その踊りに何の意味があったのかを僕は知らない
「さぁさぁ皆様、朝早い中、わざわざお集まりいただきありがとうございます! ではではさっそく本日第一回目。Aブロック二回戦第一試合! アルセ VS シホウテヅカの試合を始めまーす。選手、入場!!」
ウサミミお姉さんは今日も絶好調です。
「さぁ、最初に入場しますはアルセ姫。冒険者チーム、アルセ姫護衛騎士団に所属する魔物にしてチームの根幹を成す存在。守られる立場はもう飽きた? その小さな身体からは想像もつかない戦術の数々を携え、さぁ、本日も笑顔の花を咲かせましょう! アルセ選手入場っ!」
今日からはなんか長めの紹介文が付いて来てます。
入場して来たアルセは笑みを浮かべたまま、頭の花がクネックネとダンスしている。
どうやら今日も絶好調みたいだね。アルセ可愛い。
会場からもアルセちゃーんという無数の声が聞こえる。
一定のファンが付いてるらしく、聞こえた場所に手を振るアルセがもう可愛いっ。ほら、もう可愛い。今可愛い。アルセこっち向いてーっ!
「対するは異世界からやって来たという伝説の勇者ぁ! 倒した魔王は数知れず。先代勇者に託されしクラスターソード、そして魔神より手に入れたレーヴァンテインを携えて、伝説の勇者、シホウテヅカが今、ここに!!」
ちょ、盛り過ぎ、なんか凄い盛り過ぎだよウサミミお姉さん!
会場入りした手塚さんはアナウンスを聞いて頭を掻く。
いや、そんなバカバカ魔王倒してねぇし。とか呟いてたけど歓声に掻き消されていた。
しかし、勇者かぁ……カインはあんなだし、チグサもあんなだし、本当に魔王倒した勇者なんて初めて見るからなぁ。え? 葛餅? アレは例外でしょう?
しかし、アルセと勇者が闘うとか、大丈夫かなアルセ? いくら致死性の一撃受けると結界の外に飛ばされて敗北扱いになるとはいえ、怪我は本当にしないでね?
双方が中央に立つと、ウサミミお姉さんが舞台場から離れていく。
背丈は手塚さんが大きいのだけれど、頭に生えた捻じれ狂うように踊る花の御蔭でアルセの方が背が高く見える。
「よぅ、話分かるか知らねぇが、一撃粉砕させて貰うぜ?」
「おー?」
「ではでは! Aブロック二回戦、第一試合、開始ッ!!」
決戦の幕が切って落とされた。
先制はアルセ。両手に血塗れ大根とネギを取り出し、その場でステップを踏み出す。
何をする気だ? と武器を構えていつでも反応できるように構える手塚。
しかし、いつまで経っても攻撃は来ない。
アルセはその場でくるりとターンしてステップを踏みながら踊りだす。
なにそれ? 勝利の踊り? 闘いの舞い? なんにせよ癒されます。
笑顔で踊るアルセ。戦意が削がれたのか手塚さんも呆れた顔をしている。
ヤジ、は飛ばなかった。むしろ会場中がほんわかとした空気に包まれる。
とりあえず、動画としてとっとこう。これは永久保存版だ。
どっかの南国少年みたいな踊りをんばんばと始めたアルセ。いつ終わるとも知れない踊りをしばし見入っていた手塚は、はっと自分の現状を思い出す。
「あ、あぶねぇ。思わず見てたぜ。隙だらけなのに攻撃してないとか。悪いがこっちから行くぜ! クラッシュザンバー!」
我に返った手塚の一撃。
踊っていたアルセの動きを予測しきれず、アルセの持っていた血塗れ大根だけが犠牲になった。
すぱっと斜めに斬られた血塗れ大根がアルセの頭上でずれ落ちる。
「お?」
気付いたアルセが踊りを止めて切断された血塗れ大根を見る。
もう武器としては使えないだろうそれに、何を思ったのだろう? しばらく見つめた後、ぽいっと放り投げた。
不折れのネギを手にしたまま何したの? と手塚に身体ごと視線を向けるアルセ。
既に手塚は踏み込んでいた。
アルセの目の前に特攻した彼女は掬いあげる一撃でアルセを襲う。
咄嗟にアルセが不折れの白ネギでガード。しかし、一撃の重さを受けきれず、真上に跳ね上げられた。
空を飛ぶアルセ。高いところが好きなのだろう。ピンチなのに楽しそうにきゃっきゃと笑ってます。
「行くぜ、乱れ……」
手塚がスキルを唱えようとしたその刹那、彼女は咄嗟に飛び退いた。
一瞬遅れ、手塚の足元から爆発するように伸びあがるマーブルアイヴィ。
「チッ。腐っても魔物かよ!?」
バックステップで避ける手塚。
その隙にマーブルアイヴィに身体を受け止めてもらい威力を殺したアルセは蔦を枯らしつつ地面に戻る。
「秘剣・斬鉄!」
おおぅっ!? マーブルアイヴィが伐採された!?
クラスターソードを巧みに操る手塚が再度アルセに突撃する。
攻撃に移るその刹那、アルセが突如盛大な発光を行う。
「チッ」
慌てて眼を庇いつつサイドステップ。
地下から襲いかかるマーブルアイヴィを悉く避けていく。
さすが勇者様。敵の攻撃前に察知ですか!?




