その振られた男の嫉妬を国王は知りたくなかった
「さて、では次の罪、王族を振ったということですが、これは男女の機微であることは明白。そして先程の状況で察していただけたことと思いますが、ルルリカがしでかしたこととはいえ、彼女を死地から救いだしたのはランスロット王子ではなく、ネッテ王女でした」
カレー臭が漂い出した傍聴席。
目の前ではアカネが得意げに話を告げており、対象となっている国王は戸惑いの顔で両隣の王子たちに視線を向けている。
お前達、なぜいきなり儂を無視して話進めてるの? そんな顔をしていた。
国王のうろたえる様子はちょっとコミカルで笑えてしまう。
いや、我慢する必要はないよね。何せ僕は周囲には見えないんだし。うん、遠慮なく笑っとこう。
「『そう? 丁度よかったわ。私も城に戻って正式に絶縁状叩き付ける予定だったのよ。互いに両想いなら丁度良いわね。あなたとは縁がなかったということで、コイントス王国との提携についても白紙撤回させていただきます』そう、ネッテ王女が告げ、二人は互いに婚約破棄を了承しました。つまり、この時点において王子と王女には隔絶した絶交の意思が互いに存在していたということです。つまり婚約破棄はこの時点で互いの了解の元有効な契約破棄となっていたと思われます。そしてマイネフラン国王はこの話を聞き、婚約破棄を受け入れました。コイントス側はどうですか国王陛下?」
「む、むぅ……それは……」
「その婚約破棄はネッテ王女とカイン君の婚約が正式にマイネフランで決まったということでこちらも了承しております。そうですね父上」
「え? いや、儂は……」
「おや? 父上、つい先日宰相殿がマイネフランにネッテ王女とカインさんの結婚式参加の知らせを送り返していましたが、こちらも受け入れていたのではないのですか?」
意外そうに告げる第二王子パーシハル。
え? 嘘、マジ? 宰相、ちょっとそれどういうことっ!?
そんな顔をしてがばっと振り向く国王陛下。宰相はさっと顔を背けた。
「さ、宰相?」
「その、第一王子が祝福しましょうと」
「私のせいにしないでください宰相。父上の許可を取って送って下さいと告げてあったでしょう」
「うぐっ!?」
どうやら宰相さん、どうせ反対してごねると思った国王には告げずに祝福の手紙を送っちゃったらしい。
多分だけど第一王子が威圧か何かしたのだろう。国王の許可とかいいつつも内緒でさっさと送れ、祝福には私が向う。とか言ったんだろうなぁ。あの人結構決断力は凄いから。
「さて、それでは続きをお話ししても?」
「ま、待ちたまえ、儂はまだ納得を……」
「既にコイントスの意思として手紙は送られております。ネッテ王女とカイン君の婚約はこちらも認識して許容した。そういう手紙が既にマイネフラン王のもとへ送られているのですよ。ここで手のひら返しをしてしまえばどうなるか、理解されておりますよね父上?」
笑顔で威圧、あの人怖い。アンサー王子は国王の資質あり過ぎかもしれない。
ヤバいぞ笑顔の威圧外交とかし始めたらマイネフランも手玉に取られかねない。
でも、あの人が次期国王ならコイントスは安泰だね。
「続きをどうぞ、アカネさん」
アンサー王子に促され、アカネが頷く。
「さて、婚約破棄については理解していただけたと思います。これはルルリカさんに関係なくランスロット王子が自ら口にしたことであり、互いの同意を得た結果のこと、彼女に罪は存在しません」
傍聴席から納得の声が聞こえる。
結構な人数がルルリカに同情的になった。
いや、悪女だよ。この女本当に悪女だから。そんな無実の罪を王族から掛けられた、いたいけな少女見るような眼で見ちゃダメな人だから。
ばりっばりの悪魔みたいに男騙しまくってる奴だからっ。
「カインさんを横に連れて来たネッテ王女に対抗したかったのでしょう。ランスロット王子はルルリカさんを横に連れて来て婚約発表をし返そうとしたのですが、ここでルルリカさんはネッテ王女に抱き付きます。私、ようやく本当の愛すべき人に出会った気がします。ネッテお姉様。そんな台詞を吐いてました」
呆れた顔で告げるアカネ。その言葉が紡がれた後の傍聴席は、やはりルルリカに対しては同情的な視線を向けている。
死地から救われた少女、自分を助けてくれた王女に恋をしてしまったのだ。
つまり、これはルルリカがランスロットを振ったというよりは、ネッテ王女がランスロット王子からルルリカを寝取った。そういう状況だと解釈出来てしまったのだろう。
ネッテさんマジ罪深です。
「ルルリカがランスロット王子から離れた理由も聞いております。彼女が危険に晒されたとき、いつも叫ぶばかりで何もしてくれなかった。でも、そんな彼女をいつも助けてくれた人がいた。彼女が龍の髭を奪ったのに、身を呈して彼女を庇い身代わりとなった、ルルリカにとっては初めて本気で彼女を心配してくれた人だったようです。ネッテ王女に完全に惚れこんだそうですよ。女同士なのに」
呆れたのはアカネだけじゃなかった。
傍聴席も宰相さんも、ネッテ王女の男らしさと当然の結末を迎えたランス王子を脳裏に浮かべ、呆れた顔になっていた。
ただ、カレー臭だけが無駄に周囲を漂っていた……




