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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
間幕 その王国やエルフの村で起こったことを僕は知らない
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AE(アナザーエピソード)その変態紳士の物語を僕は知らない7

 翌日、平原へと戻ってきたロリコーン紳士は草原の中腹で一人、ステッキを付いて瞑想していた。

 その姿はまるで昔を懐かしむようでいて、どこか寂寥感が漂っている。

 実は遥か遠くに離れたアルセの動向を見つめている、などという事を、周囲の皆が分かるはずもなかった。


 どこかの不死王と楽しげに笑う自らの姫を見知った彼は、焦燥感を浮かべつつも自分がそこに居られないことを嘆いているようだ。

 実際には不死王が即死級の料理を食わされて絶叫していたのだが、そんな光景すらもロリコーン紳士にとっては御褒美。私めならば喜んで食しますのにっ。と悔しげに唇を噛む。


 ふるふると震えだすロリコーン紳士がかっと目を開く。

 瞑想終わりか。っと立ち上がるユイアとバルス。

 アニアと話しこんでいたエンリカも休憩は終わりだと立ち上がるのだった。


「なんか、あの森見ると聖樹の森に三人で入った時のこと思い出すな」


「あー、少し前の事なのに随分昔って感じがするわね」


「ふふ。あそこでバズさんに出会えたんですから、私は二人に感謝してますよ?」


 人生、何が起こるか分からないもんだな。バルスとユイアはつくづくとそう思うのだった。

 ユイアだけはさらに、現状に満足してたらいつかバルスにもエンリカみたいなのが現れかねない……か。告白……しちゃおっかな。とか思ったりはしたようだが。


「にしても、何とも言えないパーティーだよね。人間二人にエルフ一人、妖精と偽人の五人パーティーって」


「確かに変な気もするけどさ、ほら、俺とロリコーン紳士が前衛でエンリカが中衛、アニアとユイアが後衛になればバランスはいいだろ?」


「エンリカは最近前衛というか、最前衛だけどね」


「ええ。セレディさんと殴り合ってるせいか、弓より打撃ばかりが強くなっていって」


「もうグラップラーめざしなよ。世界取れるよ」


「いらないし。私が欲しいのはバズからの愛だけよ?」


 お熱い事で。とバルスとユイアはオリーの森へと分け入って行く。

 それに続くエンリカとアニア。

 ロリコーン紳士は先行して森に入ってしまっている。


 森に入ると同時に、わらわらとでてくる無数のオリー。

 オリークイーンがあるせいか出現率がかなり高い。

 少しでも一所に留まれば、即座にオリーに取り囲まれ、周囲からは姿すら見えなくなるだろう。


 現に、既にロリコーン紳士の姿が見えない。

 いや、オリーが吹き飛んでるのが見えるので、オリーが集っている場所に居るのは確かなのだが、あまりに多いオリーの数に苦戦気味らしい。

 ダメージ自体は殆どないので動きにくいだけのようではあるが。


 そして、こういう時ほどエンリカの腕力が物を言う。

 両手に持ったオリーをぶぐちゅっと合わせて押しつぶし、その塊でボーリング。

 無数のオリー達を巻き込んだ高速の塊が消えて行く。

 硬球と化したオリー玉のせいで無数のオリーが犠牲になった。

 オリー以外に犠牲が出ない事を祈るしかないだろう。


 バルスはそんな事を思いながらオリーを伐採する。

 今まで剣を振るう機会が殆ど無かったのだが、こうやってオリーを倒して行くと自信が芽生えだすのが自覚出来てしまう。

 気分が高揚して夢中で伐採した。

 だから、気付くのが遅れた。

 次に切り裂いた魔物が、オリーではなくオリーに隠れていたタマネギンだったということに……


「ぎぃやぁぁぁぁぁぁっ!?」


「バルスどうし……あぁ……」


 悲鳴に振り返ったユイアがその現状に気付いて溜息を吐く。


「調子に乗り過ぎ」


「うえぇ、目が、目がぁ」


 転げ回るバルスに水筒を取り出したユイアは彼の目元を洗ってやる。

 甲斐甲斐しく世話をし始めた彼女の周囲を、エンリカがわざわざフォローに入ってくれていた。

 ソレを見たアニアはいやいや、戦闘中だから、イチャイチャすんなし。爆死しろ。と思ったが、口には出さないでおいた。


 本人たちすら気付いてないバカップルをわざわざ認識させてやるおせっかいさはアニアには無いのである。

 妖精の輪ガリートラップを発動させて範囲内のオリーを一網打尽。

 耐久力の弱い妖精でも楽に狩れる魔物なので、アニアは一部オリーをかじったりして食事しながら少しづつ敵を狩って行くのだった。


「ふぅ。酷い目にあった」


「調子に乗るからよ、バカ」


 呆れた口調のユイア。立ちあがったバルスはむっとしながらも、何も言えないでいた。自分でも分かっているので反論できないのだ。

 そんなバルスは、ふと、視線の先にチューリップの花が揺れているのに気付く。

 目を擦って凝視すると、花の下には緑色の髪がある。


「アルセ?」


「へ? 何言って……あ、ホントだ」


 気付いた二人の視線が向くと、アルセらしき少女は踵を返して走り去る。

 オリーの波を揺れ動くチューリップの花に、二人は思わず彼女を追っていた。

 ここに居るはずのないことは分かっていたが、確かめずにはいられなかったのだ。


「? ダメ! バルス戻って!」


 エンリカが気付くが、バルス達にその声は届かなかった。

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