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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 その武闘大会の優勝者を僕は知りたくなかった
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AE(アナザーエピソード)・そのマリナーマリナの脅威を彼は知りたくなかった

 ランスロット=ドゥア=コイントス。

 彼は第三王子として蝶よ花よと育てられた。

 第一王子は次期国王として厳しく育てられ、第二王子は第一王子のサポートを行えるようにと、これまた同じように厳しく育てられた。


 しかし、第三王子になるとその継承権は極端に低くなる。

 そのため英才教育はされることなく、国王である父と后である母の寵愛を受け、すくすく育った。

 王国内では彼を窘めるものもおらず、前の兄二人に厳しく当った反動か、両親もまさにバカ親のように甘やかした。


 世間知らずとも言えるが、本人は剣に興味があったので格闘術などと共に剣術を国最強の存在から教わり、その筋では有名になっていた。

 代わりに計算や基礎知識などは覚えるのが嫌で殆ど身につけなかった。ソレに付いても国王は諌める事もせずに、第三王子だからと好きにさせた。

 気付いた時には、第三王子の思考が残念なことになっていたのだが、それはコルッカの冒険者学校に向わせることで治るモノと簡単に考えていたのだ。


 ネッテ王女との婚約も決まり、モロ手を上げてコルッカへと送り出されたランスロット、本来であれば武勇を轟かすコイントスの将軍として有望視されていたはずだった。

 戻って来たランスロットは悪女により誑かされ、折角まとまっていたネッテ王女との婚約を自分で破棄した愚か者になっていた。

 それでも王は、彼の主張を出来る限り聞いてやることにした。バカ親と言われればそれだけだが、可愛い我が子であることは確かなのだ。


 ただ、その親にしても余りに目に余る態度を晒すランスロットをそろそろ見限ろうとしているなど、当のランスロットは全く知らない。

 そんなランスロットは今、死を身近に感じていた。

 対戦者、マリナ。


 ただの魔物のはずだった。カイヘイ洞窟に出現する雑魚キャラ。

 自分は何度も彼女の仲間であるマリナーマリナを撃破したはずだった。

 そのマリナーマリナたちは愚直にドロップキックをかますだけ。

 あんな地面を割り砕く程の一撃も無く、不意打ちにさえ気を付ければ対処可能なはずだった。


 断じて接近戦で足技を駆使して来るような危険な魔物ではなかったはずだ。

 負けられる訳がなかった。

 相手は冒険者学校初期で迎える洞窟に棲息する雑魚魔物なのだ。


 しかし、実際問題彼は既に満身創痍。

 胸骨が砕かれ息をするのもやっとだ。

 肺が破れたりはしていないが、かなり複雑に骨が粉砕されていて、起き上がるだけで内蔵が悲鳴を上げる。


 気力で立ち上がり剣を握る。

 負けられない。負けるわけにはいかない。絶対に負けたくない。

 口からは血が流れ、身体は休みたいと悲鳴を上げるが、こんなところで止まるわけにはいかないのだ。

 自らの愚かさで失った婚約を取り戻す。

 栄光だ、俺の栄光はその先にある。

 そう信じて、ランスは目の前の敵を憎々しげに睨んだ。


 マリナが走る。

 飛び込むように地を蹴り、回転蹴り。


「おおっとスラッシュキーック! マリナ選手が追撃を仕掛けたっ!」


 ふざけるな、こんな相手に負けるわけには、負けるわけには……

 気力はまだできると叫んでいる。

 身体はもう休みたいと動かない。

 剣を振り上げなんとか防御をと思うが、蹴りが当る直前、自分の剣先が無くなっているのを思い出す。


 先程の蹴りで折られたんだった。

 そんなことを思った次の瞬間、ドテッ腹へと突き入れられるマリナの蹴り。

 臓物が悲鳴を上げた。

 口から大量の血がこぼれる。


 さらに真上からの踵が襲う。

 くの字に折れたランスの頭に衝撃が走った。

 気がついた時には地面に倒れ伏していた。

 ランスの頭頂部から何かが吹き出ているのが分かる。

 全身が赤く染まったランスは、それでも諦められるかと上体を起こす。

 顔を上げると、赤く染まった視界の中、マリナがステップを踏みながらこちらを見ていた。


「がああぁぁぁぁっ!!」


 叫んでいた。倒れてなるものかと、必死に身体を動かす。

 力は入らなかったが、ぎりぎり上体だけを起こす事に成功した。しかしそれ以上が続かない。

 近づいて来たマリナが顎を蹴りあげる。

 面白いくらいに自分の身体が宙を舞った。


 まるで公開処刑だ。

 血飛沫を周囲に撒き散らしながらランスロットの意識が徐々に消えていく。

 視線の先には、トドメとばかりに助走を付けるマリナの姿。

 空中で回転して背中から床に落ちようとしているランスへと、トドメのドロップキックを発動。


 マリナが飛び上がり、上空から両足揃えてのドロップキックをランスへと向けて放って来た。

 太陽の光を受け赤い視界の中、輝くような少女に必死に手を伸ばす。

 負けられない。俺は負けたくない。俺は……俺、は……

 意識が消える刹那、確かに何かを掴んだ。そんな気がした。 

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