エピローグ・その彼の名を誰も知らない
「はぁ~、もう、疲れた……」
町に戻ってきた面々は、宿屋に辿り着くなり全員ベッドに寝転んでしまった。
よっぽど今回の冒険が疲れたようだ。
リエラなどドロドロに汚れた冒険服のままベッドインで夢の中である。
バズ・オークに付いて魔物を泊まらせるのはみたいな押し問答も最後にあったせいか、ネッテも不貞寝してしまっている。
当然、汚れた服のままでベッドもドロドロになっているが、気にしていない。
どうせ今日一日の宿だと彼らはめちゃくちゃやってトンズラする気だ。
宿の人可哀想に。まぁ、彼らを怒らせたのだから自業自得と言うべきか。
ちなみに、ミクロンは引き摺ってきたアンブロシアの魔物の死体を王国軍と共に城まで引っぱる指揮をして、そのまま研究に没頭するらしい。
嬉々とした表情で死体に頬ずりしていらっしゃった。
一応、ギルドの方にもこの未知の魔物討伐の話が行っているので、明日にでもカインたちに呼び出しがかかるらしい。
いろいろと忙しくなるらしいので、今日は早めに寝る。
それも豪勢な宿屋で。
という感じでいつもとは違う宿を取った僕たち。いや、僕は人数に入れられてないんだけどね。
まぁ、そんな感じで、バズ・オークを寝かせることを宿の人が難色示して一悶着。
もう二度と泊まらねぇ。とか言ったわりにはこのふかふかベッドでまた寝てぇとかカインが口にしていた。
そんなカインの話し相手は、さすがに疲れて床にへたり込んだバズ・オークである。
連携プレイを終えた後から、カインは普通にバズ・オークに話しかけるようになっていた。
どうにもオーク相手というよりは一人の人間として対応している気がする。
バズ・オークも普通に頷いたり鼻息で返すものだから、傍から見ると会話が成り立っているようにしか見えない。
「しっかし、今回は完全に乗せられたぜ。まさかアルセがあの実を食べたかっただけだったとは」
どうやらミクロンの解釈で、アレはアルセが食べたかったものをこれが今食べたいの。みたいな感じて絵に描いて見せて来たのでは? という後付けが提唱され、そのまま全員が納得していた。
いや、まぁリエラは僕の存在に気付いたためか苦笑いしてたけど。
そう、気付いてしまえばミクロンの言動がいちいち面白く感じてしまうのだ。
なにせ僕がアルセを操って書いた文字をミクロンが珍回答していたことを知ってしまったのだ。リエラとしてももうミクロンが持論を繰り出す度に噴き出しそうになるのを押さえるのが大変そうだった。
ただ、なぜかリエラは他の皆に僕の事を伝えなかった。
ただ疲れただけだったせいかもしれないし、これから伝える気なのかもしれないけど。
彼女の真意がわかるまでは、僕はカインたちにも自分の存在を教えないでおくことにした。
いや、別に理由はないんだけど、なんとなく。
そんな僕は、今、アルセと一緒にベッドに座っている。
アルセが四葉になった頭の葉っぱを嬉しそうに見せびらかせてくる。
うん、意味不明である。何がそんなに楽しいのだろう。
アルセイデスにとっては四葉になるのは嬉しいことみたいだ。
ミクロンもこの状態は初めて見るので分からないと言っていた。
まぁ、あの人ヤブ科学者みたいなものだし、当てにしないでおこう。
「ん? どうしたアルセ?」
不意に、裾を引かれる感覚にアルセを見る。
まるで、何もかも知ってるよ。と言っているような素敵な笑顔で、アルセは僕に微笑みかける。
僕はそんなアルセの頭を撫でてやる。
やっぱり意味が分からなかったらしく、こてんと首を傾げるアルセ。
結局、今のところ僕が何故ここにいるのかについては全く不明だし、気になる事、分からない事は沢山あるけれど、僕は今まで通りを過ごす。
このよくわからないアルセイデスという魔物を護りながら。きっといつか、謎は解けて行くだろうと信じて。
この僕の名を、誰も知らない世界で、僕はこれからも生きて行く――――
皆様読んでいただきありがとうございました。
とりあえず第一部完結です。
次話から二部に入ります。




