その果実の効果を誰も知らない
僕は思わず驚いた。
なぜかって。アルセの掴んでいるすぐ上を、リエラが掴んできたからだ。
認識されたことだけでも驚いたのに、まさか触られるとは思わなかった。
「やっぱり。見えないけど……ここに存在してる」
少しずつ範囲を広げ、僕の腕を触るリエラ。
感動しているのだろうか、少しずつ涙ぐみ始める。
僕の肩に手が伸びた。
肩を掴んだと理解したリエラはそのまま背中に手を這わせる。
そこで、見えない僕が何者かを理解したようで、そのまま背中に身体を預けてきた。
予想外だったので思わず赤面する。
「ありがとうございます。ずっと、皆を見守ってくれていたんでしょう?」
お礼なんて期待してなかったからなんとも照れくさい。
というか、リエラさん、胸、控えめな胸が当ってます。
僕、初めてだよ、こんな柔らかな感触背中で感じたのは。
「どんな人か、ううん。人かどうかも分かりませんけど、ずっと、アルセを護って、ついでに私達も救ってくれて。あなたは命の恩人です。何度も助けてくれて……ありがとう」
ついにはリエラが本格的に泣きだした。
涙を流し嗚咽を漏らし、僕の首へと震える両腕を絡めてくる。
ほんと、困ったな。こんな状況初めてで、どうしたらいいかわからない。
「それと……」
ふいに、リエラの身体が背中から離れた。
人肌の暖かさが消えてちょっと背中がさみしい。
「私の胸触ったのも、あなたですよね」
……あ、バレた?
ぐずったまま睨みあげるリエラに、慌てて振り向く。
思わず両手を前にだして違うと言いながら上下に振るが、リエラには見えていないので意味がなかった。
しかも、リエラは睨みつけながら近づいてくる。
当然、僕の手が目の前にあるわけで……
リエラから献上する形で、僕の掌にマシュマロのような何かが収まった。
思わず二度程揉んでみる。
「な、ななな、何をするんですかぁっ。この、エロ透明人間んん――――ッ!」
僕は逃げ出した。
当然リエラが追ってきた。
まるで僕が見えているかのように一直線に追ってくる。
誤解です。今のは不幸な事故です。
何を言っても聞こえない。だからリエラに捕まらないよう必死に逃げる。
そんな僕とリエラを見ていたカインとネッテは、戦闘の疲れからその場に座り込んでいた。
その横ではバズ・オークも疲れていたようで彼らに倣って座っている。
一応、警戒は続けているらしく周囲を見回しているが、あのアンブロシアの魔物がいたせいかこの近辺に近寄ってくるような魔物はいないようだ。
「なぁ、ネッテ、リエラはなんで走ってんだ?」
「さぁ? 恐怖から解放されて走りたい気分なんじゃない?」
「奇声上げてるぞ? 意味不明の言葉吐いてるし」
「壊れちゃったかな? 可哀想に」
リエラ、落ちつこう。僕を追うのはもうやめよう。
君が変な子みたいに思われ始めてるからっ。
しかし、リエラは全く気付いていない。
よっぽど胸を揉まれたのが許せないらしく、真っ赤な顔で追ってくる。
なぜか胸を片手で隠しているのはまた揉まれないためか?
植物の魔物の残骸である蔦を飛び越え逃げていると、ミクロンがいた。
どうやら植物の魔物についてこの場で調べているようだ。
眼が輝き過ぎて怖い。いっそ狂気を孕んでいるように見える。
「ふふ。すごい。これがアンブロシアツリー。いや、そんなネーミングではダメですね。これを発見した僕がちゃんとした名前を付けないと。こう、伝説の木みたいな。ふふ、ふふふ……」
うん、嬉しさのあまりイっちゃってるな。
放置してお……ああああああああああああっ!?
僕は大変な物を目撃してしまたった。
思わずその場に立ち止まり大口開けて見入ってしまう。
勢い込んで追い掛けていたリエラが僕が止まったのに気付かず走り込んで来て、僕の背中にぶつかった。
「きゃんっ。っつたぁ……なんで立ち止まって……あ、ああ、ああああああああああ――――っ!!」
リエラも見つけてしまった。
そう、全員の視線が逸れた隙に移動していたアルセが……
アルセが、アンブロシアの実を食べる瞬間を。
「って、アルセェェェェェェッ!?」
「嘘っ、何食べてんのアルセっ!?」
カインとネッテも気付いた。
唯一成っていたアンブロシアの実ことりんごを、満面の笑みでほおばるアルセ。
驚く僕たちの見ている前で、伝説の不老不死の実、アンブロシアがアルセイデスという名の魔物に食べられた。完全に、一欠片も、種すら残さずに。
全員、今までの苦労が泡と消えた事を知り、思わず崩折れたのは言うまでもない。
まさかの出来事を受け入れるまでしばらく時間がかかるだろう。
そして、アンブロシアという特殊な実を食べたアルセは……
アルセは、頭上に生えた双葉が四葉に進化したのだった。
いや、見た目全く変わったように見えないからな……
こうして、アンブロシア探索は、見事アルセの笑顔で締めくくられるのだった。




