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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二部 第一話 それが偶然の一致だと彼らは知らない
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それがスライムかどうかすら誰も知らない

 そして数時間。

 アルセが遊んでいる間、魔物なら大丈夫だろうということでアルセの保護者として選ばれたバズ・オークがアルセを暖かく見守っている。

 バズ・オークの目が父親の目をしている。何だあの和んだ顔は?


 カインたちは相変わらず岩陰に隠れていた。

 こっちは手持ちぶたさで暇そうにしている。

 こういう時って人だと大変だよね。

 僕は見えないから自由に動けるけど。

 まぁ、誰にも見られてないからやることないのは変わりないんだけど。


 折角なのでバズ・オークの隣でアルセを見てることにした。

 おおう、いつの間にか鮭人間の他に二足歩行の亀が参戦している。

 水の掛け合いだけだから安心して見れるので楽だ。


 しばらく、バズ・オーク共々アルセを見ながらほっこりしていた。

 やがて、夕闇が迫り始めた頃、鮭人間が手を振りながら水中へと帰っていく。

 亀人間もいつの間にかいなくなっていた。

 家、あるのか? いや、それよりも、まるで人間の子供みたいだ。

 夕方以降は危ないから帰るとか。ちょっと、昔が懐かしい。


 まばらになり始めた魔物たちに変わるように夜の魔物がぽつぽつと顔を出し始める。

 夜行性生物というより夜行性魔物が動きだしたらしい。

 なんだ夜行性魔物って。自分で言いながらもちょっとびっくりだ。

 魔物って夜寝るのと夜行性に分かれてるのか。普通の生物と一緒だね。


「こんだけ暗けりゃ姿見せても大丈夫だろ」


 不意に声が聞こえてそちらを見れば、カインたちが岩陰からやって来てバズ・オークの隣に来る。

 アルセもそれに気付いてこちらに戻って来ていた。

 服がびしょ濡れだ。といっても蔦だから濡れても意味はないのだが。

 笑顔満面川から上がってきたアルセはリエラとネッテのもとへ近づいて行く。

 途中、犬や猫が行うように身をぷるぷると震わせて水滴を飛ばすと、二人のもとへと駆けだした。


「アルセ、ずいぶん楽しそうだったわね。楽しんで来た?」


 あうっ。と声を出すアルセ。言葉を理解しているのだろうか?

 よく分からないが、その言葉を出すと、何故か進路を右に変え、河原の隅へとアルセが駆けて行く。

 丁度彼女の身体を隠せる程の大岩が在り、アルセはその向こう側へゆっくりと速度を落として忍び足で姿を消してしまった。


 さすがに何かあってはマズいと、気付いた僕が確認に行く。

 そこで見たものは……アルセに両手で抱え上げられた半透明の空色葛餅だった。

 ……スライムだ。スライムがいる。

 いや、これが本当にスライムかしらないけどさ。


 というか、スライム手に持って大丈夫なのか?

 吸収されて溶かされたりとかしちゃわないのか?

 その場合僕は何も出来ないぞ。


 ほら、アルセ、危ないからポイしなさいポイ!

 しかし、アルセは物凄い嬉しそうな笑顔でスライムらしき物体を抱え上げる。

 ただ、スライムらしき物体はそれが嫌なようで、うにょーんと下に身体を伸ばすと、地面に接着。


 そしてアルセの手の中から全身を地面に落としてゆっくりと這いずり始める。

 どうやらアルセから逃げているつもりらしい。

 動きが遅すぎるので直ぐに捕まりアルセに持ち上げられていた。

 そしてまたうにょーんと身体を伸ばして地面に逃げる。

 それを、アルセは遊びか何かと感違いしたようで、実に楽しげに持ち上げては逃げられを繰り返していた。


「なにしてんだアルセ……ってなんだそりゃ?」


 暗がりからやってきたアルセを見たカインたちは、アルセが持ち上げたスライムっぽい物体を見て目を丸くしていた。


「何かしら? スライム……にしては随分とのんびりしてるわね」


 確かに、周囲に存在するスライムにしては色が若干薄い気がする。

 どうもこのスライムモドキはスライムではないらしい。

 スライムに似てはいるが別の生物であるようだ。


 ただのスライム亜種なんじゃないのかね? ほら、生活環境が違うと別種になるっていう代名詞じゃんスライムって。

 あるいはスライムに擬態してる他の生物? 擬態するならスライムより強そうなの一杯いるよね?


「スライムって、これとは別なんですか?」


「ああ。あいつらは触れたモノをなんでも体内に取り入れ消化しちまうんだ。幾つか種族はあるんだけど全部そんな感じだな。ああやって手に持っても取り込まれてないってのがスライムなら絶対にありえないことだ」


「別の魔物なんでしょうけど。初めて見るわね。ミクロンが喜びそう」


「だからさ、周囲にいるスライムをこいつみたいに持とうとするなよリエラ」


「な、なんで私だけなんですか!?」


「アルセの見て自分もスライム抱き上げたいとか思ったろ絶対」


「そ、そそそ、そんなことある訳ないじゃないですか!」


 慌てるところが凄く怪しいリエラだった。

 そしてしばらく、アルセとスライムモドキとの格闘? は続く。

 けど、結局スライムモドキの方が諦めたようだ。


 笑顔満面のアルセの両腕に収まりプルンとした半円状のラグビーボールみたいになっている。

 それをリエラが近づいて脇からぷにぷに突いている。

 一応カインたちに見られない様隠れてやっているつもりだが、僕からは丸見えだった。

 抱きたいらしいなリエラも。こういうの好きなんだろうか?

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