AE(アナザーエピソード)その変態紳士の物語を僕は知らない3
その姿はフェンシングを思わせる。
ロリコーン紳士の立ち振る舞いに、ポスターを構えたヘイオは攻めあぐねていた。
隙が……見当たらない。
幼女を背にした男の力は、自分を軽く超えている。
存在進化した自分なら何が相手だろうと勝てる。そう思っていた。
事実何度もパティアに辿りつけたことで自信も生まれていた。
その自信すらも打ち砕く、憎き宿敵。
だが……
知らず、ヘイオは舌舐めずりしていた。
敵が強大であれば強大である程に、萌える!
「なんだなぁぁぁぁぁッ!!」
一撃必殺とばかりに走る。ポスターによる一閃。
バシッと叩かれるような感覚と共にステッキの先端が襲いかかる。
驚いたヘイオの鼻面に強烈な一撃が突っ込んできた。
「ぶふぉっ!?」
鼻骨が砕ける音がしてヘイオは鼻を押さえて転がり悶絶。
上を見上げれば、ロリコーン紳士が所詮はその程度か。といった顔で見下していた。
冗談じゃない。こんな野郎に負けたままパティアを手に入れずに終われる訳が無い。
「なんだなぁッ!!」
怒りを燃やし、服を脱ぎ去る。
デブった腹が服から解放され、たぷんっと揺れた。
全ての衣類を脱ぎ去ると、もはや自分に負ける要素は一つも無い。そんな気分になる程の昂揚を覚える。
「ふぉっ」
連続して突いて来るロリコーン紳士。
ステッキの一撃一撃は避けることは難しい、しかしヘイオは攻撃を受けながらも強化ポスターをロリコーン紳士に叩き付けることが出来た。
「ふぐぉっ!?」
顔面に喰らったロリコーン紳士が仰け反る。好機! とばかりにロリコーン紳士を押し飛ばしパティアに抱き付く。と、足を踏み出しかけたヘイオは殺気を感じて慌てて飛び退いた。
雷撃が上空からヘイオに襲い掛かる。
まさに天からの一撃。
何だこれは!?
驚くヘイオの視線の先に、先程まで幼女に祈りを捧げていた神父がヘイオを見ているのが見えた。
奴か!?
「おや、外しましたか? 天罰は幼女に仇成す者を断罪する神の一撃のはずですが……まだ神の許容範囲だったようですね。口付けされたと言われてましたが、口と口はまだだったようで。それがわかっただけでも不幸中の幸いですね」
魔法使い。神父なだけではないらしい。
ヘイオにとっては面倒な相手だ。しかし、何も今まで魔法使いを相手にしなかったわけじゃない。
もう一度、パティアを視界に収める。
待っていてくれパティアたん。僕が、僕が必ず迎えにいくんだなっ!
そんな思いを力に変えて、ヘイオは神父に向って突撃した。
「こちらに来ますか。天罰ですよ」
ヘイオは接敵と同時にポスターを振り上げる。その顔面を何かの角が襲いかかってきた。
ごすっと顔面がヘコムかと思える程の衝撃を受け、再び転倒。
転げ回る視界の先で、分厚い聖書を手にした神父がおやおや。と息を吐いているのが見えた。
「では氷漬けにしてさっさと始末させていただきましょうか。アクコーンやアクリコーンに変化する前に倒しますよ。コ・ルラリカ!」
まだだ。まだ負けてない!
ヘイオがなんとか立ちあがった時だった。
氷結魔法が彼を包み込む。
まだだ。まだ僕は……
「な、なんだなぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
悲痛な叫びだった。
まだ、パティアに思いを伝えてない。パティアを手に入れてない。僕は、僕は……っ。
最後まで諦めることなく叫ぶヘイオは、氷の檻に閉ざされる。
「フォッ」
すまない、油断した。
ロリコーン紳士が戻ってきたのを確認し、ロリデッス神父は安堵の息を漏らす。
「倒したんですか?」
「バルスさん、その疑問はフラグですよ。まぁ実際倒し切れてはいません。ロリコーンはしぶとい生物ですからね。やるなら動きを止めてからが一番なのですよ。では紳士殿、お手数ですがアレの破壊を……!?」
「なん、だなぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
ロリデッスの予想より数倍速く、ヘイオは氷の檻を内側から割り砕いた。
衝撃で弾け飛び、霧散し、綺麗な虹を描きだす氷の粉が宙を舞う。
荒くなった息を整えつつ、さらにパティアを凝視する。
久しく忘れていた。この気持ち。
ガムシャラにただ一人だけを見つめ、ただ一人に会うためだけを思い、全力で行動するこの感情。
ヘイオはその時、ただ一人のロリコーンに戻った気分だった。
その目を察したのだろう。ロリコーン紳士は上着を脱ぎ去った。
バサリと宙を舞うロリコーン紳士の服。そしてスラックス。
全裸へと変化したロリコーン紳士がステッキを構える。
奴も本気になったらしい。
鍛え上げられた肉体美を見せられ、ヘイオはムッとした顔をしてしまうが、これを撃破しなければパティアに辿りつけないと思い直し、強化ポスターを構える。
変態達の第二次戦闘が開始されようとしていた。




