その水晶の里で出会う存在を僕は知らない
「……と、いうことがあったのだ!」
玉座に座り、興奮した面持ちで話すアルベルトに、クーフは楽しそうに相槌を打つ。
もう、既に同じ話が三度目になっているが、クーフは怒る事も幻滅することもなかった。
もともとアルベルトのこういう子供っぽいところをずっと見て来たクーフだ。
楽しい冒険があったのならば、身体を命一杯使って楽しげに何度も語るのは、昔にもあったことである。
「無事に戻って来れてよかったです。ワンバーカイザーも救出出来たようですし」
「うむ。うむっ。妹があのような紳士に口付けしたのは許し難いが口と口ではないからな。目くじらは立てんぞ。俺は大人だからな。しかし、あの紳士も不思議な生物だな。ああ。今は侯爵だったか。幼女のキスを手に入れるごとに進化するってのが驚きだ。たったそれだけのことで強化されるのなら、勇者として現役だった俺が凱旋していれば物凄いレベルアップがあったのではないかと悔しくてならん。なぜ俺には奴のような進化スキルがないのだ!」
「水晶剣があるだけ良いではないですか。ああ、どうぞ勇者様。ようやくアンブロシアの量産の目途が付きました」
「おお、リンゴとやらだな。アレ美味いんだよな。これがソウタの世界にあったウサギ型リンゴという奴であろう。ふふ、いいな。久々に食べるが美味い美味い」
「この時代で判明したのですが、どうやらこの実を食べた魔物は知恵を得るようです。我がパーティーの辰真もそうですし、他の魔物達も一度は食しているかと」
「ほぅ、では人間が食べるとどうなるのだ?」
「さて? 我々も何かしらの変化があったのかもしれませんな。ああ、でも、他の国の者と比べると腕力が強くなっているような気はしますな。もともと私は異世界のモノでしたし、ここまで腕力はありませんでしたからな。柩を持つのもセルヴァティア王国民だけのようですし。案外、この実の恩恵であったのやもしれません」
「ふむ……まぁ、美味い実の量産が実現できたのならば問題無い。そのまま続けよ」
「はっ」
クーフは頷いて一歩下がる。
そろそろ仕事に向おう。そんなクーフに、ふとアルベルトは気付いたように告げた。
「そういえばネフティア達はどうした?」
「本日はこの国に泊っていただきました。といっても風化が凄まじいので我々で建てておいた宿屋の方で就寝ではありますがな。急ピッチで街の入り口付近に造っておきました」
「さすがはクーフ。仕事が早い」
「今頃はおそらく……まだ宝箱談義を続けておるのでしょうな。終わったらこちらに一度声を掛けると言っておりましたので」
「ふむ。そうか。まぁ余はしばらく満足じゃ。プリカとの戦いで自分の至らなさを痛感したしな。しばらくはここで昔の勘を取り戻さねば。クーフその間水晶剣の作成を頼むぞ。次は数千数万数億の水晶剣を使い最強の勇者としてセルヴァティア王国に君臨しよう。そして、ハーレム王に俺はなるぞっ!!」
「うわぁ……」
不意に、声が聞こえた。
クーフとアルベルトが謁見の間の入り口を見ると、壊れた扉の隙間から数人の気配。
「何者だ?」
アルセイデスのチェーンソウを引き抜いたクーフに、覗いていた人物たちがぞろぞろと謁見の間へとやってくる。
「普通は王族相手には筋を通すべきなんだろうけどよぉ」
「何、クーフ、お前が私ならばいつでも訪ねよ。と快く言ってくれただろう? まさか忘れたわけではあるまい?」
不遜な態度の白銀少女が声をだし、それに乗っかるように後ろに居た漆黒の鎧を着た女が前に出る。
その顔を、クーフは見忘れることはなかった。
思わず目を見開き感嘆の声を漏らす。
「な、なんともはや。この時代でもう一度あなたと会えようとはな。息災か魔王とその従者。いや、その姿でいるのならば息災か」
「うむ。ついさっき封印から解かれてな。こちらの待ち人がようやく辿りついたので異世界へ帰ろうと思うのだ。その前に、1000年後のセルヴァティア跡地を見ていこうと思ってな。まさか復興の兆しを見せていたのには驚いた。しかも私が見たことのある面々がフレッシュゾンビ化してはいたが普通に動いていたからな。一瞬本当に1000年経ったのかと焦ったぞ」
同じ異世界の存在は、そう言って楽しげに笑う。
「いいモノだ。数千年を経ても変わらぬ日常がそこにあるというのはな」
「こちらもつい先日復活したばかりでな。風化した街の復興を始めているところだ」
「ああ、前は敵対していたツッパリたちとも和解したようだしな。素晴らし……なんだ?」
楽しげに会話をしていたクーフと魔王を名乗る女。その魔王へとゆっくりと近づく水晶勇者。
「率直に言おう、気に入った! 我が妻にしてやるぞ。毎日俺とセッ○スしてくれ!」
「殺しますよイケメンクソ野郎。この人は僕が先に求婚してるんだ!」
セーラー服を着た女の子っぽい男が叫ぶ。顔を見た瞬間男と気付いたアルベルトはキャンキャン喚くそいつの頭を押しのけ、魔王に求愛を……と見せかけてすぐ隣の白銀の少女に気付く。
この娘、胸が……デカイ。胸がデカイのに背が小さい、だと!?
「お、おい、そこのチビ娘、そのデカパイ揉んでいいか! 甘く切なく優しく激しく揉んで、いいかっ!」
「ブチ殺すぞカスが」
言葉と共に飛んできた鉄拳が、アルベルトの意識を刈り取ったのは言うまでも無かった。




