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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二部 第一話 それが偶然の一致だと彼らは知らない
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その少女の進軍を誰も阻めない

 さて、僕たちはついに河原へとやってきた。

 辿り着いた時には川のせせらぎを聞いて思わずうわぁと感嘆した程である。

 その川の現状が目に入った瞬間思わず固まったけど。


 川はただ流れているだけの川じゃなかった。

 数多くの水棲生物が跳梁跋扈していたのである。

 ススキのような植物が群生する河原には小型の恐竜のような生物が徘徊し、河原付近を這っているのはたぶんスライム。


 川ではリザードマンだろう。爬虫類系の二足歩行生物が歩いている。

 水の掛け合いとかしてるから遊んでいるのかな?

 防具系は着こんでないので完全にオフらしい。

 メスかな? メスなのかな? でも人間と全然形が違うし胸もない蛇腹なのでサービスシーンでもなんでもなかった。


 そんな場所の少し離れた川の中央部では、今ザバリと出現した魚人間。多分サハギンとかだろう。

 三叉の槍というよりは銛を持って川に向って突き立てている。

 なんだろう、普通にキャンプ中の人々って感じがするんだけど。


 カインたちはそんな自然の営みを見て冷や汗を流している。

 アレらに寄ってたかって襲われたら、確実に終わる。

 カインとネッテは顔を見合わせる。

 どうしたものかと互いに意見を出し合おうと思ったようだが、相手に頼ろうとするその瞳を互いに見て、嘆息する。


「こりゃあ、マズいな」


「見つからずに移動するのは不可能ね」


 大きな岩が近くにあった御蔭で身体を隠せてはいるが、ここより先は何の障害物も無い河原である。

 ススキの群生地なら姿を隠すくらいはできるものの、恐竜に襲撃される危険からすればススキ群生地帯には入るべきじゃない。


 とはいえ、ここからアルセの求める何かを探しに向わなければならない。かなり骨だ。

 僕としては引き返して欲しいな。多分手に入るものなんてないだろうし。

 そもそも事の発端が僕の落書きなので、こんな旅で命を落とすような事にはなってほしくない。


 一匹一匹エンカウントする程度ならこの辺りの魔物であろうとも十分戦えるだろう。

 でも、一体に見つかれば他の魔物も集まって来るのは目に見えている。

 ざっと見だけでも五十以上の魔物が見える。


 種類も豊富だ。

 ザリガニみたいな生物が二足歩行していたり、イモリに似た生物の家族が河原でキャンプしている姿が見える。ママーおっきぃの取れた。すごいわねぇ。みたいな会話が聞こえてきそうな風景だ。


 魔物が少なくなる時間まで此処で過ごすしかないな。とカインは長丁場になることを確信する。

 バズ・オークもそれを察したのか座りこんで休憩を始める。

 一応警戒は続けているようだが、岩に背もたれ休んでいる様はなんともシュールである。

 題して『豚人間の休息』かな。そのままだね。


「しかし、凄い数ですね。しかもなんだか楽しそう」


 岩陰から見つめているリエラが思わず呟く。

 確かに無駄に楽しそうだ。

 と、僕がリエラに視線を送った一瞬の間だった。

 誰からも視線が外れたアルセ様が行動を開始していた。


「あ、アルぷぐっ……」


 最初に気付いたのはネッテだ。

 思わず声をあげかけた彼女の口をバズ・オークが慌てて塞ぐ。

 ナイス豚!


 というか、なにしてんのアルセ!?

 アルセは何を思ったか笑顔で岩場から歩きだし、河原を散歩し始めた。

 物陰から突然現れたアルセイデスに思わず無数の目が集中する。


 が、次の瞬間、まるで興味無しという顔で自分たちの行動を再開する。

 あー。そうか。彼女は曲がりなりにも魔物なのだ。

 魔物が闊歩するこの河原にちょっと珍しい森の魔物が歩いていても、魔物側からすれば違和感などなかったりする。


 一応、危険があると恐いので僕だけは近づいておこう。

 保護者だ保護者。

 楽しそうに歩くアルセは、気が気でないリエラたちを放置して河原を歩き、川の近くへ。


 楽しそうに水を掛けあっているリザードマンの子供たち、そして水を飲んでいるスライムの近くに来ると、川に足を付ける。

 どうやら水分を足から吸収したかったようだ。

 ぽんぽんと頭を軽く叩くとこちらを振り向きにぱっと微笑む。

 ほんと、自由だなアルセは。


「グギャ」


 不意に、目の前に化け物が現れた。

 鮭に人間の手足が生えたような化け物だ。

 こてんと首を傾けるアルセ。


「グギャァ」


 意味は分かっていないようだがアルセはニコリと微笑んだ。

 すると鮭人間はアルセの腕を取ると川に引き込む。

 ヤバい!? と思ったんだけど、どうやらこの鮭人間。アルセと遊びたかったようだ。


 アルセを川中へ連れ込むと、手を放して水を掛けて来た。

 水塗れになったアルセがきょとんとした顔をする。

 ……よし、アルセの仇に反撃だ!

 アルセの背後に回って水を掬うと鮭人間に水をぶっかける。


「グギャ♪」


 なんか楽しそうに叫んだ鮭人間が水をアルセに再び掛ける。

 僕は慌てて逃げたので回避できたけど、アルセはまたも濡れ放題だ。

 でも、僕の行動で何をすべきかわかったようで、楽しそうに鮭人間に水を掛け始めた。


 ……蔦少女と鮭人間の夢の共演。

 何このシュールな光景は……

 水滴と日の光に照らされて虹色に輝くアルセと鮭人間。良い絵ですね。アルセだけ。

 うん、鮭人間が水滴滴らせて楽しそうにしている姿は名画になりそうにはなかった。

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