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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 その武闘大会の優勝者を僕は知りたくなかった
500/1818

500話突破特別編・その告白が行われていたことを、僕らは知らない

気付いたらショートストーリーなどを合わせての500話に到達してましたので箸休めに。

 ソイツは今、とても困っていた。

 正直な話、こういったモノを貰ったことは皆無だったのだから。

 呆然としたまま、ソイツは目の前にある紙を見る。


 紙の内容はこうだ。

 放課後の校舎裏、一本桜の前で待ってます。

 たった一言。学校指定のノートを切り取った紙を折り畳んでソイツが座っている所へわざわざ置いて行ったのだ。


 見た目はとても綺麗な女性だった。

 あり得ないと思いつつも、隣に座っていた男を見る。

 男は視線が合ったと思ったのだろう。首を振る。自分じゃないと思うよ。そう告げているようだ。


 ソイツはもう一度、手紙を渡してきた女性を見る。

 遥か後方に辿りついた彼女は優雅に席に付くと、教材を出し始めた。

 今回行われる座学の用意を終え、勉強体勢に入っている。


 ソイツが見ているのに気付いたのか、女はにこやかにほほ笑んだ。

 戸惑いつつもソイツは手紙をもう一度見る。


「それって、こ、告白、されるんですかね?」


 びくん、とした。

 横合いから覗いて来たのはパーティーを組んでいる少年だ。

 名前は確か、カルアといっただろうか? 未だに人間の名前を覚えるのは苦手だった。


「ほ、本気なんですかね、師匠?」


 さて、本気かどうかは行ってみれば分かる訳だが。

 ソイツは非常に困っていた。好意の目に晒されることはあったし。撫でられることもしばしばだった。しかしだ。まさか告白されることになろうとは思ってもみなかった。

 そもそも告白などされるはずの無い存在なのだ。

 しかし、モノ好きというのはいるもので、さてさてどうなることやら。

 溜息でも吐ければな。と思いつつ、ソイツは放課後まで普通に授業を受けることにした。


 放課後、約束通りに校舎裏にある一本桜とやらに向う。

 どうでもいいがこの一本桜。ソイツは知らなかった。

 しかし、校舎裏に一本だけ生えた大木となれば話は別だ。

 この冒険者学校に来てからしばらく、校内探査を終えているのでどこにどんなモノがあるかは把握している。


 指定されているであろう場所へやって来ると、成る程、確かにあの女がいる。

 ただ、もう一人女性が一緒なのはどういう事だろう?

 それと、近くの茂みに潜んでいるのはカルアとクァンティ、ラーダまでがいるらしい。ウチのパーティーはモノ好きだな。

 ソイツは彼らを見なかったことにして、目的の女のもとへと近づいた。


「ああ、ようやく、来られましたのね。ローア様。お望みの、学園一優秀・・・・・な生徒ですわ」


「ありがとうサリッサ」


 どうやらあのお淑やかそうな女性が告白対象ではないらしい。

 若干残念に思いながらも、ソイツはローアと呼ばれた金髪ドリルヘアのちびっちゃい女生徒の前へとやってきた。

 彼女は羞恥からだろうか? 目を伏せこちらを全く見ようとしていない。

 しかし、意を決したように大きく息を吸い、顔を上げた。


「初めまして、わたくしローアと申しますのよ。婚約、いえぜひともわたくしとお付き合いいただけません……か……?」


 そして、彼女は見た。今、自分が何に告白しようとしているのかを。

 目の前にあったのは饅頭だった。空色のプルプルと震える水饅頭。

 そう、ソイツは成績優秀者、今期期待の冒険者候補にして鉱石の魔物、葛餅だったのである。


「す、す、す、スライムぅぅぅぅっ!?」


 どうやら成績優秀な存在とお付き合いしようという魂胆だったらしいローアは、その名声だけで姿を確認していなかったのだろう。

 葛餅の姿を見て驚愕しながらよろよろと桜? の木に背持たれる。


「ちょ、ちょっとサリッサ、何コレ!? どうなってんのよっ!? ちょっと、冒険者学校の敷地内に魔物入っちゃってんですけどォっ!?」


「あらあら。ローア様、もしかして葛餅様の容姿をご存じなかったのですか? 今期話題の冒険者見習い、300点の最高得点でご入学あそばされた方ですのに」


「知らない。っていうか、オーギュスト様じゃなかったの!? なんで? ねぇなんで? ランスロット様は!? レックス君は!? 頼れる冒険者のアレン様は!? シークレットキャラのカイン様まで居ないうえに魔物が攻略対象ってどういうことよぉっ!?」


「あらあらうふふ。ごめんなさいね葛餅様。ローア様ったら時々こうやって錯乱してしまうのですよ」


 葛餅は餅のように膨らんでから気にしないでとばかりに左右に身体を振る。

 ソレを見たサリッサがあらあら。と微笑んだ。

 巨乳で珠の肌。すらっとした長身のサリッサはどう見ても隣のローアよりも身分の高いお嬢様といった姿だ。亜麻色の髪と常ににこやかな笑顔が素敵な女性だった。


 しばらくサリッサとローアを見比べていた葛餅だったが、不意にサリッサのもとへ向う。

 サリッサも葛餅を抱え上げると、その豊満な胸に押しつけ、ぬいぐるみのように抱きしめた。

 気付いたローアがサリッサを見ると、サリッサはあらあら。と困った顔をする。


「どうやら葛餅様はローア様より私が好きみたいですわ。困りましたわ。これでは三角関係になってしまいます」


「アホか天然ボケェ! 誰がスライムなんぞに懸想するかッ!!」


「あら? ローア様。葛餅様はスライムではなくて液状化した鉱石の魔物ですわよ?」


「どうでもいいわッ。それよりなんで攻略対象者が全員学園外に出てってるのよ! 攻略対象ゴードンオジサマだけとか、ふざけてるの!? なんなのよこのゲーム世界はぁっ!」


「あらあら。葛餅様、振られたローア様は放っておいてご一緒にお茶致しませんか? 私、葛餅様とお話したかったのですわ」


 楽しげに揺れる葛餅と共に踵を返すサリッサ。それを見たローアが地団太踏んで悔しがる。


「ちょっとサリッサ! なんで私が振られたみたいになってんのよぉっ!?」


 叫ぶローア。しかしサリッサが彼女の声に足を止めることはなかった。

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