回復魔弾の仕組みは誰も知らない
僕はそぉっとバズ・オークの武器を破壊したスマッシュクラッシャーの背後に忍び寄る。
別に忍び寄らなくても僕なら存在すら察知されないんだけどね。
一応、気分は忍者や潜入捜査官だ。いや、むしろ段ボールで敵陣侵入するあの人だ。
巨大なハンマーを背負ったカワウソの背後に来た僕は、膝を膝かっくんで襲ってみた。
突然足ががくっと崩れたカワウソさんは、肩に引っ提げたハンマーを支えきれず背後に倒れる。
慌てて逃げる僕。よし、ナイス膝かっくん♪
なんかキューキュー鳴いてるんですが……涙目でじたばたするのがちょっと可愛い。
アルセが寄って来て木の棒でツンツンし始めた。
やめろぉ。とばかりにじたばたするが、ハンマーの柄が身体に乗っているせいか動けないでいる。
うん、まさに自爆だね。倒れた亀でも自力で起き上がるのに、こいつらこの状態になったら完全に詰んでるな。
だからダメだってアルセ。可哀想だからツンツンしたげないで。
笑顔満面なのはなぜかなアルセ。君の無邪気さがちょっと怖いよ。
「コ・ルラ」
魔法完成。ネッテの一撃でじたばたしていたスマッシュクラッシャーが氷漬けになる。
ツンツン突いても動かなくなったスマッシュクラッシャーにアルセが首を捻っている。
気分的には、あれ~? どうして動かないの? ってところだろうか。
反応が無いので飽きたらしくその場を離れて踊りだした。
よし、あと一体……!?
そう思って振り返った僕の目に、大きく振り被るスマッシュクラッシャー。
当然、狙いは僕じゃない。
スマッシュクラッシャーは大きく一回転すると、リエラ向ってハンマーを投げ飛ばした。
「え? き、きゃああぁぁぁ――――っ!?」
無意識でアルセソードを引き抜き縦に構えるリエラ。
目を瞑って頭を下げて必死に防御するが、どう見てもそれで何とかなる状況じゃなかった。
思わず駆ける。間に合わないかもしれないけど、リエラをこんな所で死なす訳には……
しかし、それは杞憂だった。
アルセソードに接触したハンマーが、なんとアルセソードを軸にして二つに分かれ、リエラを避けるように背後へと飛んで行ったのである。
アルセソードが強過ぎる件。リエラには過ぎた武器だと思います。
でも、その装備が無ければ今頃リエラはお陀仏だ。
未だに目を瞑ったまま剣を構えるリエラ。
腰が引けているのがなんともしまらない。
しばらく待って、何の異変も感じなかったからだろう。恐る恐る目を開く。
目の前には迫りくるハンマーは存在していなかった。
思わず安堵の息と共にへなへなと崩れ落ちる。
何気に悪運強いよねリエラは。
最初の時もアルセに助けられたし、アルセソードを手に入れた御蔭でこうして生き残ってるし。
カイン達に出会えたことも新米冒険者としては僥倖って奴なのだろう。
「し、死ぬかと思った……」
そんなリエラに武器を飛ばしたスマッシュクラッシャーはバズ・オークがその腕力で首を絞め上げボキッと首を折られていた。
武器無くしたら肉弾戦ですかバズ・オークさん……
いや、むしろ肉弾戦の方が強くないですかね?
「ぜ、全員無事か……」
そして、やっぱり全てが終わってから戻って来るカイン。
遅いよ。いや、カインも大変だったのはわかるけどさ。
熊の時もそうだけど、なんで終わってから戻って来るんだろうね?
出待ちですか?
途中、スマッシュクラッシャーという脅威はあったモノの、カインの両腕骨折以外に問題は無かった。
両腕骨折ヤバいじゃん。と思うかもしれないが、魔銃による回復魔法を打ち込む事であら不思議。骨折が治ってしまいました。
……理不尽だ。
とはいっても回復魔法の魔弾はアルセの笑顔で大量購入できたのでまだまだ余裕はある。
あの神父さんチョロ過ぎだよね。鼻血拭きながらグッジョブですとか親指立てるの男の僕からしてもキモいです。
ちなみに、策略を巡らせたのはネッテとリエラだ。
リエラが回復の魔弾の有効性を説き、ネッテがアルセを神父の眼前に差しだす。
そしてアルセがにぱっと笑う。
神父は幸福の旅路に旅立ちながら大量出血大サービス。
リエラのポシェットには大量の弾丸がはち切れんばかりに入れられている。
これだけあってなんと破格の2000ゴス。一つに込める魔法の値段が10ゴス程度だった。
ちなみにその中で回復魔法の弾丸は100くらいある。
いくらなんでも弾丸の金額は武器屋で買ったのだが、一つがなんと110ゴスだ。
つまり銃弾本来の値段より安く魔法を込められたことになる。
御布施みたいなものらしいし、別に教会が困る訳じゃないから良いんだけど……
ちょっとチョロ過ぎると思うんだ。
別に悪いことしてるわけじゃないのに神父さんに申し訳なく思う。
どうか、あのロリコン神父に神の裁きを。
……あれ? 感謝しようとしたはずなのにおかしいな?




