その女性が居たことを誰も知らなかった
ルルリカの顔が真っ青を通りこして紫色に、そして土気色へと変化している。
アカネもこれはヤバいと爪を噛みながら法律の粗探しを必死に行っている。
しかし、既にルルリカはネッテに一生を捧げる事を僕らの前で伝えてしまったあとなのである。
つまり、既に不子の罪を犯していることを宣言して憚らないのだ。
子供を作る気の無い彼女は不子の罪により完全に罪科が確定して……ん?
あれ? 待てよ。
確かルルリカ言ってたよね?
「側室でも構いません。奴隷でもなんでもします! あなたの愛を私にも下さいっ!!」ってさ。これってつまり、カインの側室になってもいいってことでしょ。つまり男の子供を産むことは別に問題無いと言っているのと変わりないんじゃないかな? いや、こじつけだけど。
起死回生の一手だ。僕は思わず立ち上がる。
その動きでアルセが目を覚ました。
眠たそうに眼を擦りつつ、リエラの膝枕から起き上がった彼女は、僕に向けて両手を掲げる。
抱っこ。そう言われているような気がした。
いやその、僕はこれからアカネとネッテにね、その……
…………
……………………
………………………………アルセの瞳(キラキラキラ~)。
僕はアルセを抱きかかえたまま弁護士用の席へと向かった。
「あら? どうしたの……アルセ?」
気付いたネッテが隣を促して来たのでアルセ共々彼女の隣に移動。
僕は気付いた事をどう伝えようかと思いつつ、ネッテとルルリカを指差し、ついでに涎塗れになっているカインにアルセの指を向けた。
あまりよく伝わらなかったようで、首を捻るネッテ。
私とカインとルルリカが何か?
そんな顔をしている。
ダメだ。伝わりそうにない。
閃いてくれればいいんだけど、さすがに会話の一つ一つまでは覚え切れてないか。
「あら、ちょっとお待ちください。ネッテ様どうなさいました?」
弁護席の異変を感じ取ったアカネが国王に告げてこちらに戻ってくる。
ふらつきそうになっているルルリカさんは無視ですね。大丈夫かあいつ?
「どうもアルセ……というか(彼が)、何か伝えたいみたいなんだけど」
ネッテの言葉で僕が動きだしたことに気付いたアカネ。
もう一度ルルリカとネッテを指してカインに指先を向けて見る。
アルセはほんと笑顔だね。なんか楽しげに指差す様子が可愛らしくて傍聴者の皆さんも無駄にほっこりしてます。
「……あ。ああっ。そうよ! あの台詞! ふふ。さすがアルセね。ナイスアシスト!」
笑顔のアルセの頭を乱暴に撫でたアカネは起死回生の一手を見付けた顔でルルリカのもとへと駆け足で戻って行った。
ちょっとアカネ、もっと丁寧に撫でなさい! アルセの頭がもげたらどうするんだよバカ力女がって、ひぃっ!?
心の中で罵声を浴びせたら物凄い形相で睨まれたんですけど、なぜに?
アカネは読唇術いや、悟りの能力でもあるんだろうか?
悪口だけ聞こえる能力とか? あれか、地獄耳みたいなのを持ってるのか!?
「なるほど、不子の罪。確かに女性同士では子を産めませんね」
「ええ。その通り。そしてその宣言をしてしまっていますから、ルルリカさんはもう、罪から逃れることはできませんわ」
アカネの言葉に同意しつつももう詰んでいるぞと冷笑するテーテ。
その顔はどう見ても勝利を確信した顔をしている。
「あら。逃れる術はないとおっしゃいますが、犯してもいない罪から逃れる必要などありませんわ。うふふふふ。おかしなことをおっしゃいますわねぇ」
そして対するアカネもまた、証人席を見上げ、冷笑を浮かべた。
ピキリ。テーテの頭に青筋が浮かぶ。
「あら。それはどういう意味かしら?」
「全く論破されるために壇上に現れるとは、これから貴女の悔しがる顔を見ることになると思うと、思わず同情してしまいそうですわね」
「あら……そこまで言うのならば、不子の罪、どう無罪になさるおつもりで?」
「なさるもなにも、すでに答えはでているのよね……ランスロット王子、ルルリカに振られた時のルルリカの言葉、一言一句覚えてますか?」
「は? いきなり何を言う。そんなものさすがに覚えている訳が……」
「『私、ようやく、ようやく本当の愛すべき人に出会った気がします、ネッテお姉様』」
アカネの問いに、ランスロットではなくテーテから答えが返る。
アカネが振り向くと、ニヤリとテーテが笑みを浮かべた。
「ランスお義兄様の記憶のあやふやさを指摘して煙に撒こう等と、まさかそんなことを思ったりはしていないでしょうね? 残念ながら、あの場に居た私が一言一句間違いなく言葉をお伝えいたしますわよ」
あの場に居たぁっ!? ちょ、それってまさかランスさんのストー……いや、無いよね? それはないよね。いやでも、蓼食う虫も好き好きって言葉もある訳だし、まさか、いや。そんなこと信じたくないっ。あ、でもランスの野郎苦虫噛み潰した顔してる。ええい爆死してしまえ!




