その兄妹の事実を僕は知らない
「バカな……俺に妹……だと? いや、確かにまだ独身だから知り合いから娘のネフティアがどうのと何度か言われた時には耳を疑ったモノだが……まだ記憶が欠落しているだけなのかと」
「うむ。娘にしては無駄に大きいと思っていたのですが、侍女を名乗る女からの話ですが、どうもオルランド王国国王は勇者様が城を出た後にもう一人子供ができたそうなのです。しかし、国が財政難で傾いていた時期、国王は娘が奴隷身分に落ちないよう、侍女を一人付けて貴方の元へ送ったそうです」
「じゃ、じゃあネフティアちゃんって、水晶勇者様の、実妹!?」
「うむ。どうにもそうらしい。勇者様を訪ねてやってきた彼女たちは丁度滅びる寸前のセルヴァティア王国に来たらしくてな。私も知り合いが勇者の隠し子が来たと言われてそうなのかと……侍女から私達もミイラ化を行ってくださいと言われたので、時間も無く理由も聞かず、急いで行ったのだけは覚えている」
「な、なんてことだ……俺は、俺は実妹相手に抱きたいと思ってしまったのか……」
皆とはどこかベクトルがずれた場所で愕然としている水晶勇者。のじゃ姫が首を捻っていたが、紳士が知る必要はありませんとばかりにフォッフォと笑っている。
「ま、まぁいい。それで、お前達は何をしに来たのだ?」
「あ、はい。ネフティアちゃんが多分そのチェーンソウを手に入れに来たんだと思います。敵が強力なので」
「敵? どんな魔物を相手にしているのだ? この近辺ならば我等の人種であれば負けることはまずないだろう? ツッパリどもと敵対しているわけでなし」
「敵は、プリカさん。元エルフです」
「ああ、あいつか……何があった? 元エルフ?」
事情を知らないらしいクーフがユイアに尋ねる。
「それが、ワンバーカイザーを主食にしているせいで、ほぼ魔王に足突っ込んでまして、この前一度闘ったんですけど……ロリコーン紳士とエンリカさんが敗北して逃げられました。今はどこにいるのか……」
「エンリカが、負けた……だと?」
やっぱそこに喰いつくのね。とユイアは呆れる。
しかし、これは敵の強さの目安に丁度良過ぎる実力者である。
なにせ、魔王級すらも素手で撃破する存在となってしまったエンリカが不意を突かれたとはいえ敗北したのだ。
その実力の高さが分かるというモノである。
エンリカ曰く、次に敵対する時はおそらく真正面からでもいい闘いが出来る程になるわ。とのこと。
「一大事だな。私も行こう。見過ごすわけにもいかなそうだ」
「いや、待てソウタ」
共に行こうと動き出したクーフを、アルベルトが遮る。
「俺が行こう」
「勇者様が?」
「ソウタ、いや、クーフ。お前にはここの復興があるだろう。俺にはその辺りがわからんからな。お前が指揮してくれた方がいい。国が出来上がるまで暇だろうし、俺が動くとするよ。愛用剣の用意を頼む」
「お、おお。動かれるのですね、あの闘いが再び! 水晶勇者たる貴方様の闘いが! 見れぬことが悔しいです」
「なぁに、これからいくらでも見れるだろう。だからこそ、お前にはこの国を復興させて貰わねばな。頼んだぞクーフ」
「御意に!」
「それに、折角実妹が来てくれたのだ。兄の凄さというモノを見せてやりたいだろう。ついでに戦乙女の花園メンバーと、そっちのハーレムパーティのモノ共よ、我が実力に見惚れていいぞ。まだ正妻の座が開いておるし、せっかくだから全員俺の側室になってしっぽりやらな……いごふっ」
ネフティアの拳が容赦なくアルベルトの腹へとブチ込まれた。
無防備に受けたアルベルトはツバを吐き散らしてそのまま前のめりに倒れ込む。
お腹を押さえながら悶絶する彼は、どう見ても格好良くはなかった。
そんな兄を見て、ネフティアは親指を突き立てる。
何がオッケーなのだろう? ユイアたちは意味を理解できなかったが、ネフティアに賞賛だけは送っておいた。
クーフに送り出され、城を後にする。
城から出た城門前に、そいつはウ○コ座りして待っていた。
手にはアルセバットを持ち、肩に掛けている。
妙にしっくりくるその姿のポンパドール男は、ネフティア達を見付けて立ち上がった。
「オルァ」
行くんだろ? 付いて行くぜ? そんな様子で背を向けて歩きだす辰真。
どうやら一緒に付いて来る気らしく、辰真が強制的に仲間になった。
ネフティアはのじゃ姫を見る。のじゃ姫もネフティアを見て、互いに優しい目でアイコンタクトを取った。
皆、優しいのじゃ。そんな気分で楽しそうに微笑むのじゃ姫に、ネフティアも目を細めて笑みを浮かべるのだった。
無数のパーティーが集まった彼らは、セルヴァティア王国から少し離れた郊外に向う。ここに居るのだ。最強とすら呼ばれるオークマザー。拳王エンリカが。
彼らの家は優先的にセルヴァティアの国民により建築され、下手な城より立派な屋敷へと変貌している。
敷地内では無数の子豚……いや、エンリカとバズの愛の結晶たちが所狭しとぶひぶひ言っている。
もはや既にオークのパンディミック状態だ。
前に闘ったゴブリンキングの軍隊並みに膨れている新たな国の脅威を目の当たりにし、戦乙女の花園も、赤き太陽の絆も顔を引き攣らせていた。




