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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
間幕 その王国やエルフの村で起こったことを僕は知らない
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AE(アナザーエピソード)その変態紳士の物語を僕は知らない11

 決定打に欠ける。

 それがロリコーン紳士の思いだった。

 プリカの弓矢は命中率がすこぶる悪い。


 放っておいても明後日の方向に飛んで行くのだ。

 ただし、無数に放たれる矢の数本は、真っ直ぐに飛んで来る。

 何百分の一の確率で命中するのだから安心しきることが出来ない。

 そのせいで攻撃するにも近づけないのが現状だ。


 プリカも下手な弓矢数射ちゃ当たる戦法でひたすらに弓を引き、ロリコーン紳士を近づけようとしない。

 このままではじり貧で負けかねませんな。

 一人考えたロリコーン紳士は服を脱ぎ去る。


 バサリと宙を舞うスーツが無数の矢に穿たれた。

 これはちょっと失敗した。

 一張羅なのに……


 涙目で蜂の巣にされるスーツを見送ったロリコーン紳士はさらに上半身の服を脱ぎ捨てると、半裸姿で走りだす。

 先程までより軽快になったおかげか弓矢の効果範囲を避けて側面へと回り込めた。

 気付いたプリカがシルフズトーネードを唱えるが、これはさらに側面へ回り込みプリカの背面から襲いかかる。


 百枝刺しを発動して突きまくるが、プリカはワンバーカイザーの亡骸を盾にして全て受けきってしまった。

 ボコボコになったワンバーカイザーの亡骸をそのまま平らげて。プリカは再生し終えたワンバーカイザーを再び殺して食料を確保する。


 闘いながら食べるなど……

 無残に殺されるワンバーカイザーに憐れみを浮かべながら、ロリコーン紳士はステッキを構える。

 その意思は、姿を見るだけで容易に理解できた。


「そう、諦めることなく私からワンバーちゃんを奪うと、やれるものなら……やってみろ!!」


 刹那、先程までとは全く違う異質な力が解放された。

 目の前のプリカの視線がぶれる。

 口元からは涎が溢れ、「喰らう……全て喰らう」と呟きが漏れ出した。


 これは危険な兆候だ。

 ロリコーン紳士は冷や汗を流しながら、スラックスと下着を脱ぎ去った。

 生まれたままの姿と化した初老の紳士は、まさに紳士的に立ち、ステッキを構える。


「モザイク……誰か、アレにモザイクを……」


 死に掛けのような声でユイアがうわごとを呟いていた。

 そんな彼女のか細い声には誰も気付かず。

 あり得ない程の涎を垂らしだしたプリカが獲物を見定める。


 筋肉質で食いでのない初老の全裸男。

 あまり食指は動かないが、邪魔になるのは確か。喰い殺してやるのが一番だ。

 手にしたハンバーガーを一瞬で平らげ、四足になると、ロリコーン紳士に駆ける。


 エルフが獣のように涎を垂らしながら四足で駆けて来る姿はまさに戦慄モノだ。

 しかも無駄に動きが素早い。

 フォッ! と声が漏れたのは仕方ないだろう。


 ジグザグに動きながら即座に距離を詰めて来たプリカが飛びかかって来た。

 口を大きく開き、完全に喰らい付くつもりで攻める。

 しかも狙いは……気付いたロリコーン紳士は全力で飛び退く。


 空を切り裂いたプリカが不満げに地面に着地する。

 危なかった。今の軌道、寸前で気付かなければ今頃ロリコーン紳士のシンボルとも言える棒がこの世から消滅している所だった。


 冷や汗塗れにステッキを構え直す。

 既に三段階にギアを引き上げマックス状態のロリコーン紳士だが、今の一撃、プリカに付いて行くのがやっとだった。

 相手の動きがさらに速くなれば、確実に負けてしまう。

 それぐらいに、今の一撃は危険だったのだ。


 刺突を使って加速する方法があるにはあるが、一撃を放った後の隙はあまりに大きい。

 それに、今は幼女が見守ってくれていない。

 これでは実力の半分も出せはしないのだ。

 ロリコーン紳士にとっては今までで一番の強敵と最悪のコンディションでの闘いになっていた。


 ああ、幼女成分が足りない。私に幼女を!

 ロリコーン紳士は今はいないアルセ、ネフティア、そしてのじゃ姫の泣きそうな顔を思い浮かべる。

 そうだ。あの幼女の微笑みを守るため、私は今ここに居るのだ。


 このような年増に負けるわけにはいかない。

 気力を持ち直し、ステッキを握る手に力を込める。

 再び地面を蹴りつけ駆け出したプリカを見逃すまいと、極限まで集中力を高める。


「ゴハンッ!」


「フォッ!!」


 二人の獣が交錯する。

 刺突で加速し、一撃に掛けたロリコーン紳士。

 その一撃がプリカの頬に一筋の傷を作る。


 四足で着地したプリカがよろけた。

 その背後で、立ち止まったロリコーン紳士。

 しばらくの静寂。

 突如、ロリコーン紳士の首筋から血が噴き出した。


 どさりと倒れるロリコーン紳士に目もくれず、プリカはワンバーカイザーと共に森の奥へと消え去った。

 完全な、敗北だった。

 ミドルマーダーの一撃を喰らったロリコーン紳士は全身を襲う寒さで自分の死期を悟っていた。


 悔しい。しかし、彼が再び立ち上がるべき幼女の姿はここに無い。

 食いしばるべき能力も使えない。

 ああ、私は幼女の思いを遂げることすらできず、死んでしまうのか……

 失意のままに、彼は意識を失った。

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