その復活していた存在を僕は知らない
「なんだこりゃ……」
目の前の光景を見て、アレンが一番最初に声を漏らした。
目の前にはネフティアと同じ青白い肌の男女が行き交っている。
談笑しながら瓦礫を肩に引っ提げ歩く様子はどう見ても普通の人間と変わらない。
ただ、手にしている瓦礫の大きさは普通にデカイ。
家に使われる大黒柱並みの巨大な丸太を両手で二本持って歩いているモノがいれば。ネフティア並みの大きさがある瓦礫を片手で携え歩いているものもいる。
ツッパリたちも手伝ってはいるが、彼らが持ち運んでいるのはさすがに小さな瓦礫などだ。
青白い肌の男女の腕力は抜きんでて強いらしい。
ネフティアはその人物達を見まわし、気付く。
クーフがやったのだ。
自分たちのように、遺跡内部に居たミイラ達をフレッシュゾンビにして生き返らせたのだ。
その光景は姿こそ変わっていたが、ネフティアの記憶にある光景だった。
活気あるセルヴァティア王国の街並み。崩壊してしまったが、脳内では普通に思い出せる。
あそこには宿屋があった。あそこには武器屋が、頭の禿げあがった気難しいお爺さんがいたし、露店では快活に笑いながら果物を売っているおばさんがいた。
よく取れていたアンブロシアが美味しかったのを思い出す。
「のじゃ?」
「ふぉっ!?」
気が付けば、ネフティアの視界は滲んでいた。
頬を伝う何かに手を伸ばせば、顎を伝って手に落下する滴が一つ。
お嬢さん、大丈夫ですか? とばかりに心配そうに見つめてきたロリコーン紳士にコクリと頷く。
しかし、目からこぼれ出した水のようなモノはとめどなく溢れる。
失ったはずの記憶が甦って来る。
あの人は見たことがある。
あの人とは会話もした。
瓦礫に腰掛け談笑する男性三人は昔も良くつるんでいた人たちだ。
井戸端会議をしていた若い女性たちは今日も枯れた井戸の前で楽しげに笑い合っている。
どれもこれも見覚えのあるセルヴァティア王国の風景だった。
思わず、足が前に出る。
ゆっくりと、一歩づつ。
少しづつ、小走りに。
やがて涙を風に流しながら走り出す。
ああ、知っている。
この人もあの人も。見覚えがある人たちがまた生活を始めている。
懐かしい。懐かしい。もう二度と出会うはずの無い人たちが、過去にしかいなかった存在たちが、再び廃墟の王国に集っている。
駆け出したネフティアを追って、皆が駆けだしていた。
周囲を確認したかったモーネットたちも、アレン達も、ネフティアと逸れないようにと見知らぬセルヴァティア国民を掻き分け必死にネフティアを追って行く。
やがて、廃墟の王国へと辿りつく。
ネフティアは涙を拭いて、懐かしい王城の門をくぐり抜けた。
「オルァ?」
門の奥に居た男がネフティアに気付く。
おお、久しぶりだな。そんな驚いた顔をする辰真がいた。
白ランの栄える総長様は今、城の内装を塗装している所だった。
セルヴァティアの建築士らしい青白い男の横で作業をしていた辰真が気さくに声をかけるが、ネフティアは無視してずんずんと歩いて行く。
「オルァ?」
「のじゃー」
遅れて来たのじゃ姫が辰真に気付いて挨拶。
今回は無視されなかったので挨拶を返す辰真。のじゃ姫にアイツどうしたんだ? とネフティアの事を尋ねるが、のじゃ姫も分かっていないようで首を捻るしかできなかった。
ネフティアは早足で進む。
内装はまだ復興途中。所々風化して、天井が崩落している場所もある。
時折暗闇から現れる青白い身体を持つ男女が気さくに挨拶してくるが、全て無視して突き進む。
やがて、朽ち果てた観音扉の前に立つ。
片方が斜めに歪んでいるそれを蹴り壊す。
「な、何事だ!?」
驚いた声が聞こえた。
その声に、思わず身体が止まる。
しかし、意を決すようにして、ネフティアは玉座の間へと向かった。
「おおっ、ネフティアか? 久しぶりだな」
始めに闖入者に気付いたのはクーフだった。よく来たな。と感動的な顔を見せた彼を無視して、ネフティアは目を見開く。
クーフの立つ隣。玉座に座る男がいた。
不遜な態度で片肘を付き、足を組んでいる男がネフティアを睥睨する。
「ネフティア……はて、どこかで聞いたような。すまんなまだ目覚めたばかりで国民の顔が一致せん。まぁ殆ど見知らぬ者らしいのだがな。何度か見知った相手かもしれんが、まずはこう言わせて貰おう」
一度言葉を切り、男は立ち上がる。
「初めましてネフティアとやら。俺が水晶勇者。アルベルト・ファンク・オルランドだ」
にやりと不敵な笑みを浮かべた青白いフレッシュゾンビに、ネフティアは……迷うことなく体当たりをかましていた。
「おぶぅっ!?」
ネフティア弾丸をどてっ腹に受けた水晶勇者が目玉が飛び出んばかりのダメージを受け、くの字に折れ曲がる。そのまま椅子にどかっと座り込んだ。
クリティカルヒットだったようで四肢の力が抜けたようにだらんと玉座に背持たれる。
そんな彼に、ネフティアは涙を流してひっしと抱き付いたのだった。




