その手配書の人物を僕は知りたくなかった
扉を開くと、そこは敵意ある視線のオンパレードでした。
僕だけだったら即座にまわれ右しているところなのだけど、ネッテは気にした風も無くギルド内へと入って行く。
ここのギルドは酒場みたいな感じだね。
受付がある横にバーが設置されていて、広々とした薄暗い室内で飲んだくれどもが厳つい顔で睨みを効かせている。
お、女性だけのパーティーとかもいるね。目線は他の冒険者と変わらない程に敵意に満ちてるけど。
「ず、随分歓迎されてないような?」
「こ、こういう視線は苦手です」
リエラとパルティが身を寄せ合ってチグサに寄っている。
フィグナートの勇者であるチグサの実力を信頼してのことなのだろうけど、リエラが近づいて来た時だけ露骨に嫌そうな顔をしたの、僕は見ました。
チグサはホント、リエラに何かしらの悪意を持ってるね。
しかし、彼らの視線も、室内に入って来た浮遊する骸骨を見た瞬間、即座に消える。
何かヤバいの見ちまったといった焦燥感が周囲に満ちる。
ただの新人冒険者だろう、威嚇してここの厳しさを教えてやれ。そんな雰囲気は一気に霧散している。
ルグス、初見のインパクトは凄いからなぁ。何せ不死王だし。
「あら、さっきまでかなり並んでたと思ったけど、皆道を開けてくれてるわ」
ネッテがそんな事を云いながら受付に向う。
やって来た面々を見て顔を引き攣らせながらも笑顔の対応を心掛ける受付嬢さんが素敵でした。頑張れー。
「お久しぶりねフォラスカさん」
フォラスカと呼ばれた女性は亜麻色のストレートヘアを持つ釣り目の女性だった。
大人びた容姿にマスクメロン大の胸を持つこのコイントスギルドの華である。
彼女目当ての冒険者共はまさに莫大な数になっているらしく、コイントスに人を呼び込むことに一役買っていたりする。
「あら、誰かと思えばどっかの道楽王女じゃない。聞いたわよ。婚約破棄されたんだって?」
「ええ。結局カインと婚約する事になったわ。あなたの予言どおりね」
「ふふ、見ればわかるって言ったでしょ。あなたたちお似合いだったもの。でも、随分個性的な仲間ね。魔物をテイムしてるの?」
「テイムしたというか、付いて来たというか。ちょっと特殊なのよね、ウチのパーティー。まぁそれはともかく、とりあえずこちらの魔物のパーティー証明お願い出来る?」
「はい。他の冒険者たちに問われた場合の対応は任せてください。では登録しますので一人一人私の目の前に」
どうやら彼女も鑑定持ちか何かなのだろう。
アルセやルグスが前に立つと、羊皮紙になにやら書き込み始める。
「あの、ネッテさん、これは何をなさっているんです?」
「コイントスは武闘大会やら何やらで魔物が街中を歩いていることも多いのよ。モンスター専用のテイマー大会とかあるから。同じ種類の魔物とかもいるから自分のテイムモンスターと野生種を混同しないようにギルドでステータスや名前を保存しておくの。万一別の魔物と混同してしまっていたり、他人が所有を主張した時、ギルドが証明してくれるってことよ。アルセたちはステータス変化が結構あるから気休めだけど、登録しておいて損はないわ」
「はぁ……」
「それと、コイントスは治安も悪いから女の子だけで移動したりするのはやめなさいよ。特にリエラとパルティ」
「は、はい!」
「何で私たちだけなんですか!?」
「ケトルさんはチグサさんが付いてるから問題無いとしても、あなたたち二人は普通の学生なんだから。幾ら実力があっても世間知らずなのはここでは危険よ。絶対に私たちから離れないこと」
コイントスって結構怖いところみたいだね。
「おー」
「姫、それは賞金首ですよ?」
「あら、見て、ルルリカの顔が張り出されてるわ」
アルセはルグスとアカネを引き連れて賞金首を見ています。
アルセ賞金首見るの好きだよね。マイネフランでも良く暇つぶしに見てたし。
……って、ルルリカ!?
「あら? ネッテさん、そういえばその横にいるのって……」
フォラスカさんも気付いたらしい。
ルルリカの顔を見て手配書と一致したのか、驚いた顔をしていた。
「ルルリカ、あなた賞金首だって」
「えええっ。酷い。私そんなひどいことしてませんよぉ」
ブリっ娘で泣きそうな顔をするルルリカ。どうせこれから王城に向う予定だったので。ネッテがルルリカを直接王城に連れて行く旨をフォラスカさんに告げた。
さっそく賞金首討伐完了とかフォラスカさんが賞金を渡す。
ルルリカ捕縛の賞金をルルリカが受け取っているのですが……いや、もはや何も言うまい。
「お、いたいた。ネッテ、宿取って来たぞ」
カイン合流。意外と早かったな。
「うん。じゃあ全員揃ったし、まずは王城に向いましょうか」
いきなりクライマックスに突入ですか?
僕としてももう少しコイントス見回りたかったのですが。




