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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その少女の結末を僕は知らない
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そのワンバーの走る先を僕は知らない

「シルフズトーネード!」


 渦巻く風がプリカを押し上げる。

 まるで砲台のように台風に押し上げられたプリカが吹き飛んだ。

 真っ直ぐに迫りくるプリカ、空中で体勢を整え真上を見上げるアルベルトとロリコーン紳士に突撃。

 その顔面を掴み取り、双方纏めて地面に激突させる。


「がぁっ!?」


「フォッ!?」


 アルベルトはこのダメージがかなり負担になったようだが、変態紳士は気力でプリカの腕を跳ね上げ立ち上がると同時に反撃。

 ステッキの一撃を受けたプリカが飛び退いた。

 シルフズトーネードを上手く使い、スプリングのようにしたプリカが空を飛ぶ。

 中空でさらに唱えたプリカが猛スピードでネフティアに襲いかかる。


 振り被ったチェーンソウを起動する。

 襲い掛かるプリカを迎撃せんと構えるが、それより先にロリコーン紳士が跳んだ。

 風に揺らめく見てはいけないモノを直視したネフティアはうあっと嫌そうな顔をしてのじゃ姫のもとへと逃げ出した。


 代わりにプリカへと跳び上がったロリコーン紳士が全裸のまま刺突を繰り出す。

 真剣な顔なのに全裸なのが締まらない。

 あくまで紳士的な動きをするが、そこがまたプリカにとっては癪に障る存在に見えた。

 突き出されたステッキをぎりぎり避ける。


 頬を切り裂かれはしたが、ロリコーン紳士の顔面へと拳を叩きこんだ。

 ふぉっと潰れた声を出したロリコーン紳士がバランスを崩して落下していく。

 そんな彼に身体を入れ替えて踵落とし。

 再び顔面にダメージを叩きこみ、共に地面に激突する。


 完全に倒した。

 プリカはロリコーン紳士が動きださないことを確認し、残る三体の敵を見る。

 辰真、ネフティア、のじゃ姫。

 他にも数人居るけれど、モノの数に入らない。

 この三人を倒せば、ワンバーちゃんは私のモノだ。

 再び狂気に彩られそうになる思考を気力で抑え込む。

 頭がぼぉっとしてくるが、目の前の敵に意識を集中する事で本能を押さえ込む。


 しかし、その足を、誰かが掴んだ。

 これ以上は行かせん。とばかりに両足が掴まれている。

 見れば、右足をアルベルトが、左足をロリコーン紳士が、意識がないように目を閉じたまま、しっかりとした力強さで掴み取っていた。


 妹のもとには、幼女のもとには行かせない。

 そんな二人の底力を見せつけられるようだった。

 はっと、プリカは気付く。

 二人に気を取られた一瞬。その一瞬、確かにプリカは全ての警戒を怠った。

 気付いた時には遅かった。


「オッルアァァァァッ!!」


 走り寄った辰真の拳が眼前に迫っていた。

 避け切れる間合いではない。

 逃げたくとも両足は掴まれている。

 終わる?


 渾身の拳が突き刺さる瞬間、プリカの視界にははらはらと見守っているワンバーカイザーの姿があった。

 無意識に手を伸ばす。

 獲物を求めての行為だったのか、それとも……


 プリカの顔面に渾身のストレートが突き刺さる。

 吹き飛ぶプリカ。その意識もまた、虚空の彼方へと吹き飛んでいるようだった。

 投げられた人形のように二転三転頭から地面を転がるプリカ。己が作りだした骸の山に背中からぶつかり座り込むようにして止まった。


 まるで悪漢に襲われたような壊れた目で力尽きるプリカを警戒しつつ、辰真は拳を降ろす。

 空を見上げ、ようやく終わった。そんな顔をしていた。

 恐る恐るのじゃ姫とネフティアが辰真のもとへ寄ってくる。

 そっと辰真の背後から覗く二人は、もうプリカが起き上がらないことを確認して息を吐いた。


「ござる」


 唯一護衛として生存していた殿中でござるがのじゃ姫に声を掛ける。

 なんじゃ? とばかりに彼を見ると、どうやら背後を指差しているようだ。

 振り返ると、ワンバーカイザーが尻尾を振っていた。


「のじゃっ!?」


「ワンっ!」


 一声鳴いて、ワンバーカイザーが走りだす。

 のじゃ姫も両手を広げ、涙を流した。

 ワンバーカイザーとの感動の対面。

 ようやく、叶ったのだ。


 ダンジョンより脱出して以来、プリカに拉致され酷い目に遭わされたワンバーカイザーをようやく救いだす事が出来たのだ。

 涙がこぼれる。

 滲んだ世界の中、懸命に駆け寄ってくるワンバーカイザー。

 抱きしめよう。これからは大切にするのだ。一緒にアルセのもとへ帰ろう。

 ワンバーカイザーが目の前へ。

 両手で受け止めようとしたその刹那。

 ワンバーカイザーはのじゃ姫を通りこして駆け抜けていった。


 すかっと空を切る両手には何もつかめていなかった。

 二度ほど同じように空気を抱え込み、そこにワンバーカイザーが飛び込んでいないことを再認識するのじゃ姫。


「の、のじゃっ!?」


 なぜじゃ!? とばかりに背後を振り向けば、既に力尽きたプリカへと駆け寄り、油まみれの舌で舐めているワンバーカイザーの姿。


「の、のじゃあああああああああああああああっ!?」


 なんでじゃぁっ!? そんなのじゃ姫の心の叫びが森に響き渡ったのだった。

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