その紳士の復帰を僕は知らない
「ふぉぉぉ……」
叩いたね、親父にもぶたれたことないのにっ。みたいな台詞を吐いたらしいロリコーン紳士。
アニアの言葉を聞いたサヤコが小さく、ソコは殴ったねでしょう。とか言っていたが、誰も何のことか分からずスルーされていた。
「のじゃ!」
何をするのじゃ!? ネフティアに食ってかかるのじゃ姫。のじゃ姫はロリコーン紳士を慰める方向性らしかったため、いきなりロリコーン紳士を叩いたネフティアに抗議したようだ。
しかし、ネフティアはこれに答えずロリコーン紳士をじっと見つめる。
会話は無かった。
しかし、彼女の意思は明確にロリコーン紳士に伝わったらしい。
一度の敗北で、幼女を諦めるのか? 貴方の幼女への愛は、その程度か?
そんなニュアンスを込めた視線を幼女から受けた紳士は、己の中に燻ぶる熱き何かを感じ取った。
そうだ。確かに、約束は果たせなかった。
しかし、そんな私に幼女たちが助けに来てくれた。
ここで腐っていていいのか? いや、いいはずがない。
幼女たちを見守るモノであれ。それが紳士の約束事だ。
あらゆる障害から幼女を守り、涙に濡れる幼女あらば、颯爽と駆け付けハンカチで涙を拭い、幼女たちに涙を流させる原因を取り除く。
一度の敗北で何を折れていた? そうだ。幼女が見ているのだ。見ているのだぞ!!
「ふお……フオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーッ!!」
ネフティアの喝で気合いが入った。
消えた蝋燭に火はまた灯り、激しい炎を揺らめかす。
まだ、まだ敗北を認めるには早すぎる。
幼女が見ているのだ。幼女が願っているのだ。幼女が待っているのだ!!
今一度立ち上がれ! 我こそが幼女を守るモノ。
ワンバーカイザーを救いだし、涙に曇る幼女に笑顔をもたらす者であれ!
煩わしい衣服を一瞬で脱ぎ去る。
慌ててネフティアがベッドから飛び降り、のじゃ姫連れて退避した。
次の瞬間、英雄は立ち上がる。
ベッドからゆっくりと、日差し差し込む室内に、仁王立ちした全裸の紳士が降り立った。
その表情はまさに精悍。やるべきことを思い出した漢の顔がそこにあった。
「フォ」
長らくお待たせした。さぁ、皆さん、参りましょうぞ!
アニアの語訳を受けた面々だが、女性陣は目を伏せたり開いた手で顔を隠したりしており、男性陣はアホかこいつは。といった目をロリコーン紳士へと注いでいた。
部屋の外で様子を見に来たらしいロリデッス神父がうんうんと涙を流しながら頷いている。
お帰りなさい同胞。そんな表情のロリデッスに気付いたロリコーン紳士は視線だけを彼に向ける。
アイコンタクトが交わされたようだ。
「あー、その、なんだ。さっさと服着てくれロリコーン紳士だっけ?」
「そ、そうです。これから何をなさるのかお聞きしたいですし」
「ハン、そりゃいいけどよ腐れビッチども。精神病治ったんならその変態ペド野郎引き連れて外行きな。教会内に留まってるの見付けたら鉛玉喰らわすからな!」
マルメラの言葉にはぁ。と頷くアレンとモーネット。
ちなみに、普通の言葉に直せば、病気が治ったなら教会を出て作戦会議とやらをしてください。その程度の注意で済む話である。
ネフティア達は一度教会を後にして酒場へと向う事にした。
落ちついた場所がいいという事なので、戦乙女の花園が『イフリートの祝祭』という酒場兼宿屋を紹介し。そこで話し合う事になった。
パーティーごとに個室が用意される酒場であり、周囲の酔っ払いに絡まれる心配がなく、ゆったりできる宿屋なので女性のみのパーティーには需要が多いようだ。
レイドパーティー用のスイートルームもあり、少々高いが全員で払えばかなり安くなるはずだ。
「んじゃあよぉ、現状の報告を始めにして貰えるか? それからやるべきことの最終目標、それに付随する形でやらなきゃなんねぇことを書きだしてくれ」
「では、私から現状の説明をしますね」
手を上げて話し出したのはユイアだった。
「私達はエルフニアに赴きプリカからワンバーカイザーを取り戻そうとしましたが、そこでエンリカさんとロリコーン紳士が敗北し、全滅しました」
「え? エンリカさんまで参加してたの!? しかも……全滅?」
「はい。どうやらプリカさん、ワンバーカイザーを毎回殺す事で経験値を大量に貰えているらしいのです。そのせいで今ではエンリカさんですらその回避力をバカに出来ないとか」
完全にバケモノの部類に入ってるんだなぁ。とモーネットは遠い目をしていた。
「つまり、敵は何度も喰うためにワンバーカイザーを殺していたため、物凄く強くなっちまったつーことか。厄介だな」
アレンもさすがに今回の討伐は難しさがケタ違いだとか言ってもいた。




