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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 その武闘大会の優勝者を僕は知りたくなかった
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その勇者の力がどこからくるのかを、彼は知らない

「さぁ、ついにこの闘いがやってきたぁ! 伝説の闘いの再現となるのか、それとも魔族が勇者を倒すという絶望が幕開けるのか!? 勇者カイン VS 魔族デヌ選手の闘いが始まります!!」


 会場入りするカイン。その姿はまさに勇者然といった堂々とした姿。

 デヌも同時に会場へと入ってくる。空に浮かぶ不気味な魔人の姿。

 どうやらもう姿を隠す気はないらしい。


 うわぁ。なんか普通に魔族ですよって体つきだね。

 蝙蝠羽生えてるし、なんだろう、色違いのピッコ……いや、何も言うまい。

 ターバンとか巻いてて欲しかったな。実は異星人なんてオチもないよね?


「くく、ふふふふ。すまんな。笑いが止まらん」


「何が……おかしい?」


「何が? これ程おかしいことはないだろう? ずっと、ずっと待ち望んでいた瞬間だ! 魔族が危険だからと勇者どもに駆逐されたのだぞ? その勇者と、こうして闘える。俺が一族の仇を討つ好機がこんな場所で行えるのだ、これ程嬉しいことはないだろう!!」


「成る程。だが、お前の復讐劇に付き合ってる暇はないんだ。俺は勝ち進まなきゃいけねぇ理由がある。だから、勝つぜ?」


「当然だ、その気で来てもらわねば困る。勝利を信じる勇者を屈服させ倒す。俺の力を貴様等人間共に見せつけてやる!!」


「し、試合、開始!!」


 バサリと羽を広げさらに高度を上げたデヌに、慌ててウサミミお姉さんが戦闘開始の合図を行い安全圏へと下がる。


「開始早々、クタバレ勇者!!」


 ミルクティを倒した闇の一撃だ。

 強力な闇魔法が彼の手の平に産まれ、そのまま巨大化していく。

 まさに暗黒の元○玉。一定の大きさになると、ソレをカイン向けて打ち降ろす。


 会場全てを飲み込むほどの巨大な暗黒球。

 おそらくだけど、これを避けても会場が消えるから場外になる。地に足を付けなければならないカインには不利過ぎる一撃のようだ。

 しかし。


「烈空破斬!!」


 迫る球体にたった一撃。

 球体に食い込んだ斬撃が、そのまま球体を割り開き、デヌへと襲いかかる。

 舌打ちしながら右に躱すデヌ。

 その真下では、真っ二つに分かれた暗黒球が会場を破壊していた。

 丁度人一人通れるだけの道を残して会場が消し飛ばされる。

 暗黒球、マジやべぇ!?


「音速突破! ステータスブースト!」


「っ!?」


 会場から飛び上がったカインがデヌに肉薄する。

 驚いたデヌ向けて、得意の必殺が繰り出された。


「千進突牙斬!」


 物凄い速度で繰り出される斬撃。なんとか防御に回るデヌだが、避けきれなかった幾つかの斬撃が彼の皮膚を切り裂いて行く。


「くぅ、さすがに一筋縄ではいかんか!? さすがは勇者!」


「強いな魔族。だが、倒せない強さじゃない!」


 ヤバい、なんだこのシリアスモード!? 僕は未だかつてカインが真剣に闘っているのを見ただろうか? いや、見ていない。さすがネッテの勇者。ネッテが掛かった闘いでは本当に英雄っぽい。

 技の最後にデヌを蹴って足場に戻るカイン。

 残っていた会場にたんっと降りると、ふぅっと息を吐く。


 剣に再び力を入れて、デヌへと掲げた。

 デヌも次は受けきる。とばかりに気合いを入れようとして、気付く。

 高度がどんどん下がっている。

 どうしたことだ? 恐る恐る確認すると、彼の羽の一部が切り取られていた。

 空気を存分に叩けない羽では滑空もままならない。このままでは墜落しかねないと気付いた彼は慌ててカインの待つ会場へと降りていく。


「いつの間に?」


「あまり飛ばれると不利なんでな。同じ条件下に格下げさせてもらうぜ?」


 デヌの両腕の爪が伸びる。硬質化した両手で攻撃をするつもりらしい。


「肉弾戦が弱いと思うなよ勇者ァッ!!」


「もともと思っちゃいねぇよ!」


 両者激突。剣と爪の剣撃が無数に響き渡る。

 両者避けそこなった一撃が頬を裂き、肉を切り、身体を穿つ。

 しかし止まらない。

 徐々に早くなっていく近接戦闘に、思わず会場中が息を飲んだ。


 凄い、カインが、カインが場外に飛ばされること無く普通に打ち合ってる。

 実力伯仲というべきか? カインが切り裂けばデヌがお返しとばかりにカインに傷を付けていく。

 技量的にはおそらく同一、しかし、カインは今ステータスブーストと音速突破が掛かっている。

 カインもソレに気付いているようで、もっと、まだこれじゃダメだ。と呟いているように見える。


 もっと速く、もっと速く、相手を圧倒する程に。

 じゃないと勝てない。勝てなければ終わる。負けたら、俺を信じて待っているネッテが。

 ネッテのために。その思いが、彼に新たなスキルを齎した。

 そう、現状で倒せない敵と相対した時、勇者は新たな可能性の扉を開く、それが……主人公補正。


「ステータス……ハイブースト! 亜光速突破! 万迅連牙斬ッ!!」


「なん!?」


 音速を越えたその先へ。カインの姿が掻き消える。

 残像を残すような無数の斬撃がデヌに襲いかかった。

 避ける暇も、受ける余裕も一つも無い。

 まさに圧倒。

 駆け抜けるようにデヌの背後に出現したカイン。

 遅れて、デヌは音も無く地に伏した。

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