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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その少女の結末を僕は知らない
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そのある意味最終決戦を僕は知らない

「ワンバー……ちゃん……」


 かすれた声で、プリカは自身を舐めるワンバーカイザーを見る。

 正直、もう自分のもとへは戻って来ないだろうと思っていた。

 当然だ。プリカのしたことといえば何度も殺し、喰らい、貪った。

 ワンバーカイザーにとっては悪夢の日々だっただろう。


 無残に殺されたと思った次の瞬間には別の殺され方をしているのだ。

 それが既に数ヶ月。

 下手すれば精神異常になっていても仕方ない程の長期間。監禁捕食である。

 それなのに……


「私を心配……してくれるの?」


 これから、プリカの人生は最悪と言っていいだろう。

 どちらにせよ、既にワンバーカイザー依存症となっているプリカにとってワンバーカイザーを喰えない日々というのは地獄だ。おそらく何も食事を喉に通せず弱り切って死ぬしかないだろう。

 それ程に、プリカはワンバーカイザーに依存していた。


 だから。

 ワンバーカイザーに手を伸ばす。

 ごめんね。そう呟き、抱きしめながら……心配するワンバーカイザーにかぶり付いた。


 悲鳴が上がった。

 やめてくれと叫ぶワンバーカイザー。

 多分、本気でプリカを心配してくれていたのだろうが、それは過ちなのだ。

 もう、プリカが変わることはないのだ。


 ワンバーガー依存症となった以上、彼女にはワンバーガー無しではいられない。

 だからこそ、無謀にも近づいて来た獲物は、捕食するしかない。

 のじゃ姫の悲鳴を聞きながら、残った四肢と尻尾を投げ捨てる。


 食べたら少し、力が出た。

 まだ、やれる。まだ。抗える。

 ワンバーカイザーは私のモノだ。絶対に……この獲物は逃さないっ。


 立ち上がるプリカ。

 その絶望を前にして、ネフティアたちは戦慄せざるをえなかった。

 再生を始めたワンバーカイザーは正気に戻ったのだろうか? ようやくのじゃ姫のもとへとやってくると恐怖で震えながら彼女の背後に隠れた。


 そんなワンバーカイザーを複雑な顔で出迎えたのじゃ姫は、被りを振るう。

 きっ、と目の前の悪魔を睨みつけた。

 そして裾からのじゃっとばかりに取り出す串団子。

 ネフティアに一本与え、二人して食べる。

 体力回復を終えたのじゃ姫は串を受け取ると、開戦だ。とばかりに二本の串をプリカへと投げつける。


 プリカもまた、動き出した。

 飛んできた串を叩き落とし、四足で駆けながら倒れていたアルベルトの水晶剣を奪い取る。

 口で柄を噛み、飛ぶと同時に辰真に斬りかかった。

 首を振るっての一閃。アルセバットで思わず受ける辰真。

 水晶剣によりアルセバットが切り裂かれ、水晶剣が破壊される。


「オルァ!?」


 俺の武器がっ。そんな泣きそうな顔をする辰真に、着地と同時に蹴りかかるプリカ。

 蹴りを受け止め、その足を掴んで投げ飛ばす辰真。

 空中でくるりと反転したプリカは、シルフズトーネードを使ってロケットダッシュ。


 走り寄るのはネフティア。

 今度こそ四肢を切り飛ばすとばかりに殺気を漲らせて斬りかかる。

 が、振り降ろしたチェーンソウが当る直前、二段ジャンプでプリカが視界から消えた。

 しまった。と思った次の瞬間、横合いからプリカの肘鉄が襲いかかる。

 一瞬意識が飛んだ。


 気付いたら地面にうつぶせに倒れていた。

 ネフティアは咄嗟に顔を上げる。

 プリカは丁度辰真と闘っているところだ。

 気付いたネフティアにのじゃ姫が駆け寄る。

 どうやら気絶していたらしいが、一瞬だけのようだった。

 被りを振って立ち上がる。


 脳が揺れているのだろうか? 足がふらつく。

 よろめきながら立ち上がって、気付く。両手が自由だ。何も持っていない。

 いつの間にかチェーンソウは直ぐ近くの地面に落ちていた。

 手放してしまっていたようだ。


「のじゃ……」


 心配そうに告げるのじゃ姫。

 ネフティアは大丈夫。と親指を立て、ふと考えた。

 のじゃ姫にアイコンタクトを送ってみる。


「のじゃ?」


 こてんと首を捻るのじゃ姫。

 ネフティアの思いは伝わったようだが、ソレをする意味があるのか? と不思議そうな顔をしていた。

 だが、それは確かに意味のある行為である。

 ネフティアは再び親指を立てる。


 少女の願いに、のじゃ姫はこくりと頷いた。

 そして、目的地向けて走りだす。

 ソレに気付いたプリカが辰真を蹴り飛ばし走りだす。


 四足で駆ける彼女は恐ろしい程に速い。

 ネフティアがチェーンソウを拾いプリカに走るが、彼女が追い付くより先にのじゃ姫の背中へと迫るプリカ。

 鋭い爪の一撃を背中に叩き込む、刹那、


「ッ!」


 やらせない。

 頭から血を流した甲冑美女が割り込んだ。

 自慢の大盾を掲げてプリカの一撃をぎりぎり受け止める。

 ようやく復帰したアディッシュが参戦を始めた。


「邪魔ァッ!!」


 しかし、側面に回り込んだプリカが回し蹴り。

 マジックシールドの小盾で受け止めるアディッシュ。

 マジックシールドがひしゃげて跳ね上げられた。

 突き出された掌が彼女のわき腹を撃つ。


 浮き上がったアディッシュが吹っ飛ばされたのと、倒れたロリコーン紳士の額に、のじゃ姫が口付けるのとは同時だった。

 紳士の更なる進化が……始まった。

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