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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
  第一話 その世界の名を彼は知らない
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その彼女が触ったモノを、彼女は知らない

 少女は驚く僕など気にしてないかのようで、先程まで僕が掴んでいた自分の手を見ていた。

 前に伸ばして、首を捻っては自分の目の前に手を向ける。


 これは、なんなんだ?

 あいつらは、この女の子が異物だから、殺そうとしてたのか?

 化け物を倒そうとしてただけなのか? だったら僕は、自分から危険な生物を助けだしたっていうのか!?


「なんなんだよ、お前っ」


 しかし、僕の声など聞こえてないように、少女は動作を繰り返している。


「お、おい? 無視すんなって……」


 肩を手で掴む。

 びくりと震えた少女は、なぜか周囲を探す。

 首を捻り、肩に置かれた手を見る。

 恐る恐る、そこに手を差し出し、僕の手に触れた瞬間、自分の手を引いた。


 そしてまた、恐る恐る手に触れる。

 そこに何かがあると知ると、また、怖々と手をスライドさせ、自分の肩を掴んでいるものを調べて行く。


 それはまるで、僕の事が見えていないような、何もない場所を手探りで探しているような態度。

 思わず彼女の前で手を振って見る。しかし彼女は反応しない。

 愕然とした。


「まさか……いや、でも……」


 その事実に気付いてしまえば、あの男達が体当たりをまともに食らっていた理由も、大声が聞こえなかった事も説明が付く。

 唖然としていた彼らが僕に気付いてなかったから、いや、存在を認識していなかったから、警戒されることすらなく少女を救出できたんだ。


 聞こえないのだ。見えないのだ。

 この世界で、僕は、透明人間のような存在なんだ。

 だから、目の前の少女も僕を探すように手を触れてくる。


「な、なんだよそれ……」


 何も聞こえないということは、ここがどこで、どうして自分がここにいるのか、そんなことすら誰にも聞けないということ。

 少女の肩から手を離し、地面に座り込む。

 まるでこの世の終わりのようだ。


 僕自身が僕を見れるのだ。透明人間になったわけじゃない。

 存在を認識されていないのだ。

 そして、どうしてこうなったかの理由を誰かに聞くこともできない。


 連絡手段も全く……まった……く?

 ふと僕は一つの方法に気付いた。

 確かに声で伝達。パントマイムでの伝達は無理かもしれない。でも、僕はこの世界の物に触れるのだ。それは彼女を引いて走った手が証明してくれている。

 近くを探し、枯れ枝を見つけて地面に文字を書いてみる。


 ――――僕は、ここにいる――――


 少女と意思疎通を、と思ったのだが、それを見た少女は、首を捻った後、独りでに動いた小枝に興味津々だ。

 すでに書き終えて地面に置かれた枝を拾い、無理矢理立たせてみる。

 僕が手にしていないのですぐ倒れる。

 それでも少女は枝を立てる。


 まるでそうすることで、木の枝が勝手に動き出すとでも思っているように。

 やっぱり人間じゃないから文字自体読めないのだろう。

 もしくは、文字自体を知らないとか?

 いや、そもそも、こいつは一体なにものだ?


 ぱっと見は人間に見えるが、肌の色が緑色。

 病気でもなければ人間が緑の肌をするなど考えられない。

 病気だったらこんな元気そうにしてないだろうし。

 多分寝たきりになる程の重病のはずだ。


 植物のように光合成でもするのなら別だけど。

 とすると、ゲームで例えるのなら、植物人間とか、ドライアドとか木霊とか、マンドラゴラとか、魔物とでも呼べばいい生物なのだろうか?


 ということは、ここは、この世界は、僕の見知っている世界と違う。

 きっと、異世界というものなんだろう。

 なぜここにいるのかは不明だし、何のために呼ばれたかは分からない。

 もしくは事故だったのかもしれない。


 ただ一つ確かな事は、僕には現状、現地住民との意思疎通が不可能で、姿が見えないから化け物に襲われたりする心配が無いことくらいか。

 ただし、姿が見えないから相手の歩行路に入ってしまうと問答無用で押し潰されかねないので、その辺りは気を付けないと。

 透明人間がよくトラックに轢かれる話とか前に読んだことあるし。


「ふおっ!?」


 考え込んでいると、突然背中に少女が抱きついて来た。


「な、なん……」


 襲われる!? かと思ったのだが、そんな心配は必要無かった。

 少女はそこに何かがいる事に気づき、僕の身体をぺたぺた触りだす。

 安全だと気付くと、少女の暖かな身体の感覚に次第に恥ずかしさが募っていく。


 背中に当る微妙な膨らみがなんかすごい。

 女の子とこんなに密着したのは初めてだからその、緊張する。

 ついつい背中に意識を集中させていると、少女は身体をずらして僕の前面へと回り込んで来た。

 僕の全身を確かめるように、自分の身体全体を使いながらぺたぺたと触ってくる。

 嬉しそうな顔なのがちょっと可愛らしい。


「お、おい?」


 人型の何かがいる。自分を助けた何かが存在する。

 それが嬉しかったらしく、少女は楽しそうに触り続け、やがて、マズイ場所へと向かって行く。


「ま、待って、そこは敏感なおふぅっ」


 その場所に触れた瞬間、少女は疑問符を浮かべ念入りに触りだす。


「ダメ、そこは男の急所だからおほぅっ」


 ちょっと嬉しい僕がいた。

 触るのに満足したのか、僕の身体から離れると、手の感触に首を捻る少女。

 姿が見えてなくてよかったと、思わず安堵した瞬間だった。

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