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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その少女の結末を僕は知らない
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その生れいでる世界の宝を僕は知らない

「のじゃーっ!」


 のじゃ姫の指令で無礼でおじゃると殿中でござるが殺到する。

 しかし、彼らに噛みつき、殴り飛ばし、暴れ回るプリカにとっては有象無象は時間稼ぎにしかなっていないらしい。

 焦るのじゃ姫。

 ワンバーカイザーが目の前に居るのに、助けに入れない。


 復活したワンバーカイザーは怯えたように尻尾を丸めてその場に縮こまっている。

 ソレを見つめるのはのじゃ姫だけではなかった。

 美味しそうなモノを見るようにプリカがさらに涎を垂らす。


 速度と凶暴性がまた上がった。

 際限なく強化されて行くプリカ。

 飢餓スキルが無駄に強い。


 駆逐される勢いで減っていくおじゃる軍団。またたく間に消えていく配下に泣きそうな顔ののじゃ姫、ついでに召喚されていたガルーがのじゃ姫の裾にくっついてプルプル震えている。

 円らな瞳が潤んでいるのが可哀想に思えて来るネフティアだった。

 あいつだけ召喚戻してやればいいのに……


 おじゃる軍団の御蔭で少し休憩できた面々は気勢を整え再び突撃する。

 プリカの余裕が出てきた瞬間、懐に飛び込む辰真。

 拳を振り抜くが、魔王の一撃すらもプリカは避ける。

 避けた先に更なる拳、エンリカの攻撃もぎりぎりで避ける。

 しかし、次のバズの一撃はさすがに避け切れなかったらしい。


 見事な連携でわき腹を貫かれたプリカは、しかし、その状態でバズの頭を掴み取る。

 ぶひっ!? と驚きを漏らすバズ。破壊される水晶剣と共に、持ち上げられたバズが後頭部から地面に落とされる。その刹那。


 今までとは比べ物にならない一撃がプリカを吹き飛ばした。

 地面を陥没させる程の踏み込みで正拳突きを放ったエンリカ。

 憤怒に彩られたその顔は、バズを危険に晒した者への嫉妬の悪魔。


「プリカ……本当に……やっていいことと悪いことっていうのがあるわ」


 バズを救ったエンリカだが、その怒りは天上突破でプリカに向けられる。


「今度は……潰すわよ!」


 ついに、嫉妬の大罪者が本領を発揮する。

 速度は互角、威力はエンリカ、野生の勘ではプリカ。

 ほぼ拮抗した闘いは、魔王化した辰真すらも下手に介入できない状況だった。

 血だらけになりながらも拳を打ち合い、噛みつき蹴り放す二人のエルフ。


 唸りと共に突撃するプリカ。ワンバーカイザーを喰らうという目標のため、邪魔する全てを駆逐せんと殺す気でエンリカに襲いかかる。

 だが、今回はエンリカだって躊躇はしない。

 なにせ、バズが殺されかけたのだ。あのまま地面に叩きつけられていれば、おそらくバズは死んでいた。


 その事実が、プリカへの殺意を解放した。

 手加減は一切しない。こちらも殺意で対応する。

 嫉妬する女の憎悪が、夫に近づく女に100倍返しの怒りを生みだす。

 だが、悲しいかな。プリカを殴り飛ばし、距離を開いた瞬間だった。うっと、エンリカが呻く。

 腹を抱えて蹲った彼女はマズい。とプリカを見る。


 傷ついてはいるが、まだまだ動けそうなプリカ。邪魔なエンリカの異変を好機と地を蹴って興奮した牛のように勢いを付ける。

 「ぶひっ!?」と驚いたのはバズ。何かを察したらしく、慌ててエンリカに走る。


 飛びかかるプリカ。エンリカに振るわれた腕の一撃を、エンリカを横合いから掻っ攫ったバズの背中が思い切り受け止めた。

 悲鳴はなかった。

 つらそうに顔を歪めながら、エンリカを守るように地面を転がったバズはエンリカを庇いながら無防備な背中をプリカに晒す。

 驚くエンリカ。しかし、飛びかかってきたプリカの連撃を、その大きな背中で全て受け止めるバズはエンリカを守り切る。


「あ、あなたっ! ダメ、ダメよ。そこをどいてっ。プリカを倒さなきゃ」


「ぶひっ」


 エンリカの言葉を無視して彼女を庇うバズは、背中を噛みつかれる。

 引き剥がされる肉の感覚に悲鳴が上がる。それでも、エンリカを守ろうと覆いかぶさったまま、プリカの攻撃を受け続ける。


 一番初めに気付いたのはアニアだった。

 バズの鼻息で何があったか気付いたのだ。

 急いでネフティアの頭に辿りつくと、彼女は叫ぶ。


「エンリカ、産気づいてるよっ、下手に力むとここで子供出て来ちゃうっ!?」


「なっ!? なんで妊娠したままあんな動きしてたんだあの女は!?」


 アルベルトが慌てて武器を手にして走り出す。

 にっくんが火炎弾を連発、牽制を行おうとするが、彼の攻撃ではプリカを戸惑わせることすらできていない。

 辰真が唯一プリカを牽制出来たが、それでも苦戦してしまっている。

 既に魔王ですら太刀打ちが難しいらしい。


「あなたっ、御免なさいっ。私があの時子作りしようなんて言わなかったら……」


 縋り泣き付くエンリカに、バズは微笑み浮かべながらゆっくりと目を閉じる。

 その姿は未だにエンリカを庇うように立っていたが、既にバズの意識は落ちていた。

 背中の痛みで気絶した彼に、再びプリカが襲いかかるその瞬間、彼は気付いた。


 エンリカの腹に居る子供、生れいでようとする命。それは、女の子だ!

 かっと目を見開いた男は走る。

 急げ! 夫婦が守ろうとしている命は最も尊きものである。


「フオオオオオオオオオオオッ」


 プリカの大きく開かれた口が血だらけのバズの背中を食いちぎる。その刹那。一本のステッキが口の中へと突き入れられていた。

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