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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その少女の結末を僕は知らない
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その幼女の微笑みを僕は知らない

 悪魔は去った。

 ワンバーカイザーは呆然と、連れていかれたプリカを見送っていた。

 ずっと、囚われつづける人生なのだと思っていた。

 ずっと、もう会う事はないだろうと思っていた。


 視線を変えれば、困った顔でこちらを見るのじゃ姫。

 一度抱きしめることが出来なかったからか、両手を開いてワンバーカイザーを抱きしめたいけど、また無視されるかもといった不安が顔に出ている。


 ワンバーカイザーは自分の行いを恥じていた。

 あの時、そのまま彼女に抱き付いて居ればきっとこんな結末には……否、プリカの自業自得は変わらないだろう。だからこそ、ワンバーカイザーはプリカを心配したのだ。


 確かに、酷い目には遭わされた。でも一緒に居るうちに、彼女の葛藤を知った。自分の美味しさに狂って行く彼女を一番身近に見ていただけに、もはや他人とは思えなかったのだ。

 でも、結局プリカにとってワンバーカイザーは被食者にしか過ぎなかった。

 自分はプリカを信頼し、きっと皆に謝ってくれると勝手に勘違いして期待して、結局はまた喰らわれ、皆に迷惑を掛けてしまった。


 今更、どの面を下げてのじゃ姫に抱き付けというのか。

 しゅんと項垂れていると、老紳士がゆっくりと歩いて来る。

 プリカを倒した男だ。

 今度は幼女の敵として、自分を倒しに来たのだろうか?


 ロリコーン侯爵はワンバーカイザーのもとへやってくると、膝を折って彼に視線を合わせる。

 見上げるワンバーカイザー。


「フォ」


「クゥン……」


 行かないのですかな? そんな問いに、ワンバーカイザーは首を振る。

 のじゃ姫ではなくプリカに走った自分が、今更のじゃ姫のもとに戻るのはおこがましいのではないかと告げる。

 しかし、そんなワンバーカイザーに侯爵はゆっくりと首を振る。


「行きなさい。幼女が、待っていますぞ」


 にこやかな笑みを浮かべる老紳士に、いいのだろうか? ともう一度だけ視線を向ける。

 そんなワンバーカイザーの背中を優しく押し出すロリコーン侯爵。

 促されるように、ワンバーカイザーは歩きだす。

 不安そうにワンバーカイザー見つめるのじゃ姫へ、次第、早歩きに、そして走りだす。


「のじゃ……のじゃぁッ!」


 不安げに声を漏らすのじゃ姫に、泣きながら飛び付くワンバーカイザー。ようやく来てくれたのだとのじゃ姫は身体を命一杯に開いて彼を受け止めた。

 幼い身体では突進を受け止めきれずくるくると回ったが、踏ん張り効かせてのじゃ姫はワンバーカイザーを抱きしめる。


 抱きしめた瞬間、のじゃ姫の目に涙が浮かぶ。

 ようやく、再会できた。

 その喜びに、涙は止まらなくなった。

 ワンバーカイザーが泣くなというようにのじゃ姫の頬を舐める。

 親愛の証だというように油塗れにしていくワンバーカイザーに、のじゃ姫は強く抱きしめることで応えた。


 彼女の横にやってきたネフティアがよかったね。とのじゃ姫の頭を自分の胸元へと寄せた。

 一瞬ネフティアを見たのじゃ姫はこくりと頷き、また泣きだした。

 やがて、アニアにより回復を終えた面々が起き出す。

 バズが、辰真が、ロリコーン侯爵がのじゃ姫を囲うように集まる。

 のじゃ姫の頭にバズが手をやって撫でる。


 ここまでよく頑張った。そんな意味を込めた鼻息を鳴らし、優しい顔で周囲を見た。

 闘いを終え、集った仲間たちがいた。

 彼らから子豚を受け取った、戦乙女の花園の面々も、赤き太陽の絆の面々も、どうやら無事に救出成功したようだと、互いに生存と勝利を喜びながら、再会にむせび泣くのじゃ姫のもとへ、自然と集まって行った。


「ようやく……任務完了。かなバルス?」


「みたいだね。はぁ……さすがにこんな長い旅になるとは思わなかったなぁ」


 溜息を吐きながら叢に向って服を着かえるバルス。その姿をチラ見しながらユイアは、集まりのじゃ姫たちの再会に共感しているメンバーを眺める。

 バルスと二人、その輪に入ることはできない。

 なぜなら、自分たちが発端なのだから。


 コルッカでのじゃ姫たちにワンバーカイザーを無事に届ければ問題無かったのに、自分たちのミスでワンバーカイザーを再び奪われ、こんな大事になってしまった。

 皆のように結果良かったね。とは行かないのだ。


 バルスはそこまで考えてはいないだろうけれど、ユイアは楽観視できない。

 それでも、失敗をいつまでも引きずるつもりはないので、今は皆と一緒に喜べないというだけだ。

 手元に残された魔物図鑑を見る。

 いつの間にかネフティアから戻された図鑑。幾つか新しい魔物も登録されたが、正直プリカやロリコーン侯爵のステータスのせいで霞んで見える。


 そして、その中にある自分のステータス。

 なまじ見えてしまうから……辛い。

 戦乙女の花園、赤き太陽の絆。彼らのステータスと自分たちを見比べてしまう。

 所詮ベテランに届かないハンターなのだと告げられているようだった。

 だから、まだ、彼らの輪に入れない。入りたくない。

 いつか、きっと胸を張って対等に成れるまでは……


「バルス、そろそろ行きましょ」


「へ? 行くってどこに?」


「帰るのよ、マイネフランに。私達の仕事は終わったわ」


「え? でも……」


 戸惑い、皆に振りかえりつつもユイアに付いて行くバルス。

 皆、次に合う時は、プリカさんを自分たちで止められるくらい強くなる。だから、その時は、一緒に笑いあえたらなって、思います。

 一度だけ皆に視線を残し、ユイアとバルスはそっとその場を立ち去ったのだった。

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