そのバケモノの進化を僕は知らない
ネフティアは無言でユイアに近づくと、魔物図鑑をひったくる。
「あっ」と告げるユイアを無視してパラパラとめくり、プリカの登録を始めた。
プリカ・ドゥ・にゃるぱ
種族:ネオエルフ クラス:狂戦者
二つ名:食欲魔人、暴食エルフ、ワンバースレイヤー
状態:幸福・飢餓
装備:エルヴンボウ、にっちゃうパンツ、エルフの普段着、エルヴンアーマー、普通の矢×199、矢筒、ワンバーカイザー
スキル:
心眼
ドリアードヒーリング
ウンディーネヒール
シルフズトーネード
ワイドアロー
サイドワインダー
ミドルマーダー
下手な弓矢数射ちゃ当たる
二段ジャンプ
接触吸食
常時スキル:
豚人語理解
魅了無効
麻痺耐性・小
命中率阻害・中
並列思考
大食い
幸福患者
飢餓の暴虐
種族スキル:
精霊魔法Lv3
精霊視
森の民
魔物アンテナ
ワンバーガー好き
どう見てもヤバいことになっていた。
まず目に付いたのは種族とクラス。
ネオエルフなどネフティアの記憶には無い。おそらく新種。高位エルフ族といったところだろう。
どれ程魔王を屠ればこうなるのだろう?
そして狂戦者。狂戦士であればバーサーカーというただ暴虐の限りを尽くす役職なのだが、これは違う。
敵も味方も関係なく一度闘えば殲滅するまで闘い続ける者。勝利だけを追い求めた孤独の狂人。
そして一番危険なのは、接触吸食。おそらくサヤコが喰らったのはこれだろう。
接触したことで体力か何かが食われたのだ。
つまり、接触した瞬間、敗北しかねない。
ユイアに図鑑を返し、オルハリコンチェーンソウを起動する。耳障りな音が再び駆動した。
一番大きな音に反応し、プリカがこちらに向って来る。
真下から薙ぎ払うように一撃。
咄嗟に空中を蹴って避けるプリカ。
空を蹴りつけるのは二段ジャンプのスキルがあるからだ。いつ覚えたのかはわからないが、おそらく前回の闘いか、その後だろう。
どっちみち、これ以上放置してしまえばさらに手が負えなくなる。
振り切ったチェーンソウの軌道そのままにその場で回転し、ネフティアはさらに回転斬り。
再び接近しようとしたプリカは再び地を蹴って飛び退く。
くるりと回転して四足で着地すると、今度はネフティアを中心に回り始める。
まるで隙を探すような動き、それなのに、他のメンバーが動けるような隙を見せてくれない。
ネフティアは視線だけを彼女に向けつつ愛用の工具を正眼に構える。
この耳障りな音が、彼女にはなぜか落ち付ける楽曲に聞こえる。
父より賜った最後のプレゼント。兄のもとへ向いなさいと告げ、憤死した父を思い浮かべ、ネフティアは目を閉じる。
兄よ、見るがいい。
父より受け継いだ我が意思を!
円から線へ。突如地を蹴り襲い掛かったプリカ。
目を見開く。
プリカの腕が触れるその刹那、ぎきゅっと地面を鳴らして高速ターン。
さらにチェーンソウを袈裟掛けに斬りあげる。
中空を蹴りつけ真上に飛ぶプリカ。
その瞬間、ネフティアもまた、上空へと跳んでいた。
ストライクブッチャー。相手に突撃し切り上げる一撃だ。
二段ジャンプを使用してしまったプリカはこれに気付くが弓を取り出すだけで精一杯だった。
どれ程直感したところで遅い。
防御する弓を圧し切り、プリカの胸元から真上に切り上げる。
物凄い音と共に血飛沫が舞った。
地面へと落下したネフティアが片手を地に付け、回転。足から着地を決めるのと、プリカが落下して地面に激突するのは同時だった。
「やった!」思わずユイアやバルスが告げる。
サヤコが苦しげに呻きながら、「それフラグ……」と呟いていたが、風に流れて皆に聞き逃されていた。
「GARAAAAAAA――――ッ!!」
立ち上がったプリカは即座に精霊魔法で回復を行う。
本当に化け物だ。誰ともなく呟きが漏れた。
ネフティアは周囲を見回す。
今、無事に動ける面々は少ない。
ネフティアとのじゃ姫、にっくん、アニア、ロリコーン紳士、アルベルト。
モーネット、イーニス、ユイア、バルス、エンリカ、バズ、辰真。
気が付けば、戦乙女の花園までが一人だけになっている。
アルセ護衛騎士団の面々はエンリカとバズ以外は戦闘に参加していないおかげもあるだろうがほぼ全員無事である。
辰真は攻撃に参加するかとも思ったのだが、どうやら静観しているらしい。
相手の実力を計っているのかもしれないが、随分と余裕がある。
しばらく、回復のために立ったままだったプリカ。腹の唸りと共に再び四足へと移行した。
次の闘いがまた、始まろうとしていた。




