛餅は皆から離れる。
「な、何が?」
「葛餅様、私達を守ってくださったのですね」
「マターラが……勝った?」
自分の無事と起こった衝撃に、半ば呆然となっていたカルアとサリッサ。
そんな喜びもマターラの生存を見て吹き飛んだセキトリ。
そして……
「超新星爆発……」
何が起こったのかを理解して呆然と佇むローア。
葛餅が気付いたことにも驚きだったが、こんなスキルがこの世界に存在するということに思わずぞっとするのだった。
マターラが使ったスキルが何か。それは斥力と引力による混合スキルである。
超新星爆発をご存じだろうか? 星が巨大化する過程で内部燃料が底を突いた時に起こる星の死である。
重力で縮もうとする引力を押さえる内部燃料を失くした星はその周囲の物質を全て引きつけていく。圧力で潰れ会う原子核たちに電子が取り込まれ、生れいでるのだ、中性子が。
中性子はとてつもなく堅く、そして、引力に引かれたモノたちを思い切り跳ね返す。これが斥力。
跳ね返された物質は強烈な熱と圧力となって外側へと伝わり、そして、爆発へと変化する。
これが超新星爆発。
星であれば中心の波が表面まで伝わるまでに数日かかるが、マターラはこれを一瞬で行ったのだ。
キングスライムを引力で引き寄せ斥力で一気に弾く、これにより威力は少なくなったがそれでもキングスライムが内側から爆発した。ということらしい。
チュウセイシスライム、つまり、中性子スライムへと進化したマターラのチートスキルを目の当たりにした面々だった。
ちなみに、この下手に置かれていた宝箱に入っていた草はマターラに食われてしまい、何が存在していたのかを知る者は誰もいなかった。
こうして、どっかの誰かが遊びで作ったダークマターによりまた一体、未知のスライムが産声を上げたのであった……




