その宣言の意味を彼女は知りたくなかった
「『婚約する気はありません。というかもう、魅力を感じません』」
テーテが得意げにルルリカの台詞を再生している。
その光景を思い浮かべてしまったのだろう。一言ごとにランスロットさんがダメージ受けてますね。
大丈夫かランスロットさん? 傷は浅いぞ。いや、傷の深さは知らんけど。
「『だって、私が危険に晒されたとき、いっつも叫ぶばかりで何もしてくれなかったじゃないですか。でも、そんな私をいつも助けてくれた人がいました。さっきだって、私が酷いことをしてるのに、身を呈して私をかばってくれて、下手したら死んでたんですよっ。身代わりまでして私を助けてくれる人、初めて出会いました……私、ネッテお姉様に出会うために今までがあったんだと気付きました』」
そういえばそんな事も言ってたなぁ。
よく覚えてるねテーテさん。なんか敵対してるけどここまで凄いと感心するよ。
直接敵対してるわけじゃないからかな?
「『いいえ、ネッテお姉様以上に素敵な人なんていません。私が間違ってました。改心します。だから、だから私をお傍に置いて下さいっ。私の全てを、貰って下さい』」
……止めたげて! なんか思いのほかランスさんダメージ受けてるから、顔伏せてビクンビクンしてるから。アレかなりダメージ深いよっ!?
「こんなところでご満足ですかアカネさん?」
「あら。まだ全部じゃないでしょう。むしろ、その先を私は求めているわ。一言一句間違うことなく告げなさい。国王陛下に、ルルリカの告げた台詞の全てを!」
不敵に笑うアカネに、むっとしながらも言葉を続けるテーテ。
「『側室でも構いませ……』ん……」
しかし、次の台詞の途中で気付いたようだ。言葉が止まってしまった。
「あら? どうかしたのかしら? テーテさん? 言葉はそこで終わりではないでしょう? 私が言ってもいいですが、それだと付け加えたとか、当時の言葉と違うとか、あげ足取られかねないからね。ランスロット王子も台詞を思い出したようですね。テーテさんが言えないのならば、ランスロット王子でも構いません。どうぞ?」
「え? あ。ああ。思い出すのも忌々しいが、確か、『側室でも構いません。奴隷でもなんでもします。あなたの愛を私にも下さい』だったな」
「お、お義兄様っ!?」
言うべきじゃなかった。そんな悲痛な想いで名を告げるテーテに、ランスロットはどうした? とぽかんとした顔をする。
自分が折角テーテが作りだした不子の罪を打ち消す無罪発言をしてしまったことに気付いてないようだ。
そして、アカネがニタリと鬼の首を取ったように邪悪な笑みを浮かべた。
「お聴きになりましたか傍聴席の皆様?」
両手を開きくるりと一回転。ゆったりと回り周囲の反応を窺うアカネ。もはや悪徳弁護士にしかみえません。
「ランスロット王子自らお告げ頂きました。敏い方はもうわかりましたか? ええ、ルルリカさんは既に告げていたのです。側室でも構わないと」
それがどういう意味になるんだ? 国王も宰相も首を捻る。
しかし、第一王子は気付いた。あ、成る程。と納得した顔をする。
第二王子の方はまだ分かってないらしい。が、直ぐに気付いた。
「ああっ。なるほど」
「パーシハル? 何かわかったのか?」
「父上はまだ分かりませんか? 彼女は言っているんですよ。側室で構わないと。会話相手はネッテ王女。そして彼女はランスに向けてすぐ横に居るカインと婚約することを告げた後の事です」
得意げに話しだしたパーシハル。その言葉をアカネが引き継いだ。
「何が言いたいかといいますと、ルルリカさんはこう言っていたのです。ネッテ王女と一緒に居られるのならば、カインの側室入りをしても構わない。つまり、将来的にカインの子を産むことも念頭に置き、ずっとネッテ王女の傍に居たいと」
多分、ルルリカにはそこまでの意図はなかったのだろう。カインの子を産むなんて彼女は御免だとでも思っているはずだ。証拠に彼女の顔はえ。なんでそうなるの? みたいな顔をしている。が、誰もそれに気付いていない。
声を出しそうになったルルリカだったが、自分を守るためにアカネが口八丁手八丁で弁護してくれているので、さすがにここで否定するわけにはいかなかった。
なにしろ否定したら不子の罪が確定して死罪確定だしね。
「つまり、不子の罪とやらを主張するのは勝手ですが、彼女は女性は好きだけれど子供が欲しくない訳ではないと宣言している、むしろカインの子を産みたいと告げている以上、この罪は不当。無罪であると宣言します」
「そ、それこそ不貞の罪じゃないっ! 王女様、正気ですか!! 本気でその女を自分の婚約者の側室にお認めになるのですか!!」
あ、飛び火させやがった!?
テーテの声で場の視線は我関せずだったネッテさんに集中しました。
どうするネッテ? ルルリカとカインの不倫を認めてしまうのか?
思わぬ流れ弾に、ネッテさん大ピンチです。




