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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第六部 第一話 その武闘大会の予選を勝ち上がったアイツを僕は知らない
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その闘いの無意味さを彼は気付かない

「まぁ、そう言わずに、話を聞けば、ルルリカという悪女に我が息子が魅了されたのが始まりらしい。正気に戻ってからあ奴も悔やんでおった」


 と、そんなことを告げた王の背後にある入口から、件のランス王子がやってくる。


「ネッテ王女、この度は私が愚かであったばかりに不快な思いをさせてしまった。すまない。そもそもあの女に会ってからは心に靄が掛かったようで……まるで魅了魔法を掛けられたようだったのだ」


 と言い訳しているランス王子は、ネッテの横に侍るルルリカを目敏く見つめる。


「き、貴様という女は、この期に及んでネッテ王女にっ!?」


「ひっ」


 今直ぐ剣を抜いて飛びかかりそうな剣幕のランス王子に思わず顔を青くするルルリカ。

 この城に来てから彼女はびくびくとしてネッテに寄り添っているため、確かにネッテを盾にしようとしているように見えなくもない。


「確かに、ルルリカさんの行った行動は褒められたことではありませんね。婚約者のいる王子に言い寄って来たのですから、まさしく無礼者でしょう」


 付き放すような言い方のネッテに絶望的な顔をするルルリカ、お姉様? とばかりに縋るような眼で彼女を見る。


「しかし、ルルリカが魅了の魔法を使っていたというのには疑問が残ります。まるでランス王子が懸想した理由を彼女のせいにして罪を逃れようとしているかのように聞こえるのですが。そもそも彼女に魅了魔法が無いのはステータスが見られるこちらの本で確認済みです」


 本来魔物を登録するためのモノなんだけど、普通に人間のステータスも登録できるからねこの魔物図鑑。


「これによればルルリカのスキルは罠回避術、探索術、索敵術と剣技だけ。魔法の類は一つも覚えておりませんよ」


「あ、アイテムはどうだ!」


「装備欄にそれらしきものはありませんね。これはコルッカギルドでも確認済みです。隠蔽スキルも持っていないようですから、ステータスを欺く事も出来ないでしょう」


 これを聞いたコイントス王は思わず頭を抱えていた。

 ルルリカに全ての罪を擦り付け、我が国の罪は一つも無いのだと証明したかったのに、ルルリカに懸想したのは全てランス王子の意思であることがネッテ王女により証明されてしまったのである。

 否定したくとも、ルルリカを嵌めたくとも、その材料が思い至らない。


「そもそも、私は既に別の方との婚約を結んでおりますので、ルルリカどうこう以前にランス王子とよりを戻すことはできません。既にマイネフランでも私とこちらのカインの婚約は確約されております」


「なっ!? バカな!? たかが冒険者と婚約するのかネッテ王女!?」


「あら? 彼は勇者ですよランス王子。勇者と結婚した王女の話は事欠きませんでしょう。数年前には英雄王という、奴隷身分から王族に成り上がった方もいらっしゃった程、勇者であれば王族とつりあいましょう?」


「ぐぬっ」


 ランス王子は改めてカインを見る。

 顔は二枚目。確かにランスに勝るとも劣らない。

 さらにはネッテとずっと一緒に冒険し、好感度も高いのだろう。

 二人で冒険していたこともあり、互いの事は大体何も言わずとも通じる仲。

 寝食も共にする事もあっただろう。結婚したとしても今までと変わらない生活が出来る。

 気を張らずとも過ごせる相方。しかも相手は勇者となれば、文句のつけどころなどなかった。


 しかし、しかしである。

 自分はルルリカという悪女に引っ掛からなければネッテを妻として迎えていたはずの王子なのである。

 一時の気の迷いで婚約破棄を伝えはしたが、国同士の許婚を彼一人の意思で破棄できるはずもない。

 いわば、婚約中に別の男に寝取られたのは自分とも言えるのだ。


 そう思ってしまうと、カインが憎らしく思えてしまう。

 こんな男に、自分の女が奪われる? そんなこと、許せるはずがないではないか。

 だから、ランス王子は手袋を引き抜くと、思い切りカインに投げつけていた。

 突然の事に剣に手をかけたカインだが、謁見の間でそんなモノを抜くわけにはいかないと直前で気付いて動きが鈍った。


 そもそもの話が帯剣したまま謁見する事自体間違ったことなのだろうけど、今さらだよね。コイントス王も全く考えてないみたいだし。武器は直前で全員預かっておくべきだと思います。

 逃げられなかったカインの顔に手袋が当る。


 貴族でいう決闘の合図。

 カインはぱさりと落下した手袋を見つめ呆然としていた。

 なにがどうしてこうなった? そんな顔をしている。


「三日後に武闘会がある。ソレに参加しろカインとやら。私が勝てばネッテ王女との婚約は破棄して貰う」


「ランス王子!? それはあまりに一方的だわ!」


「ええい! これは男の決闘だネッテ王女! 私が勝てば私が漏らした婚約破棄などという言葉はなかったことにしていただく! この男が勝てばルルリカへの嫌疑を無しとしよう!」


 いやいやいや、何処をどうしたらそんな発想に辿りつくんですか!?

 この人もどっかのバカ王子みたいに発想が飛躍的過ぎるんですけど!? そもそも自分で破棄っておいて再契約しろとか、別の男とくっつくなって、何処の俺様だよ!? 王子様だけどさ!


「カイン、受ける必要はないわ。コイントス王、このことは我が父に報告しますが、よろしいですね?」


「む、むぅ、し、しかしだな……」


 さすがのコイントス王も言い逃れも何も出来ず脂汗をかいている。

 アホ息子め。とばかりにランス王子を睨むが、彼は全く気付いていなかった。


「なら……俺があなたに勝てば、ネッテ王女を諦め、ルルリカは無罪。それでいいんですね?」


「構わん!」


 大仰に告げるランス王子に、カインは燃えた瞳を向ける。


「いいでしょう。その闘い、受けさせて頂きます!」


「ちょ、カイン!?」


 これは、男のプライド刺激しちゃった?

 男ってバカばっかよね……とかアカネが呆れてたけど、御免、僕は何も反論出来ません。 

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