その返されたチェーンソウを僕は知らない
「クーフさん!」
謁見の間へと足を踏み入れた面々は、男の亡骸にひっしとしがみついて泣いていたネフティアを見て呆然と立ち止まる。
遅れてやってきたバルスとユイアがその光景を無視してクーフに語りかけた。
クーフは玉座の横で、まるで宰相をしているように立っていたが、知り合いの顔を見付けて表情を崩す。
「皆揃いでどうした?」
「ネフティアちゃんが駆けだしたから追って来たんです。えっと、初めましてではありませんが、こうして話すのは初めてですね。モーネット・スパルタクス。戦乙女の花園というクランのクラン長をしております。後ろのメンバーは私のパーティーメンバーです。今はのじゃ姫ちゃんの護衛をしてます」
「そうか。迷惑を掛けていないか? 私のパーティーメンバーというとおこがましい気もするが、彼らは魔物だろう? 扱いづらくはないか?」
「大丈夫ですよ。三人とも聞きわけのいい良い子です」
「三人……ああ、アニアのことか?」
「ちょっと、私は意思疎通も可能な妖精族よ! こっちこっち。このにっちゃう。リエラが抱えてたあいつが勝手に付いて来て進化しまくってるのよ」
「ああ、成る程」
遠い目をして納得したクーフ。アルセ達との冒険を思い出し、あのチームに所属するとなぜか無駄に強くなる魔物たちに納得してしまった。
「相変わらずアルセたちは元気か?」
「今はコイントスに向いました。なんでも向こうで知り合ったルルリカさんという方に国家反逆罪の疑いがあるそうで、ソレの真偽を確かめに……でしたっけ?」
と、モーネットがアレンに視線を送る。
「ああ。確かそんな感じで……あああっ!? コイントスの武闘大会!! ちょ、今からじゃ間にあわねェ!?」
「リーダー、多分受付終わってますわよ」
ルティシャの言葉に崩折れるアレン。ようやく思い出した武闘大会だが、既にここから向ったところで間に合うはずもなかった。
「来年、頑張りましょうアレンさん」
「ああ、そうだな。うん。頑張ろう……来年」
「そちらのメンバーはモーネット殿とは別パーティーか?」
「ええ。クラン、赤い太陽の絆のクラン長、アレンとそのメンバーです。私達と同じくのじゃ姫ちゃんやネフティアちゃんの護衛です」
「そうか。迷惑を掛けたようですまない」
「き、気にすんな。勝手に俺が忘れてただけだ」
気落ちしながら立ち上がったアレン。
顔を上げて最初に目に入ったのは、ようやく復活したらしいアルベルトだった。
「ネフティアよ、いきなり飛び付くとはどういう事だっ。いや、良い身体はしておるようだが俺はもっとぼんきゅっぼぐほぅ」
いきなりダメ人間的発言をしたアルベルトの顎を拳で打ち抜いたネフティアは、ようやくアルベルトから離れてクーフのもとへ向う。掌を差し出してきたネフティアに、始めは何をしてるのだ? と疑問符を浮かべたクーフだが、直ぐに気付いた。
自分の柩のもとへ向うと、中からオルハリコン製チェーンソウを取りだした。
「すまんな。役に立った」
返してきたクーフに親指を立てたネフティアは、代わりとばかりに、今まで自分が使っていたアルセイデスのチェーンソウをクーフに差し出す。
「む? いいのか?」
再び親指を立てるネフティア。どうやら性能は劣るけどこっちを使ってほしい。という事らしい。
クーフは有難くチェーンソウを受け取り柩にしまっておいた。
どうやらネフティアの用事は済んだらしく、のじゃ姫の横に戻ってきた。
「それで、お前達は何しに来たのだ?」
「あ、はい、えっと……」
ユイアが答えようとして、不遜な態度のフレッシュゾンビ、アルベルトに怪訝な目を向ける。
あんた誰? みたいな顔に、ニヤリとアルベルトは立ち上がった。
「初めまして冒険者たちよ。俺が水晶勇者。アルベルト・ファンク・オルランドだ。それとモーネットだったか。胸揉ませてくれ」
ド変態だ。
包み隠さず胸を揉ませろと告げて来たアルベルトにドン引きしつつも、挨拶をかわす面々。
ただ一人、アレンだけは仲間見付けた! みたいな顔をしていたけれど。
「ふむ。いいな。戦乙女の花園。いい女が揃っているではないか。ぐふふ。なぁ、クーフ、未来人の嫁というのも悪くないとは思わんか?」
「それはいいのですが、ネフティアの目の前でそんな事を言っていていいので?」
「ん? それはどういうことだ?」
「生き返らせた者から聞いたのですが、ネフティアは貴方様の実の妹であるそうですが」
「「な、なんだってぇ――――っ!?」」
モーネットたちばかりかアルベルトも声を揃えて驚いていた。
なんで驚いてるの? みたいにネフティアが首を傾げていたが、本人が娘とも妹とも言わないので事実を知るにはまた聞きするしかなかった。クーフとて水晶勇者の娘とばかりに思っていたが、どうやらその情報すら間違いであったらしい。
ネフティアの侍女が眠っていたのは僥倖だったな。とクーフは驚く皆を見て満足げに頷くのだった。




