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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その少女の結末を僕は知らない
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その飽食者を僕は知らない

「ここがイルフェッタ森林よ」


 エンリカの案内のもと、ネフティアたちが連れて来られたのは、何の変哲もない森だった。

 鳥の鳴き声も聞こえるし、木々のざわめきもある。

 時折野生生物だろう声も聞こえくる。


「ふっつうの森だな」


「魔物が棲息しているって感じは分かりますが……」


「ふむ。数千年後の世界でも森というのは変わりがないな。どうかなアリアドネさん、森林デートなどしてみませんか?」


「おとといきやがれです」


 水晶勇者アルベルトがアリアドネをデートに誘うが、即座に断られていた。ソレを見たネフティアははぁと溜息を吐いて首を振る。


「しっかし、まさかこの森に来ることになるとはなぁ。皆が行く中私はちょっと危険な予感がしたから一度も来てなかったんだよねぇ」


 アニアはネフティアの頭上に座り、森を指差す。サァ行こう皆! とばかりに率先していた。

 全員、武器を引き抜き、警戒しながら森へと入って行く。

 けもの道すらない森。周囲の木の枝や棘付きの蔦を切り裂きアレンとモーネットが道を作る。

 ベテランクラン長たちはパーティーメンバーが歩きやすいように進行方向の邪魔な物を処理してくれるらしい。


 なるほど、とユイアは二人の動作に感心しながら見つめていた。

 彼女にとっては自然な動作で道を切り開く二人は目標とすべき存在だった。

 なにせ、自分のパーティーであるバルスはこんなことに全く気付きもしないのだ。

 だから自分がやらなければならない。


「そろそろ、来るわ! 気を付けて!」


 少し開けた場所で、バズが武器を構えた。

 ソレに気付いたエンリカが拳を構える。

 そういえば、と違和感がなかったので気付いた面々。エンリカは今回弓矢を装備してきていない。

 ほぼ手ぶらで来たのはおそらく既に弓使いではなくグラップラー化していたせいだろう。


 森が揺れる。

 叢から巨大な丸っこい物体が現れる。

 二メートルほどの太った体。

 付いた贅肉のせいでだるんだるんにたわむ身体を揺らし、その生物はやってきた。

 手には袋菓子を持ち、そこに腕を突っ込んでは口元に運んでいる。


「ポテトチップス? こんなモノまであるの?」


 忍者、サヤコが呆然とした顔で告げる。しかし、その言葉に理解を示せる存在はここには居なかった。


「こいつはなんだ?」


「ちょっと待って」


 エンリカが告げると、待ってましたとばかりにバズが一冊の書物を取りだす。

 魔物図鑑だ。どうやら一冊貰っていたらしい。


「コイツの名前はデ・ブゥ。種族は偽人ね」


 偽人? とモーネット達は再度デ・ブゥを見る。偽人とは人間に似た魔物である。

 しかし、目の前の肉達磨は人間とは似ても似つかない。肉のバケモノと言われた方がしっくりくる。全身が贅肉に塗れているのでもはや歩けること自体が不思議な程の状態なのだ。

 これが人に似せられた存在だと言われても納得など出来ない。推定300キロくらいは体重がありそうだ。


「えっと、手に持った袋の中身が尽きると、目の前にあるモノに見境なく喰いついて来るらしいわ」


「って、マズい、来るぞ!」


 逸早くアレンが気付く。

 パサリと落とされた空の袋を踏みつけ、デ・ブゥが走り出す。

 涎塗れに獲物を見付けたとばかりに両手を伸ばしてのっしのっしと近づいて来た。


「ブヒッ!」


 ハルバードを握り込み対峙するバズ。突進して来たデ・ブゥに一撃を見舞うが、分厚い肉に阻まれる。


「ぶひっ!?」


「コ・ル!」


 『赤き太陽の絆』、魔法使いのプラスタットが魔法で応戦。

 デ・ブゥの身体が少し凍った。

 そこへルティシャが走り込み切り取るようにナイフを振るう。

 デ・ブゥから悲鳴が上がった。


「オルァ!」


 辰真みたいな声を上げてアレンが突っ込む。一撃を叩き込むが、剣撃は肉に阻まれる。


「クッソ、全員斬撃は無効化されるぞ!」


「オルァ」


 叫ぶアレンの横から辰真の一撃。

 拳を叩き込むが、これも肉に阻まれる。


「皆さん、魔法で応戦してください!」


 叫びながら符術で攻撃するモーネット。

 さらにプラムがドラゴンブレスを噴き付ける。

 牽制とばかりにカッタニアが矢を打ち放ち、アリアドネが喉へと槍を突き立てる。

 が、その槍に喰らい付くデ・ブゥ。なんとアリアドネの槍を噛み砕いて食べ始めた。


「そんな!? フレアトライデントが!?」


「引けアリアドネ!」


 嘆きながらバックステップするアリアドネに変わり、男は疾走する。

 引き抜かれた剣が煌めく。

 日の光を浴びた水晶剣が、周囲を魅了する程の煌めきを放ちながらデ・ブゥへと振り下ろされた。

 会心の一撃。デ・ブゥを真っ二つに引き裂き、役目を終えた水晶剣が粉々に砕け散る。


「ふっ。久々だなこの感覚。やはり剣は水晶に限る」


 一撃必殺の使い捨て剣を振るい終えたアルベルトが何も無くなった柄を投げ捨てネフティアを見て不敵に笑った。どうだ妹よ、兄の凄さは? そんな思いが込められている視線だった。

 デ・ブゥ

  種族:偽人 クラス:ダルダルン

 ・手に持った袋の中身が尽きると、目の前にあるモノに見境なく喰いついて来る。

  どうやら食べる事しか頭に無いらしく会話は不可能。理性を失った危険生物とされている。

  分厚い肉に覆われているので下手な物理攻撃は無効化される。

 ドロップアイテム・謎肉、ぽてちっプ、デ・ブゥ汁

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