表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
間幕 その王国やエルフの村で起こったことを僕は知らない
436/1818

SSその冒険者が見た悪夢を僕は知るよしもない・後編

「見つけた。オークだ」


 そこに居たのは二人の女性だった。

 否、オークを人と数えるのはおかしいか? 一人のエルフと一匹のオークというべきだろうか?

 まぁいい。とりあえず人として数えておこう。

 ギルバーツはそんなどうでもいいことを思い浮かべつつ茂みから二人を覗きこむ。

 どうやらオークの方は武装していて分かりにくいがメスのようだ。


 対するエルフは不敵な態度で微笑みを浮かべている。

 初めは襲われているのかと思ったがどうも様子がおかしい。

 ギルバーツの覗く横からアキハが茂みを掻き分け覗きこむ。


「アレ……セレディさんじゃない?」


「何? 確かに似てる防具だが、本人か? いや、君が言うのならばそうなのだろうな。プリケツマスター」


「その称号止めてよ。二つ名についちゃうじゃない。恥ずかしい」


「あれ? アキハまだ付いて無かったの? いいじゃんプリケツマスター。むしろマイスター?」


「オスのプリケツは渡さないわよ?」


「いらないわよ」


 覗きこんでいると、どうやら話をしている所だったらしいセレディとエルフ。

 なぜか二人して近づき始めた。と思った次の瞬間だった。

 見えなかった。その一撃を。

 気が付けば、互いの顔面に相手の拳が突き刺さっていた。

 ギルバーツたちは呆然とその光景を見つめてしまう。


 今、何が起こったのだろうか?

 二人の女性は一瞬、停止したように沈黙し、次の瞬間、拳を引き抜くと同時に逆の拳を打ち込む。

 互いに一歩も譲らず繰り返し始める顔面攻撃。

 見ている方が痛々しい。


 綺麗だったエルフの顔がボコボコになっていく。完全に全力で殴りつけているのが理解できた。

 セレディの顔も腫れ上がっている。瞼を切ったようで血が流れだしていた。

 さすがに見ていられなかったようで女性陣が目を背けている。


 何が起こったかは分からないが、参戦する気にはなれなかった。

 次元が違う。といえばいいのだろうか?

 ただ殴り合うだけなのに周囲が抉れ飛ぶという謎の怪現象。


 大地が抉れ、木が圧し折れ、鳥たちが一斉に飛び立つ。

 周囲から逃げて行く獣の気配。雄たけびとも悲鳴ともつかない魔物の鳴き声が遠ざかっていく。

 空気に揺らめきが生じ、真空波が草を消し飛ばす。


 鬼気迫る顔で相手を殴る女たちを見て、パーティー内の女性陣は完全に震えあがっている。

 だが、なぜだろう? ギルバーツは己の内側から溢れ出るような感情に戸惑いを覚えていた。

 闘うセレディを見ていると、その揺れるプリケツを見ていると、素敵だ。としか思えなくなるのだ。


 だが、次の瞬間、ギルバーツは顔を青くした。

 セレディとエルフは腰元にあった銃を同時に抜くと、相手のどてっ腹目掛けて躊躇い無く打ち込む。

 互いに避ける暇なく銃弾が撃ち込まれた瞬間、ギルバーツは慌てて飛び出そうとしてアキハに止められた。


 何故止める!? そんな視線を、彼女は視線を動かす事でギルバーツに教えた。

 彼が再び前を振り向くと、なぜか何事も無かったかのように楽しげな会話を始めるセレディとエルフ。

 理解不能だった。さっきまで憎々しい仇とばかりに殺伐とした殴り合いをしていたのに、急に相手をベタ褒めするような気色悪い会話で笑い合っている。


 なぜだ? と思っていると、背後の茂みが揺れた。

 しまった、バックアタック!?

 慌ててギルバーツが剣に手を掛ける。


 現れたのは右目に刀傷を持つオークだった。

 その凛々しく堂々とした立ち振る舞いに、思わず魅入ってしまう。

 ソルティアラがオークのケツを見て素敵とか涎を垂らしたことで我に返る。


 ギルバーツたちを一瞥したオークは、何をしているのだろう? と首を捻って前に歩きだす。

 その背後から連なるように現れるオークの群れ。

 いや、オークではなく子オークか。刀傷のオーク以外は彼の半分ほどの大きさも無い。

 皆がまるでヤカルガモのようにオークの後ろをひょこひょこプリプリ付いていく姿はもう……御褒美だった。


『オークのプリケツを愛でる会』パーティーメンバーは思わずその行列を見守り、プリケツを堪能してしまっていた。

 気付いた時にはそのオークがセレディとエルフのもとへと辿りついた後だ。

 なぜかオークの腕に絡みついたエルフはバカップルのように歩きだす。

 それを悔しげに睨みながら隣を歩きだすセレディが去っていく。


 そんな光景を、ギルバーツはただただ呆然と魅入っていた。

 ここのオークの危険性? そんなモノある訳が無い。というか、理解した。

 あんな芸当が出来てオークと腕組むようなエルフは一人しかいるまい。


「あのエルフ、最近噂の拳王エンリカじゃねぇか」


 ギルバーツの言葉に今気付いたようにアキハも頷いた。


「あっちのオスオーク。バズ様だわ。オーク村で噂になってるエルフを娶ったマイネフラン救国の大英雄。守護豚バズ。こんなところに住んでいたのね」


「という事は……この近辺で見掛けられるオークって、二人の子供?」


「え? じゃあ今のエルフがオークマザー!? じゃあここのオーク狩ったりしたら……」


 刹那脳裏をよぎるのは、酒場やギルドで聞いた拳王エンリカの嘘みたいな本当の伝説。

 あの凶悪な男の敵とされていたロウ・タリアンを、バズの唇を奪った泥棒猫という理由でタコ殴りにしたあと、ケツにダイナマイト突き刺して爆殺した。とか、バズとの結婚を反対した両親を精神崩壊させ、幼児化させた。とか、気に食わないという理由で妖精郷の妖精たち全員を矢で射ぬいたとか。ツッパリの新しい進化先の暴走を一人で止めて殲滅したとか。もはや魔王と言われても納得する傍若無人振りである。


 もしも、その愛しき子供たちを切ったり倒したりしてしまったら……?

 全員がその思考に思い至り、同時に全身を絶望で震わせた。

 ……惨劇が、始まる。

 それはもう、マイネフラン国など一夜で廃墟と化す程の危機が目の前に存在しているのと同義である。触れてはならない。絶対に、この森のオークに手を出してはならない。


 ギルバーツたちの依頼報告で、マイネフラン国はゴボル平原からコーカサスの森周辺のオーク討伐禁止令を発布する事態となったのだった。

 違反者は見つけ次第切り捨て御免。捕まえたとしても死刑に相当する重罪と化したという。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ