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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 その二人が結婚することを僕は知りたくもなかった
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その証人達の寸劇を国王は知りたくなかった

「はは、ははははははっ!」


 不意に、笑いがあった。

 嘲るような、自暴自棄になったような乾いた笑いだ。

 全員がその声の主へと視線を向ける。


 ランスロットさんが額に手を当てて笑ってました。

 あー、ちょっと壊れた顔してる。そろそろ、暴走しちゃうかな? バグ弾の準備は万全ですよ?

 一頻り笑ったランスロットはふぅっと息を吐くと、周囲を見回す。


「皆さん、その女の言葉に惑わされてはいけない。そこの女。ルルリカは悪女だ。それだけは間違いない。例え王族侮辱罪に出来ないとしてもだ。数々の貴族の婚約を破綻させ、女性たちの人生を狂わせ男達を手玉に取った事実は覆らん。それを証明しよう。第一の証言者。ゲルニカ、その彼氏だったワイズマンを召喚する」


 検察側の証人が呼ばれた。

 どうやら前哨戦は終わったらしい。ここからは検察側による、いかにルルリカが悪女であるかの印象付け、それが周囲の傍聴者たちに広がれば、おそらくそのままルルリカを悪として断罪するつもりなのだろう。


 証人喚問で呼ばれたのは二人の男女。

 ルルリカの友人ゲルニカさんと、寝取り寝取られた最初の男ワイズマン。

 国王やら重鎮の集まったこのような場所に呼び出された二人は、緊張しているようで証人用の席に立つ。

 隣合った瞬間互いに顔を見合わせ、ゲルニカはそっと距離を取った。


「初めまして皆様。ルルリカの幼馴染、ゲルニカといいます。あまり意味はないとは思いますが、ファミリーネームは伏せさせてください」


「お、同じく一番最初の彼氏になった、その……ワイズマンです」


 優男風の男はまいったな。といった顔で頭を掻いている。

 どう見てもチャラ男にしか見えません。絶対二股、三股当たり前といった様子で多分彼女が途絶えたことがない存在だろう。死すべきチャラ男。呪いよ届けっ。バグでもいいから届けっ。


「私は幼馴染のルルリカと最初は仲良く過ごしていました。少し腹黒いところはありましたし、周囲の大人に怒られると私を囮にして逃げるようなゲス思考でしたが、比較的仲は良かったです」


 赤抜けないお下げの少女。なんだろう、赤毛のあの方を思い浮かべてしまう。髪の色は亜麻色なのに。日記とか付けてそう。ドイツ兵は来ないだろうけど。

 そんな彼女は憎々しげにワイズマンを一瞬睨む。


「あーその、俺、いえ、私はルルリカを振ってゲルニカと付き合っていたのですが、ルルリカがもう一度付き合ってほしいと近づいて来まして、いつもと違って甘えて来るし、なんか気が付いたらルルリカの言われるままにゲルニカを振ってました。あんなに好きだったのに、なんだかブラッドフォックスに摘まれたようで、気付いた時にはルルリカも煙みたいに消えていて、あいつ、別の男と付き合ってました」


 ワイズマンの主張はつまり、ゲルニカさんと正式に付き合おうとしたら、ルルリカのせいで前後不覚に陥り、洗脳され、気付いたらゲルニカと別れさせられていた。

 ソレに気付いた時にはすでにルルリカも消えており、二股かけていた彼女二人ともとの恋が終わってしまっていたということらしい。

 成る程、確かに悪女として聞こえなくもない主張だ。しかし、


「この男、最初は素敵な優しい人だって思ったのに、ルルリカと二股してたなんてっ。ホント、最悪な男と別れられてせいせいしてます!」


 続くように気持ちを吐露するゲルニカ。

 その言葉はなぜかルルリカではなく隣のワイズマンに毒というか棘が向っている。


「ルルリカには感謝してるわ。何も知らない初心だった私がこんなくだらない男の毒牙にかかる前に男を寝取ってくれたんだから。御蔭で素敵な旦那様に出会えたの! ありがとうルルリカ」


 と、いいつつ、証人席から走り去り、傍聴席の一つに向う。

 そこに居た、気の弱そうなイケメンに抱き付いた。


「見てルルリカ、男爵家の方だけどとても優しい私の旦那よ! もしもあなたがあの男と別れさせてくれてなかったら、今付き合ってるあの女の子みたいに貢ぎに貢いで落ちぶれていっていたところだったわ!」


「ちょ、ゲルニカっ、彼女は貢いでなんて……」


「あなた、私言ったわよ。コイツと別れるなら今のうちだからっ! このまま借金塗れになって振られて、借金だけが残る結果なんて悲し過ぎるわよヘリア、ルルリカみたいに犯罪者の罪を着せられたいの?」


「待ってくれヘリア、違うんだっ。俺は……」


「二股、五股。何度も許そうと思ったけど、このバカ男っ、最低!」


 傍聴席の一つから飛び入り参加して来たちょっと気の強そうな、でも依存しそうなツンデレタイプの女性がワイズマンに近づいて、パッシィンと頬を張り飛ばす。


「別れます! もう二度と近づいてこないでください!」


「ヘリア、帰りましょう」


「はいゲルニカさん!」


 なんか……寸劇が唐突に始まって終わったんですが……なんぞこれ?

 手を繋いで証人席を後にするヘリアとゲルニカ、ついでにその夫。夫さんが帰っちゃって大丈夫? みたいな心配そうな顔をしながらゲルニカに腕を引かれて去って行った。


 あー、うん。お幸せに?

 ルルリカの悪女度を証明するつもりが、ワイズマンのヒモ疑惑と最悪な男だってことが傍聴者にばらされただけで終わりました。

 本当に、なんぞこれ?

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