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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その少女の結末を僕は知らない
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その次々と斃れる戦友を僕は知らない

「喰らえ!」


 アレンの剣がプリカを襲う。

 地を蹴り左に跳んだプリカは即座に右へと跳びかかる。

 切り返しが速い。

 アレンが剣を振るって出来た隙を狙い、彼の喉元へと喰らい付かんと唾液塗れの口を開くプリカ。


 女性に襲われるのは願ったり叶ったりなアレンでも、さすがに文字通り喰われるのは御免被りたい所だった。

 焦った顔のアレン。そこへ飛び付くプリカ。

 空中で体勢を立て直せないその好機を、イーニスは見逃しなどしなかった。

 力強く踏み込み、ふぬんっとラリアット。

 プリカは慌てて飛び退こうとするが、空中を蹴った彼女の顎を、イーニスの鍛え上げられた太い腕が薙ぎ払う。


 まるでそのまま首が千切れ飛びそうな威力だ。

 プリカは自らを回転させることでギリギリ回避する。

 威力を殺しつつ、縦回転しながら地面に激突したプリカ。頭から血を流すが気にした様子も無く立ち上がる。


「さすがに強いわね。冷や汗が出たのは初めてだわ」


「イーニスの一撃に耐えるのか。まさに魔王級だな」


 息荒く、ふぅーふぅーと肩を上下させるプリカ。その周辺を、風が渦巻く。


「いけないっ。シルフズトーネードよ! 避けて!」


 エンリカの声でアレンとイーニスが飛び退く。

 さらに射線上に居たのじゃ姫をロリコーン紳士がお姫様抱っこで抱えて退避。

 しかし、その背後に居たユイアとバルスは反応すら出来なかった。

 呆然としたまま竜巻のような精霊魔法を喰らい上空へと跳ね上げられる。


 地面に激突する。その刹那、にっくんが作った魔法の風に阻まれ二人はダメージを最小に抑えて落下を終えた。

 二人はぎりぎり助かった命に安堵するが、直ぐに気を引き締める。自分たちの実力では足手まといだが、気を抜くわけにはいかない。自分たちだって安全圏には居ないのだから。

 食事を邪魔されだしたプリカはさらに凶暴な顔で涎を垂らす。


「マズいですね。唸る程に強くなってませんか?」


「飢餓の暴虐スキルのせいです。アレのせいで食事を邪魔される程力が増加し、狂化します!」


 ユイアの声にアルベルトは乾いた笑みを浮かべた。

 本当、この世界は理不尽だ。

 自分は大金使って自国を滅ぼしてようやく魔王を倒したっていうのに、ただ食欲だけでその次元を軽く超えるようなエルフいるなんて。


「GAAAAッ!」


 既に言葉にすらなっていないプリカの叫び。びりびりと空気が揺れる。

 次の瞬間、気付いたらプリカがモーネットに襲いかかっていた。

 動きが見えなかった。

 アルベルトもアレンもマジか!? と思わず叫ぶ。

 モーネットは護身刀を引き抜き、なんとか攻撃に合わせたが、続く連撃を腹に喰らう。

 一度体勢を崩されると後は連撃を受けるだけだ。

 マズいと思いつつも何も出来ない。


「ござるっ!」


 だが、援護は即座にやってきた。

 側頭部に襲いかかった蹴りをぎりぎり腕でガードしたモーネット。そこへタイミング良く殿中でござるがプリカを切りつける。

 攻撃に反応したプリカが刀を口で受け止め破壊するが、御蔭でモーネットはバックステップで距離が取れた。

 代わりに、アイアンクローを喰らった殿中でござるが一体沈んだが、モーネットが行動不能になるのと比べればむしろ大金星だろう。


「全く、つくづくバケモノ揃いね貴方達」


「ぶひ」


 そんな事はない。フォローに入ったバズが鼻を鳴らす。

 手にしているのは水晶剣。

 どうやら水晶勇者から剣を貰ったらしい。呪い付きじゃない奴は数が少ないのが難点だが、もともとプリカ退治に持ってきたモノだ。有効活用できるならオークでも使ってくれということらしい。


「天破、空裂。人地絶倒! せいっ!」


 札を無数にばらまくモーネット。その札は意思を持つように無数の方向からプリカに襲いかかる。

 さらに走るバズ。横合いからはアルベルトとアレンが走る。

 背後からエンリカが、上空からはイーニスが飛びかかった。

 まさに一斉攻撃。

 しかし……


 プリカが消えた。

 見失った皆が驚いた次の瞬間、アレンの視界が女性らしい掌に覆われた。

 しまっ!? 驚いた声を最後まで出せず、アレンは顔面から地面に叩きつけられる。

 さらに首筋に手刀が落とされ、意識が飛んだ。


「アレンさんっ!?」


 次にプリカが狙ったのは意識を失ったクラリッサとアリアドネの回復を終えたヒックス。

 アレンが倒されたことで叫んだため、ターゲッティングされたようだ。

 焦ったヒックスが慌てて立ち上がり、逃げ出す。

 その背後に追い付いたプリカの拳で背中を思い切り殴られたヒックスが地面を滑走する。

 そのままピクリとも動かなくなった。


「マズい、イーニスさん残して赤き太陽の絆が全滅した!?」


「モーネットさん、他人の心配してる場合じゃ……ぎっ!?」


 叫んだサヤコ、その眼前には既にプリカが迫っていた。

 喉を掴みあげられたサヤコの声が潰される。

 思い切り投げ捨てられたサヤコをイーニスが受け止める。

 息も絶え絶えだが意識はある。されどたった一瞬の攻撃で体力を根こそぎ奪われたらしいサヤコは立ち上がることができないようだった。


 何かされた? ネフティアはその姿を見て戦慄する。

 この戦闘で、プリカは再び新たな進化を遂げたらしい。近づくのも、危険になったようだった。

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