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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 その武闘大会の優勝者を僕は知りたくなかった
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その優勝者を、僕らは知りたくなかった

 闘いは終わった。

 カインを無理矢理敗北させたランス王子は、同じく準決勝戦敗退という結果により、二人の勝敗が決まることは無くなってしまったのである。

 つまり、既に誰が優勝したって僕らには関係ないってことですね。


 ただ、勇者パーティーにとっては話が別だ。

 最後の休憩時間、龍華は観客席にいる僕らの横で難しい顔をしていた。

 直ぐ横に居る手塚やメリエ、大井手も困った顔をしている。


「マズいな」


「ああ、非常にマズい」


 神妙に頷く龍華に同意する勇者。


「勝てると思うか手塚至宝?」


「正直分からん。実力的に龍華が負ける要素はねぇ。しかし、一番持ってて欲しくないモノを相手が持ってる。運次第となりゃあどう転ぶか全くわかんねェ」


 そう、コーデリアはここまで強運、否、狂運で勝ち上がってきている。

 もしも決勝でもその運が発揮されれば、万が一龍華の敗北という結果すら待っているのだ。


「とにかく、速攻で片付けに向う、無理なら、交渉するしかないだろうな」


「だな。一応、頼むぞ龍華」


「善処しよう」


 カイン負けたけどランス王子も負けたから試合無効で僕らにとってはもう終わった大会だからね。気楽に見れる。

 ようやく休憩時間が終わったらしい。ウサミミお姉さんが舞踏会場の中央へとやってくる。


「長らくお待たせいたしました。本大会もついに決勝戦となります。長い時間お付き合いくださいました皆様。この大会、様々な闘いがありました。無数の戦士たちがその勝利を信じ競い合い、時に絶望し、時に勝利に泣いた。無数の犠牲の上に頂点に手を掛けたのは二人の戦士。片方は実力でその手を優勝へと掛け、もう一人はまるで約束されたように運が味方し優勝への切符を手にしました」


 だから、何気にコーデリアさんに酷い説明だなウサミミお姉さん。恨みでも、あるんですか?


「さぁ、始めましょう。歴史的大会の最後の幕を、龍華選手、コーデリア選手、入場してくださいっ!!」


 行って来る。

 龍華が短く告げると走りだす。観客席から跳躍し、回転しながら戦場へと降り立った。

 派手なパフォーマンスに湧きあがる客席。あの人は大会の見せ場というのを弁えてるね。

 対するコーデリアさんは震えながらも選手入場門から現れる。


 本当に、この登場シーンだけ見たら龍華がこれから圧勝する未来しか想像付かないんだよね。

 でも、逆にそんな状況だからこそ、龍華が噛ませ犬的役割をさせられているようにも見えなくない。

 そう、これは成り上がりの英雄譚だ。

 ただの騎士見習いだった少女が大会で優勝してしまい、国に優遇されるためのサクセスストーリー。

 そんな物語が今、僕の目の前で展開されているんじゃないかと思えてしまいます。


「決勝戦! 開始ッ!!」


 龍華は始めから全力を出すつもりらしい。

 手にしているのはカイン戦で使った赤い二連刃の鎌。

 ぎゅっと引き絞り、いつでも放てるように構える。


 対するコーデリアは槍という名の武器をケトルに壊されてしまったのでアルセから貰った刀を引き抜き構える。

 刀を持つには彼女の腰が引けていて、構えも西洋剣を持つような感覚だ。多分ぶった切るつもりだろう。刀、折れちゃうよ?


「や、やああああああああっ!!」


 コーデリアが走りだす。

 全力で走るのだけど、龍華と闘う相手としてはあまりに遅すぎる。

 しかし、龍華はそんな相手でも油断なくしっかりと見定め、渾身の一撃を……放とうとして目を見開く。そして……


 一瞬でコーデリアの頭上を飛び越え場外へと走り出る。

 呆然とする観客を無視して結界を鎌で破壊、観客席に飛び乗ると、階段を駆け上がり、一人の男に飛び蹴りを喰らわせていた。

 幼い少女の口を塞いで抱え上げた剥げ頭の厳つい男を。


 そう、コーデリアと闘おうとした彼女は見つけてしまったのだ。

 目の前で行われようとしている誘拐を。

 最終決戦で白熱し、集中し始めた客席、誰にも気付かれない中、少女が誘拐される。それを自分だけが気付いてしまった。

 迷う事などなかった。

 一瞬で判断するとコーデリアを放置して場外へ、敗北したことが確定したが後悔はない。

 何しろ、自分が大会優勝するということよりも、少女の人生が一つ救われることの方が大切だったのだから。


 直ぐに気付いた兵士が駆け付け男を縛りあげる。

 突然行われた捕り物を呆然と見つめる観客達。

 ウサミミお姉さんも目を点にしながらも、告げた。


「りゅ、龍華選手、場外。ゆ、優勝……コーデリア選手!」


 ちょっと、それでいいのかお姉さん! 今の取り直しやったりしないの!? これ不可抗力だよね? あ、そうか、これがコーデリアの持っていた、狂運!?

 結果、コーデリアはその実力を殆ど発揮する事無く優勝を手にしたのだった。


 理解不能のまま片手をウサミミお姉さんに抱え上げられ優勝を告げられるコーデリア、何がどうなってそうなったのか、まだ理解できてないようです。

 優勝者:コーデリアさんでした (>_<)ノ

 当った方おめでとうございますw

 あ、ちょっとモノ投げ込まないでっ!?

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