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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 その二人が結婚することを僕は知りたくもなかった
545/1818

その最後の証人が既に裏切っていたことを王子は知りたくなかった

「つ、次……」


 やたら疲れ切った顔でランスロットが告げる。

 幾人もの証人が証人席を後にした。

 幾多のヒューマンドラマが展開された。

 でも、どれもルルリカを断罪するには足りない証言だった。


 何しろ、女性、あるいは男性が必ず彼女を擁護するのだ。

 あり得ない。何故こうなる?

 最初に皆の意見を聞いた時には絶対にルルリカをハメる。そんなことをのたまっていた女も、ルルリカを許せないと泣きながら叫んでいた貴族も、皆が彼女に触れず、元婚約者の悪口を罵り合って去っていく。


 その度に展開される三文芝居。

 もはや傍聴者たちは芝居を見に来たのか裁判を見に来たのかすら分からなくなっていた。

 そんな混沌とした証人喚問も、間もなく終わる。

 これから来るのが最後の証人にして息子を刺された伯爵と、その息子を刺した侯爵令嬢である。

 やってきた証人の名はデニーロ・ロンダルギア。そして、ライナハームという名の綺麗な女性。

 綺麗……な?


 ざわり。傍聴席が揺れた。

 濡れたような長い髪を振りながら幽鬼のように歩く女はどう見ても貞○。テレビ辺りからぬぅっと出てきてもおかしくない女です。

 白い服着てるのがまた怖いっ。


「お初にお目にかかります皆さん。私はデニーロ、伯爵の地位にある者です。此度は我が息子が横の女性に刺されて後、ずっと自宅に籠ったままなので私が証人として来させていただきました。息子の話では彼女、ライナハーム嬢と婚約していたものの、自分を好きになり、明るい笑顔で元気づけてくれたルルリカに恋をした。もともと私とライナハーム嬢の親により結ばれた婚約だったこともあり、息子は恋に生きようとした。しかし、ルルリカに我が息子と添い遂げる気はなかったそうです。これに気付いたライナハーム嬢はルルリカの素性を調べ上げ、我が息子に警鐘を鳴らしたが、聞き入れられず狂気に囚われた。そう聞いています。どうやらライナハーム嬢は息子を心から愛してくれていたようで、自分のもとへ来ないのならいっそ死んで添い遂げよう。そう思ったようです」


 なるほどぉ。ライナハームさんは元々息子さんが好きだった。でもドロボー猫であるルルリカが現れ、息子さんがくびったけ。これはマズいとスト―キングを始めた彼女はルルリカの悪意に気付いた。

 そしてそれを息子さんに告げたのだが、ライナハームを好きではなかった息子さんはルルリカと結婚するんだと、そしてソレに嫉妬したライナハームがルルリカを嵌めようとしていると思い、ライナハームを遠ざけた。

 そして彼女は、気付いたのだ。


「私は……ずっと彼が好きでした。婚約が決まった時、三日三晩踊りました。彼と結婚出来る。婚約が決まっているから安心だ。ずっと、ずっとそう思っていました」


 あれ? なんか、またヒューマンドラマ始まりそうな感じがひしひしと……


「好きだったんです。なのに、ルルリカが現れて、婚約が絶対じゃないと気付いた。悔しかった憎かった殺したかった。殺しても物足りない程に辛かった。私を愛してるとすら一度も言われたこと無いのに、ルルリカは愛してるって、お前だけが好きだって何度も何度も何度も何度も」


 あ、これヤバい人だ。


「私はルルリカが現れたことで気付きました。彼を手に入れるには婚約では意味がない。結婚しても母のように見向きもされないのでは意味がない。ならどうする? どうしたら彼は私を見てくれる? でも、私はこんな容姿だからきっと振り向いてくれはしない。だったらッ!!」


 ゾクリ。全身が麻痺するような眼力に晒された。

 狂気に満ちた瞳を魅せつけられた傍聴者が恐怖しながらもライナハームから視線を逸らせない。


「殺すしかない。死ぬしかない。一緒に死んで転生するの、私は綺麗な女性になって、新しく生まれ変わった彼に求婚するの。ルルリカには二度と手を出させない。他の女にも絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に、彼と結婚するのは、一生添い遂げるのは私。私なのよっ。ハンスは私のモノよぉっ!!」


 怖い怖い怖いっ。

 ヤバいヤバいヤバい。

 この人絶対に壊れてるッ。


「私が一番ハンスを好きなの私が一番ハンスを好きなの私が一番ハンスを好きなの私が一番ハンスを好きなの私が一番ハンスを好きなの私が一番ハンスを好きなの私が一番ハンスを好きなの私が一番ハンスを好きなの私が一番ハンスを好きなの私が一番ハンスを好きなの私が一番ハンスを好きなの私が一番ハンスを好きなの私が一番ハンスを好きなの私が一番ハンスを好きなの私が一番ハンスを好きなの私が一番ハンスを好きなの――」


 ひぃぃぃっ!?

 壊れたように同じ言葉しか吐かなくなったライナハームさん。うん。これアウト。

 デニーロさんも若干引き気味だ。しかし。彼は気付いていた。長い髪に隠されたライナハームの美貌というものを。


「そうか。君はそんなにハンスが好きだったんだなライ」


「デニーロお父様?」


「もう一度、ハンスに会わせよう。そこで思いのたけをブチ撒けなさい」


「よいの……ですか?」


「なぜお前が終身刑になっていなかったのか。考えたかね? ハンスがお前に罪はない。そう私に告げたからだよ。だから。会って話しなさい。きっと、君なら大丈夫だ。ただし、ちゃんと髪を切り着飾ってからだ。よいね?」


「は、はいっ。お父様っ。よろしく、ぜひよろしくお願いしますっ!!」


「うむ。うむ。実に良い顔をしている。とても私好みの素敵な笑顔だ」


 チョイ待ておっさん。なんか雲行き妖しくないか?


「ああ、ランスロット王子、ルルリカ嬢の断罪でしたかな。すみませんが私どもには彼女を断罪する材料がないらしい。ここでお暇させてもらうよ。我が娘を着飾らねばなりませんからな。うむ。しっかりと私好みの素敵な衣装で着飾ろう。息子も見直すだろう。息子・・もな」


「は?」


「……デニーロさん、ライナハームさんを無理矢理着飾ったりしてはいけませんよ」


 最後に、にこりと微笑んだアカネが何かを三本毟るような動作をすると、彼は怯えたように頭を隠しながら逃げ去った。ランスロットは「は?」と大口開けたまま呆然としていて、彼らが去るのをただただ見送っていた。

 ライナハームさん、大丈夫かなぁ……さすがに息子の婚約者寝取ったりはしないと思いたいけれど……デニーロだからなぁ……

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