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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 その武闘大会の優勝者を僕は知りたくなかった
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そのスキルが使えたのを、僕らは知らなかった

「さぁ、ついにこの大会も残すところ三試合となりました。優勝は一体誰の手に? ベスト4による準決勝戦、第一試合は再びこの因縁めいた勇者パーティーの闘いです!」


 ウサミミお姉さんもようやく後三試合で解説終われると思ったのか、テンションが上がっている様子。

 ラストの決勝戦に向けて彼女もフルスロットルを仕掛けていくつもりだろう。


「アルセ護衛騎士団の勇者カイン選手、そして異世界からの勇者パーティー最後の一人、聖龍華選手。本来であれば魔王を相手に互いに手を取るであろう勇者とその仲間たちが、ついに今、最後の対峙を迎えています。互いのパーティー団員により勇者を倒され、その団員を倒し、勝ち上がった龍華選手と、アルセ選手の仇打ちを狙うカイン選手、この戦い、勝利の女神がほほ笑むのは果たしてどちらになるのかっ!?」


「勝利の女神……な。そいつがメガネでお下げの女で無い事を心から祈っておこう」


 龍華がそんな呟きを口にして、手にしていた棒状のモノから白い布を取って行く。

 今回は剣ではないらしい。

 白い布を取って行くほどに露わになって行く赤い柄。

 真っ赤に染まった柄の先には、深紅に彩られた二連の刃。

 死神を思わせる巨大な鎌が姿を現す。


「悪いが、こちらも全力で行かせて貰うぞ、勇者カイン」


「はは、光栄だな。だが……」


 龍華の身の丈三倍はあろうかという巨大な鎌を見せつけられ、ひくつくカイン。

 しかし、その視線が心配そうに祈る姿のネッテに向いた時、カインから龍華への恐れは消えた。

 アルセソード改を引き抜き正眼に構える。


「ネッテ王女の専用勇者カイン、悪いがここで身を引く訳にはいかないんだ。全力で叩き潰す!」


「いい顔だ。こちらも本気で行くとしよう。姓は聖、名は龍華、字名は青龍……推して参る!!」


「さぁ、ついに両者激突だぁッ! 試合、開始ぃっ!!」


 ウサミミお姉さんが即座にバックステップで闘技場から飛び退く。

 次の瞬間……


「ステータスハイブースト、亜光速突破! 万迅連牙斬!!」


「青龍乱舞ッ!!」


 両者同時に地を蹴り、己の最高の秘技を使用していた。

 息を吐かせぬ連撃の猛攻。

 激しく鳴り響く金属同士の摩擦音がまるで旋律のように鳴り響く。

 剣と鎌が作りだす不思議な音色に、次第聴き惚れるように観客たちのざわめきが無くなって行った。


 ただひたすらに、二人の剣撃だけが鳴り響く。

 互いにゼロ距離での連続攻撃。

 ステータスを超強化したカインだが、龍華の動きはそのカインと同等かそれ以上、生身なはずの彼女は、鎌という長柄の武器を扱っているはずなのにカインに引けを取っていない。

 今まで数多くの強敵を見て来た僕だけど、多分魔王を含めて龍華の強さは断トツだろう。


 人体の神秘、一人で万の軍勢を倒すという勇者というものがどれ程の強さなのかを体現するような存在だった。

 あんな小柄な容姿であの力、将来性が恐ろしい人だ。いや、ロリババアな可能性もあるけどさ、口調もかなり老成してるし。


 僕の膝元にいるアルセも大興奮です。キラッキラした顔でカインと龍華の闘いに魅入っている。なんと彼女の頭上でいつもくねっている謎の花が、この時ばかりは動くのを止めて円らな瞳で二人の闘いに魅入っているのだ。アルセの関心度の凄さがよく分かるというモノである。

 でも、悪影響は受けないでね?


 一体何合打ち合ったのだろう? 突然、どちらからともなくバックステップして互いに距離を取る。

 龍華は油断ない視線で腰を落として鎌を引き絞り、カインは大きく息を乱しつつもなんとか剣を握り直す。しかし、その顔は今まで見たカイン、どの姿よりも楽しそうだ。


「凄いな。普通にバケモノだ。アンタ凄いぜ本当に」


「バケモノは褒め言葉ではないのだがな。だが、さすが勇者か。良い腕だ」


 けど、惜しいかな。龍華はまだ余裕そうな顔なのに、カインの疲労だけが目に見えて目立つ。


「疲れてるって面には見えねぇな。ホント、高すぎる壁があったもんだ」


「それはすまんな。あいにく死ねない身でな。動き疲れても直ぐに元の状態に戻る。つまり、私に疲労困憊という文字は無い。時間を掛ける程私には勝てなくなる、悪いが既にお前の勝利は薄くなっているぞ?」


 って、疲労しないとかどんなチートだよ!? カイン絶対絶命じゃないか!?


「それでも、負けられねぇ闘いってのはあるんだよ。確かにこのままじゃ勝てない。あんたと互角だ。これだけじゃ……ネッテを救えねぇ。俺が蒔いた種だ。絶対にアイツに迷惑はかけられない。ランスを叩き潰すと決めた以上、あいつの待つステージまで勝ち上がらなきゃなんねぇんだ。だから……ステージを上げるぜ、聖龍華、ついて……これるか?」


 すぅっと息を吸い込むカイン。次の瞬間、何かが変わった。


「ステータスハイブースト! 亜光速突破! 万迅連牙斬! リエラ、見せてやる、お前の目指すスキルの到達点だ。借りるぜ? 明鏡……止水っ!」


 ……はい?

 今、え? 今カインなんつった!?

 次の瞬間、龍華が眼を見開く。反応したのは半ば条件反射だろう。

 気付けば既にカインに懐に入られていた龍華が珍しく焦った顔で鎌の柄で剣を受ける。

 カインの連撃が始まった。

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